『case14 逆走する自転車』
今日のバイトで、佐藤君がおかしなことを言っていた。
昨日のゲームのことをなんにも覚えていないということだった。
不思議なゲームなだけに、そのような効果があるのかもしれない。でも、鈴木さんはそんなことはなかったから、佐藤君に限ったことなのかもしれない。
「case14 おばあちゃん。
おばあちゃんは、自転車で歩道と車道の間の路側帯と呼ばれる部分を走っていたが、車の進行方向と逆向きに走っている。」
たまに、道を歩いていて若者でもやっている行為だし、なぜおばあちゃんがこれをしたことによって天罰を受けないといけないのかを考えていた。
道で見かける範囲で言えば、若者に比べておばあちゃんはフラフラとしていることが多い気がする。
自転車をこぐ力が弱くなっていたり、バランス感覚の問題だったりでそうなることも仕方ない気がしたが、それでも責められるようなことではない気がした。
逆に車の運転手側から考えるとどうだろう?
車の進行方向と同じ方向でも、路側帯をフラフラと走られているだけで、事故の危険を感じるのに、それが真正面から突っ込んでくるのだから運転手としては気が気じゃないのかもしれない。
双方の立場から考えると仕方ない事情がある気がしたので『中』を選択した。
1.車の来ていない時によろけて転ぶ。
2.自分が車の進行方向と同じ方向の路側帯を走っていたときに、若者が猛スピードで逆走してきて、ぶつかりそうになる。
3.車と接触して歩道側に倒れる。
3はおばあちゃんなだけに、倒れたあとどんな怪我をしてしまうかわからないし、『接触して』というのがどの程度かもわからない。車体にガッツリぶつかれば大怪我になる可能性があるし、サイドミラーがぶつかるくらいなら、倒れるだけですむのかもしれない。
そういう意味では1も同じことが言える。
転んだあとがどうなるかが不確定な感じがする。
2は若者のせいにしてしまうだけで、自分の行いについてまで考えが及ぶのだろうかという部分が不確定である。
ただ、ぶつかり『そう』になるだけでぶつからないのだから、おばあちゃんの体のことを考えると危害がない方が良いと思い、2を選択して『決定ボタン』を押した。確認画面へと進み、
・天罰対象
おばあちゃん
・行為
自転車で逆走する。
・自分が自転車の進行方向と同じ方向の路側帯を走っていたときに、若者が猛スピードで逆走してきて、ぶつかりそうになる。
僕は『⚡』ボタンを押し、雷が2本落ちた。
そして『結果報告』と表示され、
「おばあちゃんが自転車で走っていると大学生くらいの若者が逆走してきてぶつかりそうになりましたが、若者が避けたのでぶつからずにすみました。おばあちゃんは路側帯を走るのが怖くなり、人がいなければできるだけ歩道を走ることにしました。
今回の評価はAです。経験値を30獲得しました。」
おばあちゃんが路側帯を走らなくなったことによって迷惑だと思う人がいなくなったからなのか、最高評価をとることができた。
『評価内容』に進み、
「おばあちゃんが自転車で行動することは、現代において避けられぬ行動になってきているのかもしれません。
ただ、車の少なかった昔を基準として交通ルールを認識している高齢者の方には現代の車事情にあわせて交通ルールを再認識してもらう必要があるのかもしれません。
今回の天罰は、高齢者の身体的事情、特に怪我をする可能性が高い物が多かったです。
そのなかで、怪我をさせずに改心させることができたことは評価に値します。
そのため、A評価になりました。
人に迷惑をかける行為は時と場所、そして人によって違います。
あなたが、あなたの主観で判断し、最適な天罰を下せるようにこれからも精進してください。」
近所の子供の遊ぶ声を騒音と感じるのか元気があって良いと感じるのか、それは人によって考え方が違うというし、騒音と感じる人は保育園の建設などにも反対するのだろうな。
最近見たニュースで確かそんなことを言っていた気がする。
迷惑行為の判断基準が時と場所、人によって違うなら、今の天罰も他の誰かなら違う結果になっていたことになる。
もし3を選んでいる人がいたならおばあちゃんはどうなったのだろう、そんなことを感じながらパソコンを閉じた。
翌日、買い物に出たさきでフラフラのおばあちゃんの乗った自転車を見た。進行方向と逆向きに走っている、あのおばあちゃんがもしかしたら、この後のどこかで若者とぶつかりそうになるのかもしれない。
そう考えた瞬間だった、急に頭を締め付けるような頭痛がして、
おばあちゃんと学生ぽい人の自転車がぶつかりそうになる映像が頭に浮かんだ。
頭を降ってよく見ても、現実はなんにも変わっていなかった。
おばあちゃんは逆走していて、周りに若者もいない。
今のはなんだったのだろう?
そんなことを考えながら歩いていると、目の前を歩いていたサラリーマンがここではないどこかで空き缶を踏んで思いっきり転ぶ映像が頭に浮かぶ。
何が起こっているのか理解できずに、僕は頭を抱え込んで走って家まで走っていった。
頭のなかで『違う、違う。こんなことはあり得ない、こんなことはあり得ない』と思いながら。




