『case34開かない扉・case35守られない信号』
朝、いつもより早く目が覚めたので、バイトの時間より早く着くが出かけようとすると身体中がダルい。
別に風邪を引いたとかそんなことでもなさそうなのに、体が重く、思ったように動けない。
神使が言っていたようにフリーシステムでいくつも天罰を下したための副作用なのだろう。あまりに体が重いのでいつもは使わないバスでバイト先に向かうために部屋を出た。
バス停には仕事先に向かう会社員や学校に向かう学生達がすでに並んでいた。僕も最後尾に並び、バスが来るのを待っていた。
数分後、バスが到着したがドアが開きそうな感じはない。
運転手の方を見ると、何か焦ったようにボタンを操作している。どうやらドアの開閉装置の故障か何かでドアが開かないようだ。
僕はバイトまで時間があったし、特別急いでいたわけではないが、おそらく駅に向かいたい会社員や学校に遅刻してしまうかもしれないという焦りから学生も苛立っている。
ドアが開かないということは、乗客が新たに乗れないだけでなく、乗っている人も降りられないということだ。
人を運ぶ仕事は特別な免許が必要で、そのための試験を合格しているいわば運転のプロである運転手だが、車の状態まではおそらくわかっていないのだろう。
整備不良は整備士やバスの管理を受け持っている会社の責任であって運転手の責任とまでは言えない。
実際にバスには多くの乗客が乗っており、ここに来るまでは正常に装置も稼働していたのだろう。
ただ、通勤・通学の時間帯にバスのドアが開かないという現状は、これからバスを利用する人やすでにバスに乗ってしまった人たちにも多大な迷惑をかけること間違いなしだ。
・対象 バス会社
・行為 整備を怠ったためにドアが開かず、利用客に迷惑をかけた。
・天罰内容 労働監査で運転手の長時間労働が問題視され、罰金を払う。
僕は心の中で『実行』と言った。
運転手が働いていれば当然のことながらバスも動き続けるので部品の消耗や、整備の不備もでるだろう。
何より、会社の方針で長時間労働をしたために事故に繋がったという事案もよく聞くから、会社として体制を見直し今後の営業に繋げてほしいと思いながら、僕は歩いてバイト先に向かうことにした。
『case35守られない信号』
バス停から離れて歩いていると駅前の脇道にはいる信号が赤だったので止まる。駅前ではあるが脇道から出てくる車はほとんどなく、よく『あそこの信号はいらない』といっている人を見るくらいにあまり車が通ることがない。
そのためだろうか、僕が止まっている横をどんどんと人が渡って行く。信号は交通整理が必要な危険がそこにあるからこそ、そこに設置されているのであって、無駄に取り付けられているとは必ずしも言えない。
僕はあまり詳しくはないが、この辺も数年前は駅周辺の再開発がされ、大きな駅前の道ができたし、周辺の建物も新しいものばかりとなっている。
もしかしたら再開発前にはこの脇道が主要な道路だった時があるのかもしれない。
そんなことを思っている間にも数人が信号を無視して渡っていった。
後ろから4歳か5歳くらいの男の子が走ってくる。お母さんと思われる女性がベビーカーを押しながら、「待って先にいかないで」といっているのが聞こえた。
信号は赤だし、子供は止まるだろうと思っていると珍しく脇道から車が出てこようとしていた。
子供の方を見ると、止まりそうな雰囲気はまるでない。それどころか、その前にサラリーマン風の男が信号を無視して渡っていった。
子供もそれに続くかのように交差点に入ろうとしたところで、車も交差点に差しかかろうとしていた。
僕は慌てて、子供を抱き上げた。次の瞬間、車が何事もなかったように交差点を曲がっていった。
後ろからお母さんが走ってきて、
「すみません、ありがとうございます。」
僕にお礼を言って子供を抱き抱える。そして子供に
「何で信号が赤なのに渡ろうとしたの!
いつも言ってるでしょ、赤の時は止まりなさいって。」
「でも、でも、あのおじさんは渡っていったよ?」
子供がさっきのサラリーマン風の男を指差して言う。お母さんもどう言っていいのかわからないようで、黙ってしまった。僕が
「あのおじさんは携帯を見てて、信号を見てなかったんだよ。危ないから、他の人が渡ってても赤信号の時は渡っちゃダメだよ。わかった?」
「うん。」
「本当にありがとうございました。」
お母さんにもう一度お礼を言われ、信号も変わったので僕も
「気を付けてくださいね。」と言って、歩き出した。
今のは偶々僕が横にいて、車が来ていることにも気づいたからよかったけど、もし僕がここに居なければ、そう、バスに乗っていたならあの子はどうなってしまったのかと考えると怖かった。
でも、その原因になったのも、信号を平然と無視していった人たちにあるのだろう。
特に、子供が近くにいるのに渡っていったあのサラリーマンは、悪い手本となっていたことすら気づいていないのだろう。
いいお手本になるべき大人が、危うく事故を起こすような悪い見本になったのだから、見逃すわけにはいかない。
・対象 サラリーマン風の男
・行為 子供の目の前で信号を無視する。
・天罰内容 同じように信号を無視して車にはねられ軽傷をおう。
僕は心の中で『実行』と言い、その場からはなれた。
他にもたくさんの人が信号無視をしていた。でも、一番あの子に悪影響を与えたのはあの男性だったので、彼を代表にして天罰を下した。
信号を無駄だという人がいるかもしれないが、きっとそれは信号を守らず、その意味を無くしている人たちが言っていることなのかもしれない。
先程よりも一段と体が重くなったように感じながら、僕はバイト先に向かった。




