『信頼の証』
壁の移動も終わり、襲撃者達を拘束していたミナモさんや地井さんが戻ってきた。
僕は今回の事件についての後始末の方法を説明した。
ミナモさんは「あまい」と言って不機嫌そうだったが、最終的には「お前が決めることだから」と言ってくれた。地井さんが
「バグはカナミさんが見てるから良いとして、全員を監視下における訳じゃないだろ。
何人かは俺達の下で働いてもらえないかと思うんだよ。
俺達が調べて回れる範囲は狭いし、情報を集めるには人手がいるからな。今後も改善点を探していくなら、色んな情報が必要になるからな。」
「カナミさん、それでも良いですか?」
「俺はそれで構わないよ。
その方が役に立てるなら働くやつらとしてもその方が良いだろうからな。」
少し離れた所にいたカグチさんが、僕に近づき、
「天野、お前の神器をだせ。」
「えっ?何でですか?」
突然言われたので、なぜかと身構えてしまった。カグチさんは怪訝そうな顔で
「お前、俺に会いに来た目的を忘れてるだろ。」
僕がカグチさんを訪ねた目的?少し考えてから思い出して
「ああ!分力のためでした。」
「あきれた奴だな。
お前は俺達が抱えていた問題を解決してくれた。
今まで誰も見向きもしなかった問題だった。
それに水面下にあった問題にも対処してくれたしな。
お前は信頼できるやつだ。いらないのか、分力は?」
僕は慌てて神器を出した。カグチさんが手を当てると炎の印が僕の神器に追加された。火の力がなかったわけではないが、どちらかと言うと火を操るというよりも太陽の熱を操っていたので、新しく炎の力が追加されたのだろう。
「俺はお前が困ってたら助けてやるよ。お前の言う議会とかにも参加してやってもいい。
でも、暇じゃないからな。毎回は行けねぇぞ。」
「ありがとうございます。」
僕が頭を下げるとカナミさんが
「俺も分力してやりたいんだけど下層の派閥のリーダーから貰った後の方がいいな。
俺も困った事があれば手伝わせてもらうよ。」
「よろしくお願いします。」
僕が言うと、カグチさんが頭を掻いて、
「でもそうなると、次はゼノの野郎を何とかしないといけないな。
他の派閥の奴らは俺が声をかければなんとかなるかもしれないがゼノだけは上手くいかないだろうな。」
前に一度カナミさんがゼノという人の話をしていたのを思い出した。
「下層の第一勢力を率いてる人ですよね?
カグチさんからしても厄介な人なんですか?」
カグチは少し困ったように頷いた。
「まぁ、色んな意味でな。
できれば関わりたくないし、アイツの事情を知れば関わらない方が良いと思うかもな。」
黙っていたミナモさんが
「ゼノって言うのは下層の端の方に住んでる『ゼウスの子孫』を自称する男の事か?」
「そうです。」
カナミさんが短く答え、続けて
「その存在自体が怪しい話なんですけど、話を聞くと辻褄があってるように思う所があるんですよ。
それに色んな種類の力を持ってる所もその話に現実味を出してます。」
「ゼウスだった人の子孫ですか?」
僕は話の内容についていけずに聞いた。カグチが
「いや、本物のゼウスの末裔だよ。
力を奪われて死んだ正真正銘の全知全能のゼウスの子孫だ。」
「カグチさんみたいに下層におりたんですか?」
「いや、あいつはずっと下層にいる。
ランクがCCである事が、かつて力を持っていた者の証とも言えるな。」
「本当にゼウスの子孫なんですか?」
僕は確認のために聞いた。
「本当かどうかはあいつにしかわからないだろうな。
まぁ、会えばわかるよ。」
カナミさんがいい、カグチさんが都合のいい日に案内してくれる事になった。
僕は新たに刻まれた炎の印を見て『信頼された証』が増えた事が嬉しかった。