『消えた名前』
累計経験値1130、1日のノルマ300を終えて、ランク確認システムをみる。
この間見たときは、1000を超えている人が30位くらいだったので、もう少し底上げされているのかと思っていたが、30位の人で1020ぐらい。僕の順位が24位になっていた。
おかしい、前回見たときでも僕より経験値を重ねている人が沢山いたはずなのに、その人達の経験値を追い超したわけでもないのに順位が上がりすぎている気がする。
一人で考えても答えがでなかったため、神使に聞くために、呼び出しボタンを押した。
あたり一面が光に包まれ、不機嫌そうな顔で神使は
「俺は忙しいといってあったはずだが?」
僕はそれを無視して、
「僕の順位がおかしいと思うんです。他の人が頑張っていないとしても、僕より上の人はもっとたくさんいると思うんです。
どう言うことですか?」
神使はめんどうそうにため息をつき、
「前回見たときに候補者の名前を覚えたか?」
「いえ、そんなことはしてないですけど…」
「それなら、日野の名前を探してみろ。」
僕は順位を上げていき、日野さんの名前を探すがどこにもない。
「どういうことですか?何で日野さんの名前がないんですか?」
「この前も言ったが、日野は不正な手段で経験値を稼いでいた。それに対して裁断が下った。
日野の使いは存在ごと消滅されたし、日野本人は最下級神として、天界に連れていかれた。
ゼウス決定戦から脱落して、一番辛く仕事も多い最下級神になって、こき使われてるよ。」
「えっ?そんなこと…」
「そう言えば、お前にはまだ言ってなかったが、このゲームでB級以上になった者は、二度と人間には戻れない。
すでに神になっているのだから、人間界に神の力を持った者を放置しておくわけにはいかないから、天界に連れていかれる。
俺がしつこくゼウスになれなくても良いから上級神になっておけと言っているのはそのためだ。
この前これは言ったな。神は階級を変える手段がゼウス決定戦しかない。だから、天界に行ったあとでお前が苦労したくないなら、今のうちに頑張っておけという意味で俺はアドバイスをしている。」
「じゃあ、日野さんは急に消えた人みたいになるってことですか?」
「不正を行っていた者は人間界からも抹消される。つまり、お前以外の人間には日野の存在自体がなかったことになっている。
まぁ、お前がこのまま天界に行けば事故で死んだことにでもされるんだろう。俺もそうだったからな。」
「じゃあ、あなたもゼウス決定戦で人から神になった人ということですか?」
「そうだ。俺は前回の決定戦で本選まで残ったがゼウスになれなかった者の一人だ。まぁ、仕事が辛いものばかりじゃないから文句はないが面倒なことはたくさんある。」
「僕の順位がおかしいってことは、日野さんの他にも不正をしていた人達がいて、その人達も消されたからということですか?」
神使は黙っていたが、淡々と
「そうだ。
人間の世界でも自殺したいやつってのはいるだろ?
神の世界でも同じだ。言わば、神の世界はブラック企業みたいなもので、下の者ほど仕事がきつく、量も多い。人間が長時間労働を苦に自殺する話を聞くが、神の世界はそれ以上だ。
労働時間の決まりなんてないし、休みだってない。仕事ができていてもいなくても上から次々に仕事が下りてくる。
死にたい神だって出てくる。でも、神は簡単には死ねないから、こう言う機会に正規の手段で消されたい、つまり自殺したい神が沢山いる。
お前の順位が上がりすぎていると感じるのは、それだけ沢山の神が死を願っていたということに他ならない。
そして死を望むのはほとんどが下級神だ。このまま死ぬまで働き続けるのなら死んでしまいたいと思うんだろう。
10年、20年の話じゃない。もっと長く100年以上の話だ。
このままでいるぐらいなら消えてしまいたいと思うほどの重労働なんだよ。」
「それは変えられないんですか?」
「お前と同じことを言っていた奴がいたよ。
でも、変えられないことやどうのしようもないことがありふれているのが世界ってもんだ。変えられない、それだけが事実なんだよ。」
「辛いですね……」
僕が呟くと、神使は少し笑って、
「本当に同じことを言うんだな。
まぁいい。今日は気分が良いからお前に良いことを教えてやる。」
「なんですか?」
「フリープレーシステムだ。」
僕は何のことだか全くわからずに首をかしげて、神使の言ったことを声に出して確認した。
「フリープレーシステム?」




