『case29 歩きスマホの通行人』
神使が教えてくれた『フリープレーシステム』のことを思い出しながら、僕はバイトに向かって街を歩いていた。
大通りに出たところで、足を止めて、町中を見渡してみる。
『神の目』によって、既に天罰が下る人が誰なのかがわかる。見渡す限りで10人くらいは既に天罰が下されている。
そんなことをボーッと考えていると、小さな声で
「歩きスマホしてるやつとかマジうざいは。肩ぶっかったのに謝らなかったし。」
「まぁ、まぁ、そんな怒ったって歩きスマホのやつなんていなくならないんだから、こっちが気を付ければ良いんだよ。」
そんな会話をしながら、男性が目の前を通っていった。
僕が見渡した中にも、何人も歩きスマホの人は沢山いる。中には自転車に乗りながらしている人もいる。
僕は目の前から歩いてくる40代くらいの会社員風の男性を対象にして、『重さ』は『軽度』にして天罰の内容を考えた。
会社員なのだとすると、会社の用事でメールを確認しているのかもしれないし、あるいは社会人として新聞を読む時間がなかったから携帯ニュースで確認しているのかもしれないし。
人それぞれスマホを見ている理由は違うと思うが、他の人の迷惑を考えなければいけない。人通りの中には小さな子供を連れたお母さんだっている。大人が気づかずにぶつかれば怪我をすることだってあるだろう。
天罰を下す理由は見つかった。本来はこんなことも考えなくても良いのかもしれないが、むやみやたらに天罰を下して良いものでもない気がする。
次に天罰の内容だが、今までなら三つの選択肢から選べばよかったが、完全な何もないところから自分で作るのは難しかった。
人それぞれの事情があるとして、重要なことから『それは今見なければいけないの?』と聞きたくなるようなものまであるだろう。
それに天罰を下した中で、他の人の迷惑になってもいけない。
そう考えると、歩きスマホをしている同士でぶつからせれば、お互いに前を見ていなかったわけで、どちらが悪いというわけでもなくなるし、ぶつかるだけなら、そんなにたいした問題にはならないだろう。
そう思って、天罰内容を『歩きスマホをしていた人とぶつかる』にして、心の中で『実行』と言ってみた。
そして、男性を見るとここから数メートル行ったところの道で、同じ年くらいのおじさんとぶつかっている映像が見えた。
これは僕が下した天罰が『実行』されたことを示しているのだと思った。
残念ながら、ぶつかったあとまでは映像に出てこなかったので、その後どうなったか気になったが、バイト先とは正反対で時間もなかったので、追いかけて確認することもできずにバイト先に向かった。




