『カナミさんの話』
下層と中間層の間には両者の行き来を阻むかのように大きな壁が作られていた。門が所々に設置されていて、申請をすれば通行料金も要らずに通ることができる。
何のために作られているのか理解もできない大きな壁を越えて中間層の範囲に入る。地平線の果てまで続くのではないかと思うほど広い草原があり、木々が生い茂りすぎて先の見えない森を抜けると小さな町に出た。
馬車に乗れば30分くらいでついたが、歩いたら一時間はかかる道のりだった。
町を見回して、出会った人にカグチさんの言っていた『カナミ』さんを探すと思いの外、早く見つかった。
町で一番大きな家に住んでいると言っていたので訪ねてみると家の玄関に仁王立ちしている人がいたので声をかけた。
「あの~、こちらにカナミさんという方はおられますか?」
僕が聞くと仁王立ちした人は僕を見て、
「あのジジイの思惑通りに動いている自覚はあるのか?」
「ジジイっていうのは長老さんの事ですか?」
虹川さんが聞くと男は小さく頷き、
「ジジイがカグチを紹介して、カグチがまた俺を紹介する。
そうやってお前らはたらい回しにされてることに気づいてないよな?」
「長老さんがどんな思いで皆さんを紹介してくれているのかはわかりませんけど、出会えたからこそ始まることがあると思います。
あなたがカナミさんですね?」
「ああ、ジジイがカグチを紹介したって聞いて、お前らは俺の所に来るだろうと思ってた。」
「その根拠は何だったんですか?」
虹川さんが聞くと男は庭にある椅子を指差して
「あそこで話す。
立ってるのが疲れた。」
よく見るとカナミさんの足は震えていた。
まさかとは思うが、僕達が来ると思ってからずっと玄関の前で待っていてくれたのかもしれない。
僕と虹川さんが座るとカナミさんも座り、
「カグチは元々、A級の神だった。
ただ、問題行動……………喧嘩が多すぎて中間層に降りてきて、更に下層の奴らの面倒を見るために下層に降りた。
アイツが頑張ってる事なら手伝ってやりたいと思う。
だから、アイツが今は何をやってるのかを常に情報として探ってた。カグチはきっと俺にお前らがわかってない『フリーゾーン』について聞いてこいと言うと思った。
ジジイもまたお前らを気に入ってるからこそ、俺との接点も作れるカグチを紹介したんだと思った。」
「それはどういうことですか?」
僕が聞くとカナミさんは
「それはまた別の機会にしといてやる。
俺と今日、会った事が無駄じゃないってことだけ覚えておけ。
フリーゾーンについてだが、ここよりも実際に案内した方が良さそうだな。
ちょっと待ってろ。」
カナミさんはそう言うと家の奥に進んでいった。
戻ってきたカナミさんは大きな荷物を持っていた。町から森までは歩いても5分くらいの場所にあるにしては大きな荷物だ。
「そんなにたくさん荷物がいる場所なんですか?」
虹川さんが聞くと、カナミさんは
「気にするな。用心のためだ。
俺は心配性なんだ。行くぞ。」
カナミさんが歩き出したので、追いかけて追い付くと、カナミさんが
「カグチは……………面倒見が良い。
ただ、誰かを頼ろうとせずに自分の力で何でも解決しようとする所がある。
アイツが今、抱えている問題もきっと他の派閥の奴らと話し合えば何とかなる事なように俺は思ってる。
C級の神の中に上下関係はない。
だから、住む場所にも制限はなく、好きな場所で働く事ができる。
カグチの派閥は門の近くを居住場所にしてるから、アイツを慕う奴らはあの場所に集まってくる。」
「派閥を選ぶ基準みたいなものがあるんですか?」
僕が聞くとカナミさんは首を振り、
「明確なモノはない。
力を重視する者、考え方の近い者、人望のある者等の派閥のリーダーの特徴で選ぶ者もいれば、初めて会ったリーダーの所に所属する者もいる。
更に言うなら、派閥なんか入らなくても生きていける。
カグチの派閥のように仕事を仲間全員でやることによって一人の負担分を減らそうとする所もあれば、ゼノの所みたいに個人の能力を高めるために徹底して一人で多くの仕事をやらせる所もある。」
「そのゼノっていうのは誰ですか?」
虹川さんが聞くとカナミさんは驚いた顔をしてから、
「お前ら、もしかして派閥のリーダーの名前も勢力もわからずに乗り込んでたのか?」
「はい。長老さんに聞くまで派閥があることも知らなかったんです。
そこから紹介して貰ってカグチさんに会いに行ったので、全然知らないですね。
まずかったですか?」
「カグチの派閥は、下層の勢力で言うと5番目くらいだ。
カグチ本人は勢力とか気にしてなくても人望があるから勝手に勢力が増えてきてる。
でも反対にゼノは自ら勢力を増やすために動いていて、能力を高めた奴が多いから第一勢力になってる。
しかも手に負えないのが、ゼノは神の世界に対して不満を持ってるやつを大量に自分の勢力に取り込んでるところだ。」
「それの何がいけないんですか?」
虹川さんが聞き、僕が
「不満を持ってる人達が強い力を手にいれるためにゼノさんの派閥に入ってるって事は、不満が爆発したときに強い人達が反乱を起こす事になるってことですよね。」
「そうだ。
カグチみたいに自ら下層にいる奴もいるから、能力の高い低いは正直な所はあまり関係なくなってきてる。
中間層や上層の奴らは、下層の奴らに比べて働く量が少ないから能力を伸ばすという考えの者も少ない。
能力を鍛えた下層の奴らが大群で反乱を起こせば、中間層、上層の中にも勝てない奴らが出てくるだろう。」
「ゼノという人はそれを狙ってるんですか?」
虹川さんが聞き、カナミさんが
「それはない。
ゼノは自分を鍛えるのが好きな、現世で言うところのアスリートやボディビルダーみたいな奴だ。
自分を鍛えるのを派閥の構成員に推奨はするが強制はしない。」
「じゃあ、何で不満を持ってる人達が多く集まるんですか?」
僕が聞くと、カナミさんはあきれた感じで
「ゼノは強大な力がある反面、その力の扱いが下手で一時期は周りに誰もいなくなったときがあった。
それであいつは極度の寂しがりになり、誰でも良いから仲間になってくれと誘い出したのがきっかけで、見境なしに勧誘するようになった。
力を求める不満を持ってる奴らからすれば、ゼノの派閥は効率よく自分を鍛えられるから、そこに集まるようになってしまった。」
「なんというか…………残念な感じがしますね。」
僕が言うとカナミさんはため息をついて
「それでもゼノを甘く見ない方がいい。
力はどんどん増してるし、根が単純なだけに厄介な奴だからな。
さて、そろそろ森に入るぞ、ここに人が寄り付かない理由を知りたかったら、常に死なないように気を張ってろよ。」
カナミさんは不吉な言葉を残して森に入っていった。
僕と虹川さんは顔を見合わせて、
「ヤバイ生き物がいるとかそんな感じかな?」
「でも、行かないといけないよね。
カナミさんは行っちゃったから。」
僕の問いに虹川さんが答えたところで、カナミさんの声がした。
「何してるんだ?早く来いよ。」
僕と虹川さんはもう一度顔を見合わせて、僕が、
「行こうか。」と言い、虹川さんが頷いて、二人でカナミさんを追いかけた。




