『話し合い』
「久しぶりだな。俺の出した条件は了承してくれたってことで良いのか?」
カナミさんの家を訪れると、カナミさんはカグチさんを見るなり聞いた。
「お前が俺のやろうとしてることをわかってくれてるなら、その答えはわかってるんだろ?」
カグチさんが少し強めに言うと、カナミさんは笑いながら、
「当たり前じゃないか。
こちらも譲歩は必要だと思ってる。人には得て不得手があるから、うちの物作りが苦手なやつらをお前らに貸し出すよ。
お前の所なら人数は多いし、まだまだ増えるかもしれないから、森の管理には最適だ。
お前らの仕事の手伝いにこちらがもてあましてる人材を貸すことには異論はないよ。」
僕は内心、ホッとした。ここで二人の意見が食い違えば、また解決しなければいけない問題が増えるところだった。カグチさんが
「お前のその周到な情報収集も怖くなるな。
なんで、俺が人手不足を気にしてると知ってた?」
「簡単に言うなら、下層はどこでも似たような状況だと思ってるし、
俺がお前の立場でも同じような意見を持ったと思ったからだ。
まぁ、最初からお前が何か言ってきても、俺はお前らのマンパワーが得られるなら譲歩するつもりだったけどな。」
「そんなに人が足りてないのか?」
カグチさんが聞いた。各階級の人口比を考えると、キレイなピラミッドになっているので、下層に近いこの場所は中間層のなかでは一番人が多い場所という記録になっている。
人手不足になっているなんて聞いたこともなかった。
カナミさんが、
「まぁ、下層のことで大忙しのカグチも統計でしかこの辺りを知らない天野くんも知らなくて当たり前だけど、この辺に住んでたはずの奴等が急にいなくなることが急増してる。
原因は不明。何者かに連れ去られたような物騒な痕跡は全くないから、本人達が勝手に失踪したと考えられるが、中間層にはランクによる住み分けが決められてるから、移住できたとしても隣の集落くらいまでだから失踪を疑われるような大事にはならない。
まぁ、そんな感じで居なくなる奴が増えて人がいないわけだ。
この辺の派閥はつるんではいるが、結束しているとは言えないし、無所属の奴も多い。だから、友人や親類がいなくならない限り騒ぐこともない。
と、こんな感じで失踪者が放置されて、人手不足になってるわけだよ。」
「お前が何とかすれば良いだろ?」
カグチさんが言い、カナミさんは困ったように
「そうなるのもわかってるんだが、森の管理に、商品の取引、仲の良い奴らの護衛?とかたくさんやることがあって俺だけじゃあどうしようもない。
失踪の件については天野くんに何とかしてもらいたいもんだな。
信用しても良いけど、まだ信頼できると判断したわけじゃない。」
「わかりました。情報を集めてみます。」
僕が言うと、カグチさんが
「じゃあ、壁の場所についてはどうする?
移動するならうちの奴らが力使えば何とか動かせる。
どこまで広げて良いのか、それが問題なんだが?」
「草原の半分くらいでどうだ?
森の近くまで壁を動かすと、壁の存在感が薄れてしまうからこの辺に住んでるじいさんやばあさん、あとは保守的な奴らの反感を買うかもしれないから避けた方がいいな。」
「まぁ、そこまで行ければ、住む場所は十分に確保できるな。
あとの問題は天野、お前のお仲間が壁を動かすことに同意するかだ。嬢ちゃんは一緒に来てるから、俺らの事情もわかってくれてるが、報告を聞いただけの奴らが理解できるとは思えないな。」
僕はそう言われて、地井さんと優輝ちゃん、ミナモさんの顔を思い浮かべた。
優輝ちゃんなら反対はしないだろう。地井さんも地域住民の理解もあり双方に利益があるから反対はないだろう。
ミナモさんに関しては、下層の壁があることすら知らないような気がする。
「わかりました。
報告してみます。
じゃあ虹川さん、一度戻ろうか。」
「わかった。でも、さっきの話は皆にするからね。」
「うん……………わかった。」
僕と虹川さんはカグチさんたちに頭を下げてカナミさんの家を出た。




