『case13 ガムを吐き捨てる男』
鈴木さんから日野さんという人の話を聞いたその日、僕は佐藤君を家に呼び、『神様ゲーム』を起動した。
残念ながら、鈴木さんは別のバイトだったため来ることができなかったが、鈴木さんの話が本当なら僕はプレーできて佐藤君はプレーできないことになる。
試しに佐藤君がパソコンのマウスを動かしてみる。でも、まったく反応がなく、フリーズしてしまった。
ここまでは鈴木さんの言う通りだったので、僕が代わってマウスを動かしてみると何もなかったように反応している。
「これってどういうことなんですか?」
佐藤君が意味がわからないといった感じで言い、僕も答えかねていると、佐藤君が
「もしかしたら、このゲームがじゃなくて、パソコン自体が僕を拒否してるのかも知れないですね。」
佐藤君も言いながら、自分は何を言っているのだろうと言う顔をしている。僕はパソコンを操作して、1度『神様ゲーム』を閉じた。佐藤君は操作を代わり、マウスを動かしてみる。
でも、今回は何の問題もなく操作ができる。
そして、佐藤君は『神様ゲーム』のアプリのところに行き、クリックするが反応はない。試しに別のものをクリックするとそれは問題なく反応した。僕はそれを見て
「これって、やっぱりそうなんだよ。
僕にしかできないゲームなんだよ。」
「もう・・・・、認めるしかないですよ。
どんな仕組みなのかはわからないですけど、このゲームは限られた人にしかできないゲームなんですね。」
佐藤君は落ち着いているように見えるが、手が少し震えていた。未知のものに恐怖しているのか、それとも未知のものとの遭遇にワクワクしているのかはわからないけど、少なくとも見た目とは違う感情でいることが何となくわかった。
僕は『神様ゲーム』を起動し直して、
「case13 30代男性。
男性はガムを噛みながら歩いていたが、味がなくなったため、包み紙に入れるでもなく、道のはしに向かって吐き捨てた。
こんな感じで、caseが表示されて、この後で天罰の重さを決めるんだよ。」
僕は佐藤君に説明し、佐藤君も画面を覗きこんでcaseを読んでいる。そして、
「この程度の情報から天罰を選ぶのは厳しくないですか?
実際に、この天罰が下ると仮定するなら、もっと詳細にこの男性についての情報が欲しいと思うんですけど。」
「まあ、そうなんだけど・・・。
でも、この行為がどうしてダメなのかとか考えながら天罰を下してる感じだから、プレーヤーの完全な主観で選択させるための情報なのかもしれないよ。」
「なるほど・・・・。
それで、ここで『重さ』を選ぶんですよね?
この『重度』はどんな天罰があるんですか?」
「さあ、『C級神様』から選択できるようになったから、まだどんな内容なのかわからないんだよ。」
「じゃあ、一回やってみましょう。」
「そ、そうだね。僕も興味はあったんだ。」
そう言って、僕はパソコンを操作して『重度』を選択した。
1.同じ道を歩いていて、車に轢かれ軽傷を負う。
2.誰かの捨てたガムを踏みつけ、お気に入りの靴がダメになる。
3.捨ててあったガムを踏みつけ、足をとられて転んだ所に車が通り、右手を踏まれて複雑骨折する。
「佐藤君、重度はかなりヤバイよ。
『軽度』も『中』も怪我するとかはあったけど、もっとかすり傷みたいな感じだったんだ。
こんなガッツリ怪我するのは無かったんだよ。」
「つまり、『中』までは精神的なダメージを重視した天罰で、『重度』からは肉体的に苦痛を与えたり後遺症を残してでも、反省させるための天罰ってことみたいですね。
天野さんはどれが良いと思いますか?」
「ガムを道に捨てただけで、手を複雑骨折ってあり得ないよ。
だいたい、『軽傷』ってどこまでがそうなの?
打撲とか?それとも切り傷とかでもちょっとだけなら『軽傷』なの?
怪我させるくらいなら2のお気に入りの靴がダメになる方がいいんじゃないかな?」
「本当にそうですか?
例えば、鳩とかカラスが捨ててあったガムを食べて、喉につまらせたりして死んでしまったら、誰が処理するんですか?
飛んでる途中で死んで落ちた先で二次災害を起こしたら誰の責任なんですか?
そう考えると、ガムを捨てる行為は実は危険で後々問題を引き起こすような行為なのかもしれないですよ。」
「えっ、そうかな~。じゃあ佐藤君はどれが良いと思うの?」
「1番ですかね。確かに右手を複雑骨折は厳しすぎる気がします。でも、2番だと自分のした行為を棚にあげて、誰がこんなとこに捨てやがったんだって逆ギレしそうじゃないですか?
車にはねられて、ちょっと痛い思いするくらいがいいと思います。」
「そうか、そうだね。じゃあ1にするよ。」
僕はそう言って、『決定ボタン』を押し、確認画面に進む。
・天罰対象
30代男性。
・行為
路上にガムを捨てる。
・天罰内容
同じ道を歩いていて、車に轢かれ軽傷を負う。
僕は『⚡』ボタンを押し、雷が3本人に落ちた。
『結果報告』と表示され、
「男性は自分がガムを捨てた道で運転操作を誤った車がお尻を直撃しました。
幸い命に別状はなかったものの、お尻に大きなアザができ、一週間ほど杖なしでは歩けませんでした。
今回の評価はCです。経験値を30獲得しました。」
「確か、今の最高評価はAのはずだから、あまり良い天罰ではなかったってことみたいだね。」
僕が言うと佐藤君が不服そうに
「じゃあどれが良かったんですか?」
「さあ、どうだろうね。『評価内容』を見てみるよ。」
僕はパソコンを操作して『評価内容』を開く。
「え~と、今回の天罰は確かに痛みを与えることによって、ガムを捨てたことに対しての罰は下せています。
しかし、男性が事故に遭ったのは、あくまでも運転手の誤りが原因です。例えば、事故の原因が男性の捨てたガムが他の異物に見えて避けようとしたためであれば、ガムを捨てたことを後悔させることもできたでしょう。
天罰は、対象が後悔し悔い改めるようなものにする必要がありますので今回の評価はCでした。
なお、今回の天罰はあなたらしくないものでした。
他人の意見に流されるのではなく、自らが信じる正しい天罰を選択することを心がけてください。
だって、なんか見抜かれた感が凄すぎるね。」
僕は佐藤君に話をふるが、佐藤君はぼんやりしていて、僕が話しかけても中々反応が帰ってこなかった。そこで
「佐藤?」
と呼び掛けると、佐藤君は驚いたように
「あっすみません。なんでしたか?」
「いや、この評価すごいねって・・・・・」
「ああ、そうですね。
ちょっとびっくりしちゃいました。
でも、面白そうなゲームですよね。これからも続けてみてくださいよ、また何か変わったことが起こったら教えてください。
じゃあ僕はこれで帰りますね。」
「えっ、もっとゆっくりしていけば?
お茶とかも出してないし・・・・・・」
「大丈夫です。お構い無く。
仕上げなければいけないレポートもありますので、今日はこれで失礼します。」
「そう?じゃあ気を付けてね。」
「はい、お疲れ様でした。」
佐藤君はそう言って荷物をまとめて出ていった。
その様子から、いつもの佐藤くんじゃなかった気がした。
まぁ、あそこまで意味のわからない現象に遭遇したら普段通りではいられないのかもしれないなと思いながら、パソコンを閉じた。
天野の部屋を出た佐藤は突然立ち止まり、
「あれ?僕、どうしたんだっけ?
確か天野さんの部屋でパソコンを触ってて・・・・・。
それからどうしたんだっけ?何も覚えてないや。
また明日、天野さんに聞いてみよ。」
佐藤がそう呟いた遥か上空で
「『ネット』とは便利だが、ここまで情報が速いのも考えものだな。あまり知れ渡るわけにはいけないのだが。
それにしても、天野星は少し単純で人に流されやすい傾向にあるな。『神の力』が具現化する前に手を打つべきかもしれない。」
そう呟いた男の背中には大きな白い羽が生えていた。




