『case36 散らばった破片』
「天野くん、今日は本当に大丈夫かい?
体調悪そうだし、荷物も重いのあるから無理しないでいいよ。」
運送のバイトだったために、体調が悪そうな僕のことを一緒のトラックに乗る前田さんが心配してくれた。
「すみません、大丈夫です。
それにバイトを一個やめちゃったので、他のバイトを頑張らないと今月厳しいんですよ。」
「ええ、何かあったの?」
僕は昨日のことを前田さんに話した。前田さんは話を聞いているうちに苛立ってきたのか、
「どこのスーパーの何て言う奴だよ。
俺がぶっとばしてやるよ。」
「いやいや、お気持ちはありがたいですけど、もう終わったことですし、僕も反省すべきところはあったので、本当に大丈夫です。」
「そう?
でも頑張りすぎて体調崩す方が大変だからね。
もしきつかったら、早く言ってよ、荷物運ぶの変わるし、トラックで休んでてくれても良いからさ。」
「いや、それは前田さんにご迷惑がかかるじゃないですか。
仕事は頑張ります。それにこのバイトが終われば、次は座ってるだけで良いバイトなので、今日の山場はこのバイトだけなんですよ。」
「今日、まだ働くの?」
「ええ、看板持ちのバイトですよ。
今日は暑くも寒くもないので本当に座ってるだけで済みそうなんでよかったです。」
「ああ、たまに交差点とかで見るよ。
真夏とか大変だよな、あの仕事は。」
前田さんはトラックを発進させながら言った。
その後も色んな雑談をしながらいくつかの荷物を運び終え、道を走っていると前田さんが急にハンドルをきった。
幸い後続車がいなかったので、追突されることもなかったが、僕は驚いて
「どうしたんですか?」
「ああ、ごめんごめん。なんか白いかたまりが道に広がってたから、何かと思って避けちゃったんだ。」
そう言って、トラックを停車させ、
「ちょっと見てくるから、天野くん待っててくれる。」
「あ、僕が行きますよ。
運転席の方って出るのとか危ないじゃないですか。
それに前田さんに甘えてばかりになってるので、少しくらい役に立たないとですしね。」
「え、十分やってもらってるよ。
でも、まあお言葉に甘えようかな。多分、ハッポースチロールとかの破片だと思うし、放置するのも危ないから、このホウキとちり取りでとってきてくれる。ごめんね、よろしく。」
「いえ、じゃあ、さっさとやって来ますね。」
そう言って、僕はトラックから降りて、少し道を戻って散らばった破片を見た。
前田さんが言ったようにハッポースチロールの破片のようだ。
車が来ないかを確認しながら、急いでホウキで破片を集めて、ちり取りに入れていく。
量と破片の大きさから、元の形がそこそこ大きなものだったことがわかる。それが砕けて道一杯に広がっていたということは、何台も車が上を通り、そして誰にも片付けられることなく放置してあったということになるだろう。
僕が運転手でもわざわざ停車させて掃除しようとは思わなかっただろう。だから通りすぎていった車の運転手を責めるつもりはないが、この大きさの物を落としておいて、走り去った落とし主には責任を取ってもらいたいと思い、天罰を下すことにした。
・対象 ハッポースチロールの落とし主
・行為 ハッポースチロールを落としたまま走り去った。
・天罰内容 路上の落下物で車が傷つく。
僕はちり取りで破片を集めながら『実行』と言った。
昨日の『case32 犬のフン』は天罰として評価されていたから、落とし主が誰かわからなくても、おそらく行為だけでも行為者に天罰を下すことはできるのだと思う。
僕がトラックに戻ると前田さんが
「どうだった?」
「ハッポースチロールでした。破片の量からして結構大きかったんじゃないかと思います。」
「そっかー、運送の仕事してるとたまに梱包に使うやつが気づいたらなくなってるとかもあるから、そうかなとは思ったんだよ。」
「よくあることなんですか?」
「最近はないけど、新人時代はたまにあったよ。
悪気はないけどどこで落としたのかを確認してる余裕もないから、ほったらかしにしたこともあったよ。
だから、自分が落ちてるのに気づいたらどけてあげようと思うんだけどね。」
前田さんは本当にすごい人だと思った。自分が落としたことがあっても、素通りしてしまう人だっているはずなのに、それをせずにどけてあげるなんて、誰でもできることじゃないと思った。
天罰を下された人が、前田さんのように行為を反省し、二度とおなじことをしなくなれば良いし、そういう行為をしている人を注意できる人になってくれたら良いなと思った。




