『フリープレーシステム』
今までで神様ゲームをしていて、一度も聞いたことがないワードに困惑の表情を浮かべる僕と、それを楽しそうに見ていた神使が
「お前がこのゲームの設定で忘れていることがひとつあるはずだ。
それはレベルが上がると解放されるはずだったが、お前には今まで一度もその説明がされていない。
何かわかるか?」
僕は神使の言うことを踏まえて考えてみる。レベルアップとともに解放されるはずだったこと…。
確か、神様レベルが低かった最初は天罰の『重さ』が『軽度』しか選択できなかった。
そこからレベルアップとともに『中』が選べるようになって、『重度』が選べるようになった。
…………そうだ!確かB級になれば、自分の下したい天罰が下せるようになるはずだった。『重さ』を決めたあとで、具体的な天罰を選択する時に、自分で天罰が下せるようになる、4つ目の選択肢ができるはずだった。僕は確認するように神使に向かって
「4つ目の選択肢ですか?」
「その通りだ。
まぁ、正確に言うと少し違うがそこは良いだろう。
『フリープレーシステム』とは、その名の通り『自由にプレーできるようになるシステム』だ。
このシステムは、パソコンでゲームを起動した時に、天罰を重さにあった範囲で自由に選べるようになるシステムでもある。」
「どういうことですか?」
「意味は簡単だ。『重さ』に見会わない天罰なら、却下される。
最初に『重さ』を選択することは今までと変わらないが、お前の言い方で言うなら、4つ目の選択肢を選択して、自分で天罰を考えたときに、我々が天罰の『重さ』にあっていないと判断すればその天罰は成立しない。
例えば、『軽度』を選んだのに、対象者が死ぬという天罰は、『軽度』の範囲を超えているから認める訳にはいかない。
もし対象者に『死』という制裁を与えるときは『中』以上でなければならない。その内容が事故死なら『中』でかまわないが、意図的に誰かに殺される場合や強い殺意を持って殺すときは『重度』でなければならない。これはあくまで例えだからお前が実際にそんな天罰を下すかは別だがな。」
僕は神使の言うことを理解して、先程の言葉で気になっていることを聞いた。
「さっきの『でもある』ってことは他にも何かあるんてすか?」
「ああ。パソコンでゲームを起動した場合だけでなく、B級以上になれば、パソコンがなくてもゲームをすることができる。
街中で見かけた『迷惑なやつ』に対して、その場で天罰を決めて、心の中で『実行』と言えば、その天罰が実行される。
手順は簡単だ。パソコンと同じように、まず重さを決める。そして、天罰の内容を決めて、パソコンでは『⚡』ボタンを押すところで『実行』と思えば良い。
パソコンと違って結果は『神の目』で見ることができるが、『評価内容』や経験値をどれだけ獲得したかはその場ではわからない。
caseに関しては、街中で一件天罰を下せばそれをカウントして増えていく。お前は今case28まで来ているから、明日街中でフリープレーシステムを使って天罰を下せば、そのcaseが29になり、それ以上をすれば一件ずつcaseが増えていくことになる。
街中で下した天罰に関しては、パソコンで『結果報告』と『評価内容』だけを読むことができるようになってる。
このシステムがあればバイトで忙しいお前も自由にcaseを進めることができるから少しは楽になるだろう。」
「何で今まで教えてくれなかったんですか?」
「天罰を下せば、それだけ精神的・肉体的に疲労がたまる。このフリーシステムは自由に天罰が下せる分だけ、多くのcaseをこなしてしまいがちになる。そうなれば常に疲労状態のお前は確実に体を壊す。
そうなられても困るから、教えなかった。」
「このシステムを使いまくっている人っているんですか?」
僕が聞くと神使は悲しそうな顔をして、
「お前は今のシシガミの経験値を見たか?」
「まだですけど?」
「見てみろ。」
僕は言われた通りにパソコンを操作して上位の方を見る。一位は変わらずシシガミで、経験値は6000に近づいていた。
「これは………」
僕が言葉にできず、黙ると神使が
「シシガミの天罰はすべて人が死ぬものだ。
この経験値の分だけ人が死んでいるし、これから死ぬことになる。
シシガミには、『神の力』が顕現しているから、その能力を使った天罰なら、普通に下す天罰よりも経験値が多くなる。
それも重なって、シシガミは断トツと言えるくらいの経験値を得ているわけだ。お前がもし今後、シシガミと対立するようなことになれば、それは『神の力』同士の衝突になる。そのためにもお前は早く『神の力』を手に入れなければいけない。」
「そんなこと言っても……どうやってやればいいのか……」
「望め!神の力とは常に誰かの願いを叶えるためにある。
農家が日照りの時に雨を望むように、奇跡の勝利を望むサポーターのように、そして憎しみから対象の死を…望む者がいるように。
人の望みが『神の力』そのものなんだ。
自分を見つめ直せ、思い出せ、自分が何者かを。
そうすれば、お前はきっと見つけることができる。お前自身の力を。」
そう言って、神使は光に包まれ消えていった。
僕は先程まで神使が立っていた場所を見つめながら、小さく呟いた。
「僕自身の『力』………」




