『case33 混ぜるな危険』
「ハア?スーパーのバイトやめたの?」
鈴木さんが驚いて聞いてきた。僕は一部始終を話して、鈴木さんが
「そんなことで辞めたのかよ。もったいないな。
スーパーのレジうちなんて楽だし高給だしでいいことばっかだったのに。」
「まぁ仕方ないですよ。
なんか我慢できなかったですし、普段からその社員の人への不満みたいなのもありましたから。
たまたま今日、その不満が爆発しただけですよ。」
「お疲れ様です。ちょっと聞こえたんですけど、天野さんバイトやめたんですか?」
佐藤くんが休憩でバックヤードに戻ってきて会話に加わった。
「スーパーのレジうちだよ。もったいないと思うだろ佐藤?」
鈴木さんが聞くと佐藤くんは
「大丈夫なんですか、今月バイト代が減ると生活きつくなりません?」
「嫌なこと言わないでよ。今となってはかなり後悔してるんだから。」
「新しいバイト紹介しようか?
紹介料が貰えるのがあるんだよ。」
鈴木さんが言うが僕は
「鈴木さんが紹介してくれるバイトきつい上に給料少ないのが多いのでちょっと………」
「このバイトのシフトを増やせないかですね。」
佐藤くんが言い、僕も賛同する。
「そうだよね。楽だし店長は優しいし、相談してみようかな。」
「嬉しいこといってくれますね。
ただ、今のところバイトが飽和状態でして、これ以上は増やせないかもしれないですよ。」
「あっ、お疲れ様です。そうなんです?」
店長が入ってきて言ったので、僕が聞き返す。
「そうですね~、深夜の時間帯なら空きはあるんですが、天野君のシフト状況だと難しいかもしれないですね。」
「そうですか。他のバイトもあるんで、調整できないか考えます。」
「ところで店長、何で戻ってきたんですか?
俺らまだ休憩時間中ですよね?」
鈴木さんが聞き、店長が
「そうなんですよ。最近の子供はドリンクバーを混ぜて遊ぶ子とかいるでしょう。
あれの対策をしなければいけないんですけど、なかなか効果のあるのがなくて。
鈴木君と天野君は他のところでも働いてるから、他のところではどんな対策をしてるか聞きたかったんですよ。」
「ああ、いますよね。
ジュース混ぜてるだけなら、排水口に捨てて終われるんですけどアイスとか混ぜられるとコップ洗うのが大変なんですよね。
俺の行ってるとこだと、貼り紙して注意するくらいしかしてませんよ。
そんなのお構いなしに混ぜてきますけどね。」
鈴木さんが言い、僕も
「あれはなくならないと思いますよ。
僕の行ってるとこだと、食育の観点からやめましょうみたいな貼り紙が貼ってるんですけど、長文過ぎて誰も見てない感じでした。」
「それはどんな内容なんですか?」
店長に聞かれ、必死に思い出しながら、
「僕も真剣に読んだことないので、うろ覚えなんですけど、確か
『世界にはジュースを飲めない子供がたくさんいます。
あなたが無駄にしているジュースを飲みたくても飲めない人がいるということを考え、資源を無駄にしないようにしましょう。』的なことだったと思います。
あとは、貧困な国の子供たちの話とか、商品は残さないでください的なことだったりが続くみたいな感じです。」
「そうですか………
何か、これをすれば効果があると思うみたいなアイディアはないですか?佐藤君も良ければ何かだしてくれるとありがたいです。」
店長が言い、佐藤くんが
「あれってそんなに損害のあることなんですか?
鈴木さんが言った後片付けの大変さ以外にも、損害があるとは思ってなかったです。」
「あまり言いたくないのですが、ドリンクバーもお金を出して、行っているサービスである以上は、無駄にされること自体が損害ですし、
飲みたいと思った人が飲めなかったり、あるいは、混ぜている間に他のお客様が利用できなかったりすれば、それだけでお店の評判にも関わります。
子供の遊びのために、お店の評判が下がったのではたまったものではないですからね。」
「そんなに大変なことだったんですね。」
佐藤くんが驚いていう。僕が
「口頭で注意してもやめてくれる子達ばかりじゃないですし、大人でもバカみたいにやってる人いますから、子供は注意できても大人は怖くてできないとかもありますし、難しいですね。」
「そうなんですよ、やんちゃそうな子とかも怖いですしね。
天野君たちみたいに男の子なら注意できなくもないけど、女の子とかパートさんにはできないかもしれないとなるとまた別の問題になるしで、対策のたて方も難しいんですよね。」
「ドリンクバーを無くすというのもひとつの手ですよ。
この前違うファミレスに行ったら、前回行ったときはドリンクバーがあったのに無くなってたので驚いたってことありました。
対策ができなかったから、問題をもとから排除したのかもしれないですよ。」
鈴木さんが言い、店長が
「やめるのも簡単じゃないですからね。
ジュースの会社との契約の見直しや器材の撤去やらで、色々とお金もかかりますし、うちは24時間営業ですからどこかで休みを取って作業しなければ行けませんし、ドリンクバーのことだけで休みにはできないですからね。」
「ドリンクバーを混ぜる人がいなくなるのが一番ってことですね。」
佐藤くんが言ったのを聞いて、僕は天罰を下すことにした。
ただ、どのような天罰であれば効果が発揮されるのかを考えてもなかなかうまくいかない。
「あっ、そろそろ天野君と鈴木君は休憩終わりだね。
何かいい案があればでいいから考えといてくれる?」
「わかりました。」
僕と鈴木さんがフロアに出たところで、ドリンクバーの回りに高校生が集まっていた。鈴木さんが
「おい、あれって。」
「そうですね、混ぜてますね。」
「よし、一発かましてくるわ!」
鈴木さんはそう言って高校生が集まっているところに向かい、
「お客様、ドリンクバーはマナーを守ってご利用ください。」
鈴木さんは声を落として低い声で
「調子乗んなよガキども!
片付けるの誰だと思ってんだ、かなり面倒なんだよ。
やるなら全部飲んでから帰れよ、わかったな!」
明らかに高校生たちのテンションは下がったが、不満そうな顔をしている。あれは間違いなく反省していない。
「あれでは意味がないんですよね。」
店長が僕の後ろにいつの間にか立っていて小さい声で言った。
「マナーを守って……か………」
例えば、マナー違反が横行していることを取り上げるテレビ番組で飲まされたらどうだろうか?
自分達で作った飲み物とは言えないあの何色とも言えない液体を責任もって飲めるのかという趣旨の企画をしてもらえれば、いかに不味いものを作っているのか、それを作ることの無意味さが飲むことの辛さがわかるのではないだろうか。
・対象 高校生
・行為 ドリンクバーを混ぜる。
・天罰内容 テレビ番組でマナー違反の罰として、作った液体を最後まで飲まされる。
僕は心の中で『実行』と言った。高校生の彼らの映像が少し変わり、
同じようにドリンクバーで混ぜているときにテレビカメラに囲まれ、作った液体を飲まされているところが写し出された。
涙目になりながら、吐き気を催している人もいる。
テレビの内容としてはおそらく問題があるし、放送後かなりの批判を浴びるかもしれないが、それでもこんなことをしてはいけないと伝えるのには十分過ぎるほどの苦しみを感じていることだろう。
僕がそんなことを思ってると、鈴木さんが戻ってきて
「あれはダメだな。またやるよ、あいつらは。」
「次、やったら彼らはきっとひどい目に遭うから大丈夫ですよ。」
僕の言ったことの意味がわからない鈴木さんは首をかしげていた。




