『case10 割り込む男』
「30代会社員男性。
店のレジやバス停の列などに無理矢理割り込み、注意してきた人に対して暴言をはきまくる。
ああ、こんな奴いたらうざいよな。自分が急いでても列はしっかり並べよって思うもんな。」
『神様ゲーム』を起動して、画面に表示された『case10』をクリックした。
自分がされたらと考えると『軽度』では許せないかなと思い、『中』をクリックする。
画面に表示された選択肢は
1.割り込んだ後ろの人がヤクザで怖い思いをする。
2.割り込んだところ、小さな子供に注意され、大恥をかく。
3.割り込んだ前の人が社長の奥さんで後が専務の奥さんだった。
どれも微妙な感じだな。その場に居ずらくなるものばかりだな。
どうだろう?
1に関しては、ヤクザの人が笑って許してくれるのかという疑問が残るし、もし文句を言われたなら、並び直せばいいのか?
2に関しては、大人に暴言をはく人なら子供にも同じようにできるのではないか?それなら怖い思いをするのは子供になるかもしれないな。
3はどうだ?社長の奥さんと専務の奥さんが彼のことを社員だと認識しているのか?そうかどうかで対応は変わるのかな?
難しいな、この後の展開が読めないから、決めきれずに、他の『重さ』ならどんなものかと画面の『◀』を押すが反応がない。
どうやら一度『重さ』を決めると『重さ』の変更は出来ないようだ。
ヤクザが暴行を加える可能性もあるな、子供が危ない目に遭うのはよくないな。じゃあ、もし社長の奥さん達がこの男を知っていても、上司に怒られるくらいだろうと思い、3を選択し、『決定ボタン』を押した。確認画面へと進み、
・天罰対象
30代会社員男性
・行為
レジやバス停の列などに無理矢理割り込み、注意してきた人に対して暴言をはきまくる。
・天罰内容
割り込んだ前の人が社長の奥さんで後が専務の奥さんだった。
と表示される。僕は『⚡』ボタンを押すと、雷が落ちる画面になり、雷が人に落ちた。
画面が切り替わり、『結果報告』と表示される。
「30代会社員男性は、いつものようにバス停で列に割り込んだところ、前に会社の社長の奥さんがいて、後ろに専務の奥さんがいた。どうやら二人は買い物に一緒に行く途中だったようで、気分を害してしまった。
翌日、男性は社長室に呼び出され、
『人の迷惑を考えられんような社員はいらん。君はクビだ。』
と言われて、会社を解雇される。
今回のあなたの天罰は、今まで彼に迷惑をかけられた人達の怒りの代弁者といえる行為ですが、不確定要素(社長夫人が男性を知っていたか)の点が少し考慮不足でした。よって評価はCです。経験値を25獲得しました。」
他の天罰ならどんな結果になっていただろうかと考えてしまう部分があったので、『評価内容』をクリックすると、
「今回の天罰は、自分さえ良ければそれでいいという身勝手な行為に対しての天罰でした。
子供にあんなことをしてはいけないと教える側の年齢の男性がしていることに関して、もっと重い天罰でも良かったかもしれません。
例えば、1のヤクザの前に割り込んだ場合、ヤクザの方から暴行を受けたとしても、彼がルールを守らない行為をした結果なので自業自得です。痛い目にあえば彼は二度と割り込みをしなくなったかもしれません。
今回は偶然、夫人が男性を知っていたから解雇に繋がりましたが、知らなかった場合の天罰の効果が薄かったので、次からは確実に天罰の効果を与えられる選択肢を選ぶ方がいいでしょう。」
翌日、バイト先の飲食店で、常連さんを見かけ、コーヒーのおかわりをサービスしたところ、
「本当に天野君は気がきくし、しっかりしてていいわよね。」
「そうね、それに比べて、あの男は本当にダメよね。」
「ほんとよ。主人の話では営業をさせてたらしいけど、昨日の話をしたら、クビにするって言ってたわ。」
何か引っ掛かったので、
「なんの話ですか?」
「昨日、私たちが買い物に行こうとしたら、うちの主人たちの会社の社員が常識のない行為をしててね、よく聞いたらいつも同じようなことして迷惑をかけてたらしいの。
もう我慢できなくて主人にその話をしたのよ。」
なんだろう、これは昨日の神様ゲームの内容に酷似してる。
「どんな行為をされてたんですか?」
「割り込みよ、割り込み。自分がされたらどんな気持ちになるのか考えなさいって昨日その場で説教したわよ。」
「へ、へぇー、そうですか・・・・」
これは昨日の天罰と全く同じ状況だな。こんな偶然あるか?そう言えばこの前も財布忘れたのだって、色々と・・・
「どうかしたの天野君?」
「何でもないです。」
「そお、何か思い詰めたような顔してたけど?」
「そうですか?まあ、迷惑な人もいるんだなと思いまして。」
「ホントによ。天野君みたいな子が働いてくれたらいいのに。
うちの主人の会社で働かない?」
「ありがとうございます。ここをクビになったらお願いしようかな、何てアハハ・・・」
「そおう、気が変わったら、いつでも言ってね。」
「ありがとうございます、じゃあ僕戻りますね。
ごゆっくりどうぞ。」
僕は会釈をしてその場を離れた。
違う、違う、違う。あれはただのゲームだ。
実際にそんなこと起こるわけない。そうだ、偶々、似たようなことがあっただけだ。
その時の僕は、ただの偶然だと思い込むことしかできなかった。




