『ランク確認システム』
case21を終えて、日野さんの言っていた『ランク確認システム』を確認してみることにして、アイコンをクリックする。
表示された画面を見ていく。
日野さんの言った通り、順位・名前・ランク・経験値等が書き込まれていた。
順位は1位から30位までが載っている。僕の名前がないということは、欄外、つまり候補者は30人以上いるということだ。
経験値も僕が累計で600なのに対して、30位の人で1000以上だ。欄外の人で僕より上の人が何人いるかわからないが経験値400の差で欄外になることを考えると何人もいる可能性はある。
僕は順番に順位の上の方を見ていく。
すると、22位のところに『ヒノ』を見つけて目を止める。
経験値は1220となっている。これが日野さんであるなら、かなり進んでいるように見える。確かB級になってから十個くらい天罰を下したといっていたので、500から1220だから720の経験値を10回で得た訳だから単純計算で1回72くらいの経験値を得ていることになる。経験値70を得るのもそんなに簡単なことではない。
そんなことも思いながら、さらに上の順位を見ていく。
順位が7位のところまで来たところで、ランクがBからAにかわっている。
経験値をみると、1800を超えた辺りの人から変わっているので、おそらくA級になるのは1800以上の経験値を獲得する必要があるのだろう。
7位の人で1840、6位の人で1890・・・・。
さらに上の順位を見ていくと3位の人からいっきに経験値が上がっている。3位の人で2650、2位の人で2890、1位の人は・・・・・・‼なんと3600だ。
だんとつで1位の人の名前をみる、『シシガミ ゼツ』。
全く知らない名前なのになぜか恐怖を感じる。何かはわからないが強い力を感じて仕方がない。
一息ついて、画面全体を眺める。これだけみると普通のオンラインゲームの順位表に見えるが、実際は全然違うものだ。
そんなことを考えていると、画面右上に小さなメガホン型のアイコンがある。何か気になってクリックしてみると、部屋一面がまぶしいくらいの光に包まれた。
光が収まってくるとそこにひとつの人影が現れる。大きな翼を広げて現れたのは神使だった。
あきれた顔で僕を見下しながら、神使が
「一応、聞いておく。何かようか?」
僕は突然あらわれた神使に驚いていて何も言えないでいると
「やはり、呼び出したのはたまたまか。
ついでだから説明しておくが、そのアイコンはB級以上の候補者が担当の補佐役を呼び出すものだ。
本来なら何か困ったことやわからないことがあった場合に使う。」
「だから、『何かようか?』って聞いたのか。
でも、そんなアイコンがあることなんて今まで説明されなかったじゃないか。」
「あたりまえだ。
私がしていない説明を他の誰かがしてくれるわけないだろう。」
神使がサラッと言ったことの中に引っ掛かるのがあり、
「じゃあ、このゲームの評価をしているのも全部あなたということですか?」
神使は明らかに面倒くさそうな顔をして、ため息をつき、
「日野という男が言っていただろう。使いが望む天罰を下せるやつは経験値がたくさん貰えるみたいなことを。」
思い返してみれば確かに日野さんはこんなようなことを言っていた。つまり、日野さんはこの事をすでに知っていたということなのに、僕には教えてくれなかった。
それは日野さんが僕に情報を教えなかったことを意味していた。
「日野が『使い』の呼び出し方を教えてくれなかったのがそんなにショックか?
俺は言ったはずだぞ、あいつは信用しない方がいいと。」
「日野さんだって知らなかったのかも・・・・しれないだろ。」
必死に否定してみるが自分でも歯切れの悪い言い訳にをしているようにしか思えない状態だった。
そんな僕をみて、神使はうっすらと笑みを浮かべて、
「それはないな。
日野の補佐役は、日野にぴったりとくっついて行動を共にしている。あいつのランクが22位なのは補佐役が『協力』しているからだ。そうでもしなければあの程度の男があのランクにはなれないからな。」
「そ、その協力ってなんだ・・ですか?」
「言葉遣いには気を付けた方がいいな。
私はお前に興味がない。お前に情報をやるかどうかは私の気分次第なんだからな。わかったか?」
僕は黙ってうなずき、神使は満足したのか
「例えば、お前が天罰を下すと俺達補佐役は自分の主観で『神の天罰』として相応しいのかを判断して評価を決める。
その評価に対して経験値がお前らに配られるシステムになっている。だが、あくまでこの評価は補佐役の主観で決められるからクズみたいな天罰であっても評価を良くできる。
これが『協力』だ。まぁ、私はお前に協力する気はないがな。」
「じゃあ、日野さんの補佐役の人は日野さんが『ゼウス』になることを本気で応援しているから、その『協力』をしているんですか?」
神使は鼻で笑い、
「そんなはずないだろう。
さっきも言ったがあの程度の男では二次予選を通過できても、本選では残れない。
その事をあいつの補佐役もわかっている。だから、補佐役のやつは人を傷つけて遊んでいるだけだ。
わざと誰かが傷つくような天罰をするように誘導して日野を通して天罰を下し、傷ついた人間をみて遊んでいる。
日野はその事に全く気がついていない。」
「あ、あの補佐役ってなんなんですか?
何が目的でいるんですか?」
「ハァ~、まぁ良いだろう。
補佐役は候補者が『ゼウス』になるために必要な知識や技術を伝えていくためにいる。
補佐役のメリットは2つだ。
1つは自分が補佐した候補者がゼウスになることで、後見人としての地位を得て、その候補者がゼウスでなくなるまで偉そうにできること。
2つめは下級神だった者でも候補者をゼウスにすることができれば上級神になることができることだ。
基本的に神のランクは変えることができない。
最初のランクのまま生涯を終えることになる。
当然、下級神は仕事も辛く多い。しかもそのほとんどが雑用で重要な仕事などさせてももらえない。
そんなランクを変える唯一の手段が『ゼウス決定戦』の補佐役になることだ。
日野の補佐役は下級神だから、最初は日野に期待していたのかもしれないが今では諦めているようだな。」
補佐役のメリットやそのシステムについても理解ができた。でも、わからないことがひとつあった。
「あなたは、そのメリットが欲しくないんですか?」
「私は既に上級神で何不自由ない生活をしている。
それに、ゼウスの後見人にも興味はない、だから、私がお前のために労力を使うことに意味はない。
それに日野の補佐役がやっていることは補佐役規定に反する行為で露見すれば消滅させられる行為だ。
補佐役がいなくなれば候補者もその時点で失格となる。
そんな危ない橋を渡ってまでお前に肩入れするつもりは丸でないと言うことだ。」
神使の言うこともわかる。既に上級神であるなら無茶なことをする必要はないのだろうが、それでも今こうして現れていることがわからないこと。補佐する気がないならここに来ている意味かわからない。
「僕に興味がないなら何で呼び出しに応じたんですか?」
「それも・・・一応規定だからだ。」
今までと違い神使は少し言いよどんだ気がした。
「他の補佐役も同じような考えなんですか?」
「私とか、それとも日野の補佐役とか?」
「両方です。」
神使はじっと僕を見てから、
「中には本気で自分の候補者を『ゼウス』にしようとしている者もいる。その反対に興味もまったく示さずに補佐役規定すらも無視している者もいた。私はまだ規定には準じて行動しているだけましな方だと思えば良い。」
「その規定を守っていない補佐役にベナルティはないんですか?」
「『ゼウス決定戦』は強制ではない。だから、補佐役に選ばれたからといって参加するかは自由だ。
ただ、補佐役なしに一次予選を通過することはできない。」
「僕に興味がないなら何で参加しているんですか?」
「上司の命令で仕方なくだ。
本来なら自分の仕事で手一杯なんだからな。」
「本気で候補者をゼウスにしようとしている補佐役っていうのは具体的に何をしているんですか?」
「積極的に情報を教えたり、このゲームについて詳細に説明したりしている。他にもさっき言った『協力』と同じようなことをしているやつもいる。」
「でも、それは規定違反なんですよね?」
「違反にならない場合がある。候補者と補佐役はランダムで組み合わされるが、同じような思想をもった組み合わせというのがごく稀に出る。
そういった組み合わせは、天罰の種類も似たような価値観から選ぶから、補佐役が本来の自分の主観のままに評価をしても高評価を出せることがある。
そうなれば、自動的に経験値が高くなり、順位は上がっていくという感じになる。やっていることは日野の補佐役と一緒だが、日野の補佐役と違い主観をねじ曲げて高評価を出している訳ではないから規定に違反しない。」
「じゃあ、順位の高い人の補佐役はそういう補佐役ばかりということですか?」
「2位、3位の補佐役はそうでもないが1位の補佐役は完全に当てはまるな。」
「だから、3600も経験値があるのか・・・・・・」
「ついでに教えておいてやる。
1位のシシガミというやつは、人類を滅ぼそうとしているやつだ。つまり、このままシシガミがゼウスになれば、人類は絶滅する。お前はどうする?」
「どうって、そんなこと言われても、この経験値差を覆せるとも思えないし・・・・・・」
「諦めて人類滅亡の日を待つか?
私はそれでもかまわないがな。」
「何か、何か策はないですか?そのシシガミをゼウスにしないための策は。」
「あるぞ。」
「本当ですか?」
「経験値を毎日300ずつ貯めろ。そして上位に食い込め。
期間以内に上位30位以内に残っている者が本選への出場権を得る。本選にでさえすれば、シシガミの邪魔をできるかもしれない。」
「本選は何をするんですか?」
「知らん。まだ私たちにも知らされていないからな。
お前のすべきことは1日にひとつでも多くcaseを行って、経験値を貯めて、『神の力』を発現して30位以内に入ることだ。
力なしに本選は勝てないからな。」
そこまで言ったところで神使の体が眩しくひかり、
「時間だ。とりあえずcaseをこなせ。わかったな。」
僕が返事する前に神使は一層眩い光を放って消えてしまった。
『caseをこなす。』とりあえず言われたことをしてみようと思い、とりあえず今、起こったことを整理することにし、パソコンを閉じた。




