『あなたの色』
ファミレスに入り、店員に案内されるままに席につくなり僕は聞いた。
「さっきのはどういう意味ですか?」
「それは『シシガ三に殺される』というところの話ですよね?
それなら簡単なことですよ。
シシガ三は、人が死ぬ天罰しか下しませんから、街中で誰かが死ぬ天罰を受けることになっていた場合はシシガ三の天罰を疑う必要があるんです。他の人の天罰の可能性もありますけど、ひどい死に方の時はほとんどがシシガ三の天罰らしいです。
それを止めたら、シシガ三の神の使いによって、その事実がシシガ三に伝えられて、シシガ三の天罰対象にされてしまうんです。
つまり、その人は死ぬってことです。」
「それは……誰から聞いた情報ですか?」
僕が言うと虹川さんはキョトンとした顔で
「えっ?天野さんのお使いさんはそういうことは教えてくれないんです?」
「ええ、僕のことに興味がないらしくて、あまり教えてくれないんです。
虹川さんのえ~と『お使いさん』は色々と教えてくれるんですか?」
「そうですね。
いつも一緒にいて、色んなことを教えてくれますよ。
今も隣にいますしね。」
「そうなんですか?
僕には見えないのでわからないんですけど………………」
僕がそう言うと、虹川さんが
「ちょっと手を出してもらっていいですか?」
僕は意味がわからないまま手を出すと、虹川さんは僕の手を握り
「許可します。」と呟いた。
その瞬間に今まで誰もいなかった虹川さんの隣に女の人が現れた。
僕が驚いていると虹川さんが笑顔で
「候補者には自分のお使いさんがいつでも見えますけど、他の候補者のお使いさんは見えないんです。
ただ、候補者が自分のお使いさんを他の候補者に見せたかったら、その候補者にさわりながら、許可すればいいんです。
そうすると他の候補者のお使いさんが見えるようになるんです。
でもお使いさん、こんなのあった日に教えてくれたよね?」
話しかけられた『お使いさん』は静かな声で
「候補者との接し方はその使いによって違います。
ただ、基本情報の伝達はしなければいけないことになっているのでおかしいですね。
あなたの使いはどんな人ですか?」
「どんなって……………
男の人で背が高くて、ああ、そう言えば大きな翼でした。
あと自分は上級神だから、ゼウス決定戦に関わらなくてもいいから僕には協力しないっていってました。。」
「大きな翼の上級神って、もしかしたら自分のことは『神使』と呼ばせてますか?」
「そうです。そう呼んでます。」
「その人は最上級神ですよ。
ゼウス様の身の回りの世話をすることが仕事で………………」
虹川さんのお使いさんが続きを言おうとしたところで、僕の後ろから手が延びてきて、お使いさんの首を絞めた。そして低い声で
「余計なことをしゃべるな。
中級神の分際で俺を怒らせる気か?」
僕が振り返ると神使が立っていた。虹川さんは何が起こったのがわからずに、あたふたしていたので先程のことを思いだし、「許可する」というと、虹川さんが驚いて
「何してるんですか。やめてください。」
神使は手を離し、
「お前らがこいつに何を吹き込もうがどうでもいいと思っていたが、言って良いことと悪いことがあるんだよ。
お前は一緒に来い。ここに残したまま要らないことを言われても困るからな。」
神使が言うとお使いさんは黙ってうなずき、虹川さんに向かって
「ごめん、トイロまたあとでね。」
そう言って空に向かって飛んでいった。
「怖い人ですね。」
虹川さんが言い、僕もうなずいた。
「まぁ気を取り直して、本来のお話をさせて貰いますね。
私は『神の力』が使えるんですよ。
天野さんはどうですか?」
「僕はまだなんです。どうやったらいいのかもわからなくて、自分で探せっていわれてるんですけど。
虹川さんはどんな能力で、どうやって手に入れたんですか?」
「私、名前が『十人十色』の十色なんですけど、名字も虹川で7色じゃないですか。
私の名前って色に関係することなんです。それでかどうかはわからないんですけど、私の能力は『色』を指定すれば、その色のものを自由に出したりすることができるんです。
ただ、色々と制限があるんでできることは多くないんです。
他にもその人のオーラみたいなのが色で見ることもできて、その人の特徴とか能力みたいなのが見れるんです。」
「そうなんです?
それって、『神の力』とかも見えるんですか?」
「見えますよ。
何人か候補者の人を見かけたことがあって見てみたんです。
炎を使う力の人は赤、植物を使う力の人は緑みたいな感じでした。」
楽しそうに話していた虹川さんは急に暗くなり、
「私、シシガ三も見たことがあるんです。
真っ白なキレイだとさえ思うくらいに白い人がいたので、お使いさんに聞いてみたんです。
そしたら、その人がシシガ三でした。彼の能力が何かは色からは判断できなかったんですけど、その能力で多くの人が殺されてるんだと思うと悲しかったです。」
暗く重たい雰囲気が続いたので、話題を変えるために
「虹川さんのその能力は僕みたいな力をまだ手にしてない人でも見えるんですか?」
「見えますよ。
でも、天野さんはシシガ三と真逆ですね。
真っ黒です。黒っぽい色とかくすんだ感じとかではなく、本当に真っ黒ですね。
これが何の色なのかは私にもわからないです。ただ、汚い感じではなくて、キレイな黒ですね。」
「そうですか……………」
僕は内心がっかりした。色がどうとかは僕にはわからないけど、もしかしたら何かのヒントになるかもしれないと思っていたからだ。
そのがっかりしたのが顔に出ていたのか虹川さんが
「あの、すみません。お役にたてなくて。」
「いえ、虹川さんは悪くないですよ。
勝手に期待した僕がダメだったんです。」
「ご両親に何か話は聞きましたか?
何で自分にこの名前をつけたのかとか、うちはどんな家系なのかとかですけど。」
「父は行方不明なんです。僕が幼い頃に急に消えてしまって、存在すらしていないような扱いをされてました。
母とももう何年もあってないのでわからないですね。」
「あの!
私の名前って珍しいじゃないですか。
この名前の意味は『みんな違って、それぞれの色を見つけて生きてるんだから、何者にもとらわれず自由に生きて欲しい』って両親の願いがこもってるんだそうです。
昔から色のことは気にしてましたし、色彩画とかも得意だったので自分はこれじゃないかなって思ったんです。
例えば、お父さんやお母さんが言った言葉の中にヒントは隠れてるんじゃないかなと思います。
神様候補は『神の一族』から選ばれるらしいですから、どちらかの親の一族がそうだったはずですから。
一族の名前とか聞いてないですか?」
『えーと、神使が天野原一族って言ってました。」
「じゃあ『天野』はどっちの名字ですか?」
「父の方だと思います。おじいちゃんが星河だったので。」
「じゃあ、小さい頃のお父さんの言葉を思い出してください。」
「そう言われても20年近く前のことですから。」
「そうですか。すみません、熱くなっちゃって。」
「いえ、お陰さまで元気が出ました。
ゆっくりでも思い出してみます。」
そのあとも、虹川さんが見かけた候補者のことや天罰の基準についての話をしたりして店を出た。
別れ際に虹川さんが何かを思い出したように
「あの、連絡先の交換してもらっていいですか。
またお会いしたいので。ダメですか?」
女の子から連絡先を聞かれたのがはじめてでどう対応していいかもわからず、
「あっ、はい。」
そう言って携帯を取り出し番号を交換して虹川さんは帰っていった。
僕は携帯の画面を見ながら、初めて登録した女の子の名前を見て、思わずニヤケてしまい、恥ずかしくなって走ってその場をあとにした。




