『壁』
焚き火の周りには川で採ったものなのか魚が焼かれている。
促されて焚き火の近くに座るとカナミさんと話していた人が近づいてきて、何かのお肉と野菜がのった皿を僕と虹川さんに差し出しながら、
「はじめまして、カゲエと言います。
良かったですよ、君達が攻撃してくるような人じゃなくて。
僕の能力は物の影を大きく転写したり、絵を拡大したりする能力で実体がないから、攻撃とかされると最悪、山火事とかになるかもしれないと思ってひやひやしてたんですよ。」
僕と虹川さんはお皿を受け取り、
「じゃあ、あのバケモノはカゲエさんが作ったものだったんですね。
絵を描いたんですか?」
「アハハ、僕は神様になった人間の子孫だから、子供の頃から製作の力は使えるからね。
僕の想像したものを作ることができるから、あまり絵を描いたりはしないんだよ。
ま、まぁ、絵を描いても上手いんだけどね。」
「嘘つくなよ。
こいつの絵はそれこそバケモノを自然に描けるレベルですよ。」
カナミさんの部下のあとの二人が近づいてきて一人が言いその人が続いて、
「セイブて言います。
生き物の気配や動きなどがわかる程度の力しかないんですけど、狩りをする上では僕がいるだけで、大漁になりますよ。
そんで、こっちがホタルです。」
「あっ、ホタルです。
虫の方じゃなくて、火を使役する力があります。
この焚き火とかも僕の力です。」
「いや、そんなに下手じゃないだろ?
最近は上手くなったってカナミさんに言われるんだ。」
カゲエさんが心外だと言った感じで文句を言うと、ホタルさんが
「カナミさんの優しさ。」
「いや~、同情じゃないか?」
セイブさんが言い、カナミさんがやって来て、
「ほら、魚焦げかけてるぞ。
お前らがそうやっていじるから俺がフォローしないといけなくなるんだろうが。」
「えっ?上手くなったっていうのは嘘だったんですか?」
カゲエさんが驚いて聞き、カナミさんは、真面目な顔で
「お前も聞き間違えてるぞ。
俺は上手くなったなんて一言も言ってないだろ。
マシになったって言ったんだ。」
「そんな~」
カゲエさんが言うとカナミさんが
「とりあえず、俺はこいつらと重要な話があるから静かにできないなら向こうに行ってろ。」
「壁ですか?」
セイブさんが聞き、カナミさんは頷いた。
カナミさんは静かになったのを確認して、
「さっきも言ったけど、カグチの計画には賛成だし、協力もしようと思ってる。
だが、あの壁は先祖や老人達からすれば下層の奴らとは違うっていう主張であり、自分達の優位を証明する象徴でもある。
力のあるなしで差別してはいけないが、過去に差別された側の者達はその屈辱を忘れないし、恨みすら持ってるだろう。
人は己のおかれた不遇を自分の心に留めてはおけない。
子や孫に伝え、差別されてもいない者達が過去の先人の受けた屈辱や恨みを抱えて生きてしまう。
差別をなくそうとして事が逆に差別を助長することだってある。
あの馬鹿デカイ壁は、差別を生まないためにも交流を断つためにあるのだという人もいる。
だから、下層を広げるにしても壁を完全になくすことには抵抗を覚える者が少なくないんだ。
あの壁を移動させるのが得策だが、大きさも凄いから動かすのは大変だぞ。」
「森をそのままにして、そこから境界線とするのはできないんですか?」
僕が聞くとカゲエさんが
「この森にはえてる草や木から採れる資源は僕達の生活に必要な物ばかりだ。木を切り家を建て、机を作り椅子を作る。
その気になれば神様の力を使えばどんな物でも何もないところから作ることができるけど、やっぱり自分達で作ったものの方が品は良くなるし、そういう物を趣味で集めてる人達に売ることで、自分達の価値を見いだしたりもする。
森から物が取れないのは僕らにはかなり困った話になるってこと。」
「だけど、僕達だけでは森を管理しきれてないのも現実なんだよね。
成長のスピードが早く、新たな品種も生まれたりするから森全体は把握できてない部分もある。
できればカグチさんの派閥と協力して管理できたらとも思ってる。
カグチさんは信用できるし、カグチさんの派閥の人達が僕らの不利益になるようなこともしないと思うから。」
セイブさんが言い、カナミさんが
「つまり、森を管理するためにも森自体をどちらの物って決めるような線引きはできない。壁もできたら無くせるのが一番だが、人の感情はそう簡単に物事を受け入れられるようにはできてない。
少しずつ壁をなくす努力が必要だと俺は思う。」
「わかりました。とりあえず、壁の動かし方やどの辺りに壁を移動させるか等も含めてカグチさんとカナミさんと僕の三人で直接話し合わせて貰えますか?
お二人で決めて貰っても良いんですけど、僕が間にはいればゼウスの決定で境界線を決め直したって感じにできるじゃないですか。
お二人の独断でやったなんて思われたら、お二人に迷惑がかかりますから。」
「なるほどな、わかった。
いつ話し合いをする?」
「とりあえず、カグチさんに今回のことを報告してから、カグチさんの方で問題がなければ僕達と一緒にカナミさんのお宅に行きます。」
「わかった。
まぁ、とりあえず食え、食え。
神は食わなくても生きていけるけど、やっぱり物を食うっていうのは楽しいだろ。
味覚がなくなったわけじゃないから美味しいものは美味しいと思うし、まずい物はまずいと感じる。
食事が俺達に生きてる実感をくれるんだよ。
さあ、たくさんあるからたっぷり食えよ。」
カナミさんがそう言うとカゲエさん達も皿を持ってきて、皆で楽しく夕食を食べた。




