『フリーゾーン』
カナミさんに追い付くと、カナミさんが
「昔、昔、この世に存在するすべての能力を持ち、人間を作った男がいた。男はどのように生まれたのか誰も知らないが突然発生したとも、地球外生命体だったのではないかとも言われている。
その男によって作られた人間の中から、男の能力を分けられた者達が他の人間を支配する形が生まれた。」
突然始まった話の意味がわからずに僕が、
「急にどうしたんですか?」
「まぁ、いいから聞け。
天野はこの話の男が誰だかわかるか?」
「ゼウスですか?」
「そうだ。
ゼウスは多くの人間を作り、人間を支配するために能力を分け与え続けて、最後は力をすべて失って力尽きた。
その後、力を分け与えられた者達の間で権力争いが起こり、世界は不安定になった。
何十年と続いた争いを治めるために新たなゼウスハンマーを作り、新たな支配者を作ったことによって、争いは終わった。
だが、争いの終結に納得しなかった者達から力を奪い、隔離する事によって、新たな支配体制は盤石となった。
この隔離された者達がこの下神界の初期の人達だ。
その後も新体制に反発した者は力を奪われてはこの地に送られてきた。
そして、地球上の様々な場所で神が無数に生まれ、ゼウスも時代と共にその立ち位置を変えて、今は人間の世界を管理するものになった。」
「じゃあ、この下神界にいる人達は上層界に対して反発の意志が昔からあるってことですか?」
僕が聞くとカナミさんは首を振り、
「お前達のようにゼウス決定戦を経て、神になった者もいれば、そういった奴らが子孫を増やした事によってこの下神界にいる者もいる。
簡単には分類できないと思ってくれ。
反発の意志がある者は個人的にそういった感情を持っているだけだと思った方がいい。
俺が言いたかったのは、力を奪われた者とそうでない者、奪われた力の多さによって、今のように神のランクが出来上がった経緯を説明したかっただけだ。
そしてランクが出来上がった事による弊害が、階級差別だ。
本来、神の力は多種多様で上下関係を話題にすることもできないほど優れた能力だったが、階級ができたことによって、下の階級は蔑視の対象になり、上の階級は妬みの対象になった。
下層には階級による差別がないが、中間層から上はB-(マイナス)、B、B+(プラス)、Aと分けられて、上層になれば同様の階級分けがされていて、階級が下の者ほど下層の近くに住まなければいけない。
B-(マイナス)の奴らはほとんどC級と力が変わらないからかなり辛い目にあっていた。
そこでB-(マイナス)の奴らが取った対応策が下層に大きな壁を作り、下層と自分達の居住地の間に広大な森や草原を作ることによって、距離的に離れているから自分達は下層の者達とは違うと主張することだった。
些細な抵抗だったが一定程度の効果はあった。
そして生まれたのが『フリーゾーン』という名の空き地だ。
天野の親父が、階級制度の馬鹿らしさを主張して、差別もなくなってきていた。
あと少しで下神界の改革が進むという所で上層界への反乱が起きて、天野の親父も姿を消してしまったので改革も中途半端に終わった。
だが、かなり差別的なことは無くなり『フリーゾーン』の意味も変わってきてた。ただの広い無駄な場所って感じだな。」
「じゃあ、フリーゾーンを下層の人達に使って貰っても問題はないんですね?」
「少し前までは問題なかったんだ。
カグチが俺らと一緒に暮らしてたから町の奴らもカグチの言うことなら信頼してフリーゾーンの使用も許したと思う。」
「住民の人達が心変わりしたんですか?」
虹川さんが聞くとカナミは首を振り、
「いや、住民に変化はない。
変化があったのは森の方だ。
森や草原が子供達の遊び場になっていたんだが、お前らが参加したゼウス決定戦が始まる少し前くらいから、正体のわからないバケモノが出るようになった。
幸い、子供達に怪我人が出たが死者は出ていない。
討伐に向かった大人も勝てないくらい強いバケモノで、今は許可なく森に入ることはできなくなってる。」
「えっ?そうなんですか?
僕達が下層に行くときは何も説明がなかったですよ?」
「お前らは馬車でいっただろ?
なぜだかわからないがバケモノは馬車道には出てこない。
つまり、馬車道を通れば安全に下層に行ける。馬車に乗ってなくても馬車道を通れば安全だ。
だが、こうやって森の中を進んでいると遭遇率は80%を超える。」
「えっ?いつそのバケモノと出会ってもおかしくない状況ってことですか?」
「そうだな。
俺はまだお前らを信頼してない。お前らがバケモノと出会ったとき、どんな対応をするかで、お前らの評価を決めるつもりだ。
倒してくれればそれでよし、俺らとカグチ達の脅威でない状態にしてくれればそれでお前らを認めてやるよ。
さぁ、『フリーゾーンのバケモノ』を何とかしてみろよ。」
カナミさんがそう言うと、『バキバキ』と木がなぎ倒されるような音が近づいてくるのがわかった。
音は近づき、見上げればその黒い影が目の前に迫っていた。




