『フリーゾーンのバケモノ』
見上げて頭の輪郭がわかる。
だが、その頭は近くの大きな木の二倍の高さの場所にあった。
輪郭からすると動物のように見える。木がなぎ倒されたことによって、空が見えるようになったが、既に日は沈み星空が広がっていた。
カナミさんが
「あの距離ならまだ俺達には気づいてないかもしれない。
どうする?攻撃するか?」
「罠を仕掛けて身動きを封じてから攻撃するべきだよ。
あの大きさだと攻撃しても反撃されるかもしれない。
相手がこっちを認識する前に色々と仕掛けた方がいいよ。」
虹川さんが言った。あの大きなバケモノが何なのかわからないのに攻撃を仕掛けるのは危険だと僕も思う。
ただ、僕はカナミさんの話に違和感を感じた。あんなに大きいなら、日が沈んで暗い今はその全容が見えないが、明るい日ならその姿を目視することができるはずだ。
それなのにカナミさんは正体不明と言った。その姿の特徴からどんなバケモノかを伝えることくらいはできたはずだ。
僕が考えていると、虹川さんが
「星君?どうしたの?どうする?」
虹川さんはかなり焦っている。だが、僕は二つの点に気がついた。
一つは、先程からバケモノのシルエットがまったく動いていないことだ。木をなぎ倒しているところも僕は見ていない。
つまり、あのバケモノが呼吸などの生物的な動きや木をなぎ倒す動きがまったく見えてこない。
この森に生えている木は高さもあり太さもそこそこある。
足で蹴り飛ばしただけでなぎ倒されるような木ではない。
もう一つは、バケモノが現れてからのカナミさんの様子だ。
大人でも勝てないくらい強いバケモノが現れているのに焦る様子もない。
「星君!
もう罠を仕掛けるよ?」
虹川さんが焦って言う。僕が
「待って。
カナミさん、確認なんですけどあのバケモノの正体はわからないんですよね?」
「ん?ああ、そうだな。」
「怪我した子はどんな怪我だったんですか?
攻撃の種類がわかるかもしれないので教えてください。」
「かすり傷や打撲が多かったと思う。」
「大人の人達は本当に勝てなかったんですか?」
「どういう意味だ?」
カナミさんが責める様子もなく言った。
「大人の人達は子供達からバケモノが出たと聞いて倒しに行ったが、本当はバケモノなんていなかったんじゃないですか?」
「じゃあ、子供達の怪我はなんだったんだ?」
「遊んでいて転んだりした怪我じゃないですか?」
僕が言うとカナミさんは大きな声で笑ってから、バケモノを指差して
「じゃあ、あれはなんだ?」
「カナミさんの部下の人達が仕組んだ偽物ですよね?」
カナミさんは目を見開いて、
「どうしてそう思った?」
「さっきからまったく動いてないんですよ。
息をすえば肩が動きます。動物なら無意味に立ち止まったりしません。それにカナミさんはバケモノが出てきてからも変わらず落ち着いてます。」
「俺ならバケモノが倒せるから、その余裕だとは思わないのか?」
「倒せるのにバケモノを放置しておくような人には僕は思えません。
つまり、倒す必要のない物だと思います。」
カナミさんは荷物に手をいれて、筒状の物を取り出して空に向けた。筒の先から何かが発射され、空で弾けた。花火のようだ。
大きなバケモノはどんどんと消えていき、完全に消えてからカナミさんが
「見事だな。
お前が攻撃していたら、俺の部下は怪我じゃあすまなかったかもしれない。
お前の言う通り、子供達が怪我した言い訳にバケモノが出たと騒いだ。この森は未だに成長を続けていて、森が草や木の根で動きにくくなる時期がある。
その時期になると大人は危ないから森で遊ぶなと子供に言うが、子供達の遊びたいという気持ちを押さえることはできない。
危ないから行くなと言われて怪我して帰ったらどれだけ叱られるかわからないからバケモノのせいにしたわけだ。」
「それで僕達を試すために部下の人に頼んでこんなに大がかりな事をしたんですか?」
「この森も俺達の生活に必要な資源だからな。木を切ったりするのは日常的にやることだから文句をいうやつはいないよ。
さっきのバケモノも部下の能力で見せた幻影だな。
本人は人を驚かす程度の能力だと言うが、便利な時もあると俺は思ってる。」
「このフリーゾーンを使えない理由はないってことですよね?」
僕が聞くとカナミさんは笑いながら、
「自分達が試されたことより、カグチの要求の方が大切なのか?」
「そのために来てますから。」
「なるほどな。
あのジジイが気に入ったのがわかったよ。
フリーゾーンは自由に使って良いと言っといてくれ。
カグチの計画を知ったときから、こっちでも準備はしていた。
後はあの大きな壁についてどうするかだけが問題だな。
壁を残したいという奴らも少なからずいるから、壁を移動させるのが得策だと思うぞ。」
「わかりました。じゃあ、今からでも……………」
「まぁ、そう焦るな。
もう日は暮れてるんだ。
この状況で動き回るのは危ない。」
「じゃあ、どうすれば良いんですか?」
「そのためのキャンプセットだ。」
そう言ってカナミさんはテントを二つ取り出した。
「お嬢ちゃんは一人で使えばいいよ。」
「泊まりになるってわかってたから、荷物が多かったんですね。」
「ま、まぁ、そう言うことだな。」
「違うでしょうが。毎回要らないものばっかり持ってきて!」
森の中から3人くらい人が出てきて、そのうちの一人が言った。残りの二人は後ろで笑っている。
「まぁ、とりあえず向こうに飯を用意したんでそっちで話しましょうや。」
さっきの人が言って木がなぎ倒されている方を指差した。カナミさんが
「そうだな、話の続きは飯を食いながらにしよう。」
カナミさん達が歩き出したので、僕達もそれを追いかけた。




