『遭遇』
バイト先に向かって歩いていると、目の前をフードを被った人が歩いている。少し寒い季節になってきたのでだろうか、それともフードを被るというファッションなのかは僕にはわからなかった。
ただ、フラフラと歩いているのがとても気になったのだ
フードを被った人の前からチャラい感じの男が数人やって来て、フードの人にぶつかって、フードの人は倒れた。
ぶつかった男達は謝りもせずにそのまま通りすぎてしまった。
フードの人は倒れたまま起き上がることができないのか、四つん這いになって地面を見ている感じになっていた。
何か怪我をしたのかと思い、僕はフードの人に向かって走り出した。
「なんだよ、あいつマジキモい。」
ぶつかった奴が言う。ぶつかったのはそっちなのに何で被害者のボクが『キモい』とか言われなきゃいけないんだ。
「死ね、死ね、死ね、死ね、ボクにぶつかった奴とそれを見て一緒に笑ってたあの男達、交差点で見えない何かに押されて車に轢かれて死ね。」
ボクが言い終わったところに20代くらいの男の人が駆け寄ってきて、
「大丈夫ですか?怪我されたんですか?」
「あ、えっ、えっと、だ、大丈夫です。
ちょっと気分が悪かっただけですから。」
「そうですか。それならよかったです。お大事にしてください。」
「ありがとう……………ございます。」
ボクが答えると、男の人は僕に笑顔を向けて、離れていった。
はじめてな気がする。誰かに心配して声をかけられたことも、優しく微笑んでもらえたことも。
人間なんてみんな死ねば良いと思っていたし、それは今でも変わらないが、あんな人もいるなら全滅でなくても良いのかもしれないと思いながら、ボク、志士上 絶は思った。
僕は少し悩んでしまった。フードの人は顔色がとても悪い10代の男の子だった。未成年で体調が悪そうな彼をあのままにしておくべきではなかったのではないだろうか?
さらに小さな声だったから、完全には聞き取れなかったが、あの少年は確かに『死ね』と言っていた。
確かにぶつかられたことに対して苛立つ気持ちもわかるし、同じ状況なら僕も言ったかもしれない。
あの男たちも悪いけど、簡単に死ねとか言ってしまう現代の若い子にも少し不安を感じながら、後ろを振り返るとフードの少年は消えていた。




