『カグチ』
僕と虹川さんは下層に入り、出会う人達に話を聞いて長老さんから教えて貰った『カグチ』という人を探していた。
その中の一人が
「ああ、カグチさんね。
さっき向こうでケンカしてたよ。
まぁ、どっちが悪いって言えないところに問題があるんだけどね。」
「ありがとうございます。行ってみます。」
僕がそう言って頭を下げると虹川さんが小声で
「ゼウスなんだから簡単に頭を下げるのもどうかと思うよ?」
「そうかな?お礼のひとつもまともにできないような人が上司だったら僕はいやだけど?」
虹川さんもそう思ったのか、教えてくれた人に頭を下げた。
僕ももう一度頭を下げてから教えて貰った方に歩き出した。下層の人達はゼウスにあまり良いとは言えない印象を持っているから聞かれない限り、ゼウスだと名乗らない方がいいとミナモさんが言っていたので、教えてくれた人も訳がわからないと言った顔で僕達を見送った。
少し離れた場所に人垣ができている。
ゆっくりと近づくと荒っぽい怒鳴り声とそれに冷静な声で答える声が聞こえてきた。
人垣の隙間から覗くと身なりの整った人がチンピラのような人に胸ぐらを捕まれている。近づいた分だけ話の内容が聞こえてきた。身なりの整った人が冷静な声で
「だから、何度言われようとあなた方の要求を通すことはできません。お引き取り下さい。」
チンピラに因縁をつけられたから軽くあしらっているといった感じに見えた。派閥のリーダーならこれくらいの事は日常的に起きているのかもしれないなとお思い見ていると、
「おまえじゃあ、話にならねぇーんだよ。
もっと上の奴を連れてこい!」
チンピラのような人が怒鳴り声をあげて、胸ぐらをつかんでいる手に力を入れた。
「まったく、これだから嫌なんですよ。
何でも力任せにすれば要求が通ると思ってる。
もっと大人になられた方が良いですよ。」
身なりの整った人が言った。チンピラのような人は拳を振り上げて殴ろうとしたので、僕は声をかけた。
「カグチさん。」
人垣が僕の方に振り返る。皆の視線を集めてしまったことはミスだったと思ったが続けて、
「中間層の長老さんからあなたにあった方が良いと言われてきた天野星と言います。」
身なりの整った方の人が、
「ああ、良かったですね。
あなたの言ってる『上の奴』が来ましたよ、カグチさん。」
チンピラのような人が怪訝そうな顔で
「あん?どういう意味だ?」
「そのまんまの意味ですよ、それでは天野様あとはお任せしますね。」
身なりの整った人は面倒事を押し付ける相手を見つけたといった感じで立ち去っていった。
僕達はカグチさんだと思っていた人が立ち去り、ポカンとしているとチンピラに見えていたカグチさんが
「で?俺に何のようだ?
ていうか、お前は何者だよ?」
カグチさんの後ろから人が近づき、カグチさんに
「カグチさん、こいつはあれですよ。
新しいゼウスですよ、天野って名前のガキがなったって聞きましたから。」
「ああん?そうなのか?」
カグチさんが僕を睨み付けて、僕を観察するように見てから、
「それで?何で俺に会いに来たんだ?
それともあのバカにしてた要求を何とかしてくれに来たのか?」
「その要求ってなんですか?
あの人も初めて見た人なのでよくわからないんですけど………?」
「まぁ、そうだろうな。
でも…………ゼウスならできることもあるかもしれないな。
まぁ、利用価値はありそうだ。
よし、立ち話もなんだからついて来い。」
カグチさんは僕らに有無を言わせず歩き出したので仕方なく追いかけた。




