『同志?』
「遅れてすみません。」
神使と話していたため、余裕を持って出かけたにもかかわらず、日野さんとの待ち合わせの時間に遅れてしまって僕は謝った。
日野さんは笑顔で
「大丈夫だよ。この後は特に予定がないから。」
そう言って許してくれた。そして
「いきなりで悪いんだけど、B級にはなったんだよね?」
「はい。あっ、でも、まだ何も『神の力』が発現する兆候もない状態です。
日野さんはどうですか?」
「僕も変わらないかな。自分の『力』がどんなものか知りたくて、B級になってから10個くらい天罰を下してみたけど、何も変わった気がしないね。
『力』は個人の資質や一族に由来するらしいけど、神の一族としての『日野家』を知らないから興味がつきなくてね。」
日野さんは新しいおもちゃを買ってもらう前の子供のような顔で話している。神使の言葉が思い浮かぶ。
『日野という男はお前の使い道があるかを判断している』
僕は日野さんにとって新しいおもちゃなのかもしれない。
それでも、情報を得るためには今のところ日野さんしか頼れる人がいない。
そんなことを考えていると日野さんが
「天野くん、どうしたの?」
「あ、すみません。昨日のバイトが深夜まであったのでまだ少し眠たくて。」
『情報は与えるな』と神使は言っていた。その言葉がひっかかったのか、とっさに嘘をついてしまった。
「そうなの?大丈夫?」
日野さんは心配してくれているようだ。今までもそうだったけど日野さんは優しくて、僕を利用しようとしているようには僕には思えなかった。
「大丈夫です。
でも、10個も天罰をしたのに何も起こらないとなると、発現条件は天罰の回数ではなくて別の要因なのかもしれないですね。」
「まぁ、まだ10個だからって可能性も残ってるけど、確かにそうだね。
例えば、火を使う能力なのに、料理をしなかったり、タバコを吸わなかったら火と触れあうことがないから、力に気づけない可能性もあるからね。」
「そうですよね。能力の種類もわからないなら何をしたら良いのかなんて判断できないですから。」
「そう言えば、天野くんはランク機能はもう使った?」
「あっ、まだです。僕は経験値がそんなに高くないのでランクに入るほどじゃないかなと思っていたので。」
「僕も同じようなもんだと思うよ。
でも、ランク機能は使えると思うんだ。
例えば、ランクの表示される名前を頼りに人を探せれば、僕たちと同じように世界を平和にしようとしている『同志』を見つけることができると思うんだ。その人についている『使い』によって、その人の天罰の評価は変わるみたいだけど、経験値がたくさんあるということは『使い』の望む天罰を見事に選択している人物っとてことになると思うんだ。
じゃあ、その『使い』が人間を滅亡させようとしていたら、人が死ぬ系の天罰を好んでいることに繋がるんじゃないかと思うんだ。経験値が高い人が次の『ゼウス』になるとするなら人をたくさん殺してゼウスになる人が出ることになる。
それだけはこの前も言ったけど避けたいと思ってる。」
「それで日野さんはランク機能で、経験値が高い人を探してどうするんですか?」
「とりあえず、連絡が取れないか、会うことはできないかを提案してみるよ。」
「なるほど。
僕は一回も使ってないのでわからないんですけど、ランクの高い人ってどういう感じで表示されるんですか?」
「フルネームがカタカナで表示されるだけだよ。
中には日本人だとは思えない名前もあったから、このゲームの候補者は全世界にいるのかもしれないね。
日本にいるならなんとか会えるかもと思ってたけど、外国の人だと難しそうだよ。」
「そうなんですか?
でも、パソコンゲームだからインターネットで繋がることはできるかもしれないですね。」
「そうなんだけど、実際に会ってみなければどんな人なのかってわからないと思うんだ。
うまく利用されても面白くないしね。」
「た、例えばですけど、その・・・『利用』っていうのは、具体的にどんなことですか?」
日野さんが僕を利用しようとしているなら、どんな手段なのかを知っておけば、利用されることもないかと思って聞いてみると日野さんは驚いた顔で、
「急にどうしたんだい?」
「い、いえ、個人で進めていくゲームなので協力のしようもないかなと思ったんです。
協力できなければ利用もできないかなと思ったんです。」
「ああ、そういうことか。
情報を共有できるだけでも、『利用』といえるし、その人が下した天罰の話を知っていればより良い天罰が下せるようになるかもしれない。
要するに天罰の攻略法を教えてもらうことはできると思うな。
攻略法を使って多くの経験値を得られれば『ゼウス』になる近道になるわけだし。」
「情報の共有ですか・・・・・・。」
「まぁ、難しく考えないようにしよう。
たとえ、情報があったとしても同じような天罰のcaseが来なければ使えないんだし。」
「そうですね・・・・・・。」
僕が答えて、その後も色々な情報を聞いた後、日野さんと別れた。
離れていく天野を見ながら
「どう思う?」
翼を広げ舞い降りた『使い』が、
「何かを吹き込まれた可能性はあるな。
お前に利用されているとでも、言われたのではないか?」
「ああ、そういうことか。
『個人で進めていくゲーム』って、言ってたけどチームを組んでおくことは必要だろ?
最後に誰が一番になるかはその時に決めれば良い、違うか?」
「蹴落とす順番を決めておくことは大事だと思うな。
綺麗事では勝ち残れない、それがこの『ゲーム』だよ。」
『使い』がニヤリと笑う。その意図していることはわからないが、世界を平和にするための犠牲なのだから、そんなことを思いながら
「蹴落とすとしても、同じ平和を願う『同志』なのだから、後で文句も言われないだろ。必要なのは『世界が平和になる』こと、なんだから。」
日野はそう言って、人混みに消えていく。空に舞い上がりながら『使い』が
「世界の平和なんて、どうでも良い。日野がゼウスになることもないだろう。甘い考えの奴等なんて一生奴隷になっちまえば良いのさ。俺のように・・・・・・・・・」
『使い』は悪意のある笑みを浮かべて、傲慢な態度で歩いている日野を見下した。




