『case18 くわえ煙草の自転車』
「case18 中年男性。
自転車に乗りながら煙草を吸っていた。」
情報が少ない。確かに路上喫煙禁止になっている場所は増えてきている。道路の隅や溝などに吸殻が捨ててあるのを見るだけでも、禁止場所が増えてきている事にも納得がいく気がする。
ケース等を持ち歩いて、適切に処理している人もいるのだろうが、ポイ捨てがなくならない限り、誰がいつ捨てるかもわからないので全体で禁止にしなければいけないのだろう。
一部のマナーの悪い喫煙者のせいで、喫煙者全体が肩身の狭い思いをしているのだろう。
その一部の喫煙者が今回の対象者なんだろう。
煙草を吸わない僕からすると自転車や乗り物に乗りながら喫煙する意味がわからない。
煙草を吸うことを『いっぷくする』と言うが、落ち着くためとかそんな意味だと思っていた。車ならまだしも自転車で落ち着きながら煙草を吸うのは難しいのではないだろうか?
迷惑な理由としてはなんだろう?
ケムリが広範囲に撒き散らされることだろうか、それとも歩行者に灰がかかることだろうか、それとも煙草に気をとられて運転操作が雑になる等だろうか? どれにしても迷惑な話だと思う。
前回の反省をいかして、『重さ』から考えなければいけないだろう。昨今、煙草の有害性が取り上げられ、喫煙者だけでなく、その周囲の人にまで悪影響を与えることがテレビ等のメディアで紹介されるようになり、路上喫煙禁止地域の策定や喫煙場所の設置など、煙草を吸えるところを限定する方向に国は動いている。
喫煙者にとって厳しい世の中になったのだろう。
それでも、他人に迷惑がかかるとわかっていながら喫煙することはマナー違反だろう。
『中』では足りない気がしたので『重度』を選択する。
1.強い風が吹いて、熱い灰が自分の手にかかり火傷する。
2.パトロール中の警察官に見つかり、注意され、罰金を請求される。
3.新しい煙草に火をつけようと意識がそれたところで、脇道から車が出てきてひかれる。
路上喫煙禁止場所だったなら2の内容もあり得るだろう。
条例で禁止されていることをすれば、確か軽犯罪法違反で罰金刑が下されることもある。
1は灰がかかってする火傷なら軽症だろうし、喫煙者なら普段からありえる?事なのだろうから、行為を反省するほどの天罰ではないだろう。
3を選択して『決定ボタン』を押す。
確認画面に進み、
・天罰対象
中年男性。
・行為
自転車に乗りながら煙草を吸っていた。
・天罰内容
新しい煙草に火をつけようと意識がそれたところで、脇道から車が出てきてひかれる。
僕は『⚡』ボタンを押した。雷が三本落ちて、
『結果報告』と表示される。
「自転車に乗りながら煙草を吸っていたおじさんは、自分の煙草が原因で咳き込んでいる人がいることもわかっていながら、煙草を吸うのをやめませんでした。
新しい煙草に火をつけようとポケットのライターを取り出そうとしたところで、脇道から車が出てきて轢かれてしまいました。
幸い、車との衝突はさほど激しいものではなかったのですが、火のついたままの煙草をくわえたままだったので、口の中に煙草が入ってしまい、口を大火傷しました。
今回の評価はBです。経験値を40獲得しました。」
B評価なら悪くはないが、ベストの選択ではなかったということだろう。予想外に車との接触での怪我はなかった。
煙草をくわえていたからこそ、おった怪我なのだから適切な天罰だったのではないかと思われた。
『評価内容』に進み、
「今回の天罰は、周囲の迷惑になることだとわかりながら、その行為をやめなかった男性に対しての天罰でした。
自分中心になりがちな世の中であっても、他者と共に生活しているのだから周囲の人のことも尊重しながら生活しなければいけません。それは他者がやられて嫌なことは、他の誰かも嫌だと感じる事であり、周り回って自分にも返ってくることだからです。
他者を尊重するということが、自分を尊重してもらうことに繋がるのだという意識を持つことが大事なのでしょう。
行為を改めることなく、新たな煙草に火をつけようとして車に轢かれた男性は行為の責任を自らの身体的苦痛によって清算した形になりました。口に大火傷をしたため当分は煙草を吸うことも食事をすることも困難になるでしょう。
これをきっかけに『煙草を吸うこと』についても考えられれば良いのですが・・・・。
B級まで経験値あと60。」
男性が直接、行為について考えるかがわからないから、B評価なのだろうか?
僕ならこの状態になれば、禁煙を本気で考えるだろう。
ただ、吸ったことのない人間の意見だとは思う。
吸ってる人からすれば、これくらいの事があっても吸い続けたいものなのかも知れない。
よくわからないが、このおじさんが煙草を吸いながら自転車に乗るのをやめることを願いながらパソコンを閉じた。
翌日、僕は町中で自転車に乗りながら煙草を吸っているおじさんを探したが見つけることはできなかった。
日野さんの言葉がよみがえる。
『天罰が下る前に見つけられるのか疑問だよ。』
日野さんの言う通り、偶然が重ならない限り天罰が下る前に見つけるのは不可能なのだろう。
諦めて帰る天野を上空から見下ろしいるものがいた。
天野に『神使』と名乗った男だ。男は吐き捨てるように言った。
「神とは、時に非情になり、人類を導かねばならない。
天野にその非情さはない。だが、あの人のお気に入りだからな。
どこがいいんだあんなのの。」




