『ゼウスの権限』
土煙の舞うなかで武装した人達が見えた。
僕が持っていたムラクモさんが、僕の手から離れて人型になると、
ムラクモさんに向かって突入してきた一人が
「ムラクモ様、到着が遅れて申し訳ありません。」
ムラクモさんはその人に向かって
「いや、急に呼び出してすまなかった。包囲して、拘束してくれ!」
突入してきた全員が声をあわせて、「了解!」と言った。
土煙が晴れていったが、ウツセミの姿はそこにはなかった。
探知系の能力がある者が探したが、その場にもうウツセミはいなかった。どうやら突入のゴタゴタのなかで逃げてしまったようた。
ムラクモさんが悔しそうに
「ゼウスハンマーは失われてしまったか。」
「今、捜索範囲を広げてウツセミを追っています。
ただ、ゼウスのチカラはその能力も多く、我々でも全ては把握できていないため、深追いすることは難しいと思います。」
突入してきた一人がムラクモさんに言った。
僕は大事なことを思い出して走りだした。志士上君のところに向かったのである。色んな衝撃があったため志士上君は元のところからかなり吹き飛ばされたところに横たわっていた。
その傍らには父とミナモさんがいて、僕が駆け寄るとミナモさんは黙って首を横に振った。
その行為の意味するところは簡単だった。もう志士上君は……………。
僕は志士上君の横に座り、無防備に放り出された手を握った。
男性の手にしては小さく、細く、強く握れば折れてしまうのではないかと思うほど弱々しい手だった。
彼はまだ十代で、これから大人になるはずだった。親に愛されずに暴力を受け、食べ物も満足に食べられていなかったのかもしれない。
冷たくなった手を握っていると涙が溢れてきた。
まだ三回くらいしか会ったことのない志士上君のために自分が涙を流すとは自分でも思っていなかった。
父は僕の肩に優しく手をおき、
「年の差も、共に過ごした時間も関係はないよ。
本当の友人は心で繋がるものだ。
ウツセミさんは、こうなってしまったのは星が原因のように言っていたが、それも全然違うよ。
だって、彼は星と話すとき笑顔だっただろう?
人間を恨んで生きてきた彼が唯一笑えたのが星だったのなら、星と彼は本当に友人だったんだよ。」
僕が父を見ると悲しそうに笑っていた。ミナモさんが
「こうなった原因はお前らのどちらにもないし、もしかしたらウツセミにもないのかもしれない。
ウツセミを歪んだ存在になることに導いたこの世界が原因なのかもしれない。
でも、この世界を作ってきた人々がいけなかったのかと聞かれても、そうとは言い切れはない。
誰が悪いわけでもないのに誰かが不幸になる、それがこの世界の真理なのかもしれない。」
「そんな世界で僕達は生き続けないといけないんですか?」
僕が小さな声で言うとミナモさんが苛立ったように
「どういう意味だ?」
「変えられないんですか?
ここにいる全員が神様なんですよね?
神様はすごいんじゃないんですか?」
「全知全能の神と呼ばれた初代ゼウスも皆が自分の行いを正しいと思ってくれると信じていた。
でも、全ての事象の理屈を理解しても、これから起こる未来を見透せても、人の本心までは知ることはできない。
完璧に近い人間がいても、完璧な人間はいない。
神も同じだ、どんなに人間より優れた力を持っていても全てを良い方向に導ける訳ではない。」
父が言い、僕が
「じゃあ、神様ってなんなんですか?
特殊な力を持ってるだけの人間だってだけなんじゃないですか?」
「それは……………………」
父が何か言おうとしたその前に誰かの声が割って入った。
「それは違うな。
神は神であって人間ではない。
恐れ、怯え、尊敬され、その存在を崇められるものなのだ。
これだから、堕神共の子孫はわかっていないのだ。」
僕が声の方を見るとといかにも自分は高貴だと主張するような服を着た男が数人のお供をつれて立っていた。
ムラクモさんが
「ヤタノ殿、なぜこのような場所に?」
「私の役目はご存じだと思っていましたよ。」
「アマテラスオオミカミからの伝言ですか?」
父が聞き、ヤタノと呼ばれた男は頷き、
「アマテラスオオミカミからの勅言です。
次代ゼウスの志士上絶が死亡したため、今回は特例措置として決定戦準優勝であった天野星を次代ゼウスとする。
なお、先代ゼウス天野晴についての処断は当初の予定通り、次代ゼウスが決めるものとする、以上だ。」
ヤタノはそう言うときびすを返してその場を離れていった。
「えっ、しょ、処断ってどういうことですか?」
僕が聞くと父が
「まぁ、職務を放棄して逃げてしまったわけだし、その罪だけでも死刑になっていてもおかしくなかったんだ。」
「簡単に言えば、お前が父親を殺すこともできるし、閉じ込めておくこともできるし、生かすこともできるということだ。」
ミナモさんが言い、ムラクモさんが
「だが、お咎め無しとすることできない。
いわば、これはたくさんの人に仕事をしないことによって迷惑をかけた天野晴に対する天罰を下すということになる。
お前がこれからゼウスとなり、世界を導く上で身内だからと言って甘い処断をすればお前の部下となる者達はお前に不信感を持つことになるだろう。
これは最終試練だと思うべきだ。」
僕はどうすれば良いのかと考えた。父を殺したいとは思わない。でも、ムラクモさんが言うように身内だからと甘い処罰を下せば、僕の言うことを聞かない人たちも出てくるだろう。
そうなれば、世界の管理も難しくなるだろう。
少し迷ったが、僕は自分がゼウスになったらどうするかと考えていた時にできるならこうしたいと思ったことを思い出した。
僕が顔を上げると父が僕の手を掴み、
「星、父さんはどんな罰でも受け入れるよ。」
「そ、それじゃあ、神の力を全て剥奪の上、見た目も50代くらいにして人間界に永久追放とする。」
「なんだ?その条件は?」
ムラクモさんが不思議そうに言った。ミナモさんも
「力を剥奪して永久追放はわかるが見た目にも拘ったわけがわからないな?」
父は優しく僕に微笑み、
「星は本当に優しい子だね。
ムラクモさん、僕の力を全部、星に渡したいんです。
今のうちならゼウスの力の記憶をそのまま星に渡すことができますから。」
「ああ、別に良いが息子にまで負担をかけることにならないか?」
「大丈夫です。僕の力と混ざりあっているので、引き出すのは難しくなったかもしれませんが体への負担はだいぶなくなったと思います。」
「わかった。」
ムラクモさんはそう言うと剣の形になり父の手元に浮かんだ。父が剣を握ると閃光が広がり、光が消えると父は膝から崩れ落ちた。
その父からムラクモさんが離れて僕の方にゆっくりと近づいてきた。
「さぁ、私を取れ。
お前の中に父親とゼウスの力を入れてやる。」
「そんな特殊な能力があったんですか?」
「お前らは二人とも神器を持っていないから、私が代わりになっただけだ。早くしろ、この力を私の中に入れておくのも大変なんだから。」
ムラクモさんは少し辛そうになってきたので、急いでムラクモさんの柄の部分を握った。
また閃光が広がり、体の中に火を入れられたようなに体中が熱くなり、そして重りを持たされたかのように体が重くなった。
光が消えると先程感じた体の違和感もなくなっていたが、体の奥底から込み上げる力を感じた。
「それではゼウスよ、先程の決定で良いないな?」
ミナモさんが聞き、僕がもう一度
「ゼウスの権限により、先代ゼウス天野晴から神の力を全部剥奪し、見た目も50代くらいにして人間界に永久追放とする。
天野晴として、母さんのそばにいてあげてください。」
ミナモさんが鼻で笑い、
「そういうことか。
それなら俺が見た目を老けさせてやるよ、親友。」
「わざとハゲにするとかは無しで頼むよ。」
父も笑顔で返した。ミナモさんが手をかざすと父の顔にはしわが増えていき、髪の毛も黒から白髪が混じった。お腹は少しだけ出ているようにも見える。これはミナモさんの小さなイタズラだろうと僕は思った。父もお腹をさわり、ミナモさんを見て
「おい!まぁ、これくらいはいいか。」
そう言って笑った。
「星、色んなことがまだまだ大変だと思うが、頑張ってくれ。
父さんも母さんと一緒にうまく行くことを願ってるよ。」
ミナモさんがまた手をかざすと父は光に包まれた。
「父さん、母さんと幸せに」
僕がそう言うと父は笑顔で手を振って光と共に飛び去って行った。
「さようなら、父さん、母さん。」




