『case48 巻き散らかされた雪』
大量の雪が積もったことで、バイト先でも最初の仕事は雪かきだった。別に雪かきをすること事態は嫌いじゃないが、さすがに量が量なだけに嫌気もさしてくる。
民家に囲まれたお店だから、お店の駐車場をどけて歩道の雪もどける。回りの家は降り続ける雪にたいして諦めたのか一切どけられていない。僕が来る前に他のバイトの人がどけといたからか、他のところに比べると雪は少なかったので、20分くらいで指定された場所の雪かきが終った。お店に入ると他のバイトの人がタオルを持ってきてくれて
「天野さん、お疲れ様です。これ店長からです。」
僕はタオルを受け取って濡れている部分を吹きながら、
「雪かきしといてくれたから、そんなに疲れなかったよ。」
「でも、どけてもどけても降ってきますからね。
嫌になりますよね。
それにお隣の人とか全然どけてないじゃないですか。昨日なんて、何で自分のとこしかどけないんだって文句言われたんですよ。自分がどけたくないからって、こっちに文句言われても困りますよね。」
「それで、何て返したの?」
「他の仕事もあって、そちらまでしている余裕がないんです、って言いました。それでもなんかぶつぶつと言ってました。」
「その人は雪かきはしたの?」
「そこなんですよ!
お店に戻って、フッと外を見るとその文句をいってた人が私がどけたところに雪を巻き散らかしてるんです。ひどいと思いませんか?」
「ひどいね、店長は何か言ってた?」
「あの人は毎年あんな感じだから気にしなくていいよって言ってました。あっ!ほら、あの人です。」
僕が外を見ると、おばさんが先ほど僕が雪をどけたところに向かって雪を捨てていた。一生懸命とまでは言わないが、頑張ってどけたところにわざわざ雪を捨てられる必要性がない。
「ああ、完璧に嫌がらせだよね。
あんなことして何が楽しいんだろうね。」
「もっと怒った方が良いですよ。
私、文句言ってきます!」
「まぁ、まあ、うざいご近所さんでも、嘘の風評被害とかしてこられたら大変なことになるから、店長も放置してるわけだから。
それに、ああいう人に迷惑をかけるようなことをしている人は天罰が下るもんだよ。」
「天野さん、天罰なんて信じてるんですか?
本当にあるんなら痛い目にあって欲しいもんですよ。」
「アハハ、そうだね…………………」
僕は適当に笑ったが、この子は知らないだけで天罰は存在していて、それを僕は下すことができる。
・対象
おばさん
・行為
人が雪かきをした後のところに雪を捨てる。
・天罰内容
積もった雪を車が巻き上げて、それが全部かかる。
僕は『実行』と心のなかで思った。
天罰は思いの外、速く下っておばさんは僕の目の前で大量の黒くドロドロになった雪をかぶって倒れた。
その様子を横で見ていたバイトの子が奥に走っていき、タオルをもっておばさんのもとへと走っていった。
あんなに文句を言っていたのに、真っ先にタオルをもって駆け寄ることができる、そんな優しい人間なのかと感心する。
迷惑をかける人がいれば、迷惑をかけられた人に駆け寄り、手を差しのべることができる人もいる。
人も捨てがたいなと思う瞬間だった。




