『チカラの使い方』
父がムラクモさんから、手を離すと次の瞬間、頭に映像が浮かんだ。遠く離れていく若い二人の男女。そして寂しそうな悲しそうな男の人の声で「ナギ、幸せになれよ……………」という声。
「えっ……………………」
僕が声を出すと、すかさずにムラクモさんが
「ボケッとするな!
戦いは始まってるんだ。」
「すみません。」
僕は謝って、先ほど見えた映像に関してはあとで考えることにして、剣を構えた。
「いいか、まずはイメージをしろ。
一族によって使えるチカラは様々だが、それを攻撃や防御に役立てようと思ったとき、必要になるのはいかに強い攻撃力や防御力のあるものをイメージできるかだ。
天の一族は天候を操る一族だが、その中でも俺の天野原の一族は全ての天候において強いチカラを引き出すことができる。
雨や風、太陽の熱等得意な天候を持つ一族が多い中で、全部のチカラを高レベルで引き出せる。
だが、それは戦闘の訓練を十分にやった後の話であって、今のお前では一族のチカラの十分の一もチカラは使えないだろう。
加えて、制御が難しいから広範囲に及ぶ攻撃は他の者にあたる可能性が高いから、できるだけ直接ウツセミを狙う攻撃をイメージしろ。」
「どんな攻撃がいいんですか?」
急にイメージしろと言われてもどんな攻撃ができるのかもわからないため僕が聞くと、
「父親の戦いを見ていただろう。
攻撃の属性で言うなら、風、水、炎、雷が中心で風と水を合わせて雪、つまり氷の属性にすることもできるが、それは応用だから難しい。
四属性の中でも扱いやすいのが水と炎だろう。
まずはそこから始めるぞ。
そうだな、炎が燃えているところをイメージしろ。」
僕は言われた通りに炎が燃えているところを思い浮かべた。
「次に、激しく燃えるイメージをして、槍の形にイメージを変えるんだ。」
小さく燃えていた炎を少しずつ大きくするイメージをした。
すると、目の前にイメージしたのより少し小さいが炎の塊が現れた。
「おお、筋がいいぞ!
そこから槍の形にイメージを変えろ。」
ムラクモさんの言う通りにイメージを変えると、炎は少しずつ形を変え、不恰好ではあるが一応槍の形にはなった。
「まぁ、少し頼りないが初めてにしては上出来だ。
次はどんな攻撃にするかをイメージしろ。
自分で投げるのも良いし、勝手に相手に向かって飛ぶのでも良い。
他にも数を増やすイメージをしても良いが向こうもあまり待ってはくれない。単発で良いから、ウツセミの注意を引くくらいの攻撃をしよう。あとはミナモがなんとでもしてくれるだろう。」
「わかりました。」
僕はとりあえず、勝手に飛ぶイメージをした。炎の槍はまっすぐにウツセミに飛んだが、意図も容易く避けられてしまった。
「急げ、次の攻撃の準備だ。」
ムラクモさんの言葉通りに次の炎の槍を準備したが、攻撃するより先にウツセミが
「そんな攻撃では私を倒すこともオトリにもなりませんよ。
まずは貴方から消えてもらえば良い話ですから!」
そう言って、僕のよりも大きな炎の槍を作り自分で掴んで、僕に向かって投げた。
「防御だ!
何でも良いから盾をイメージしろ!」
僕はとっさに水の壁をイメージした。僕と炎の槍の間に水の壁が現れ、槍が壁にあたる。大量の水蒸気が発生して、辺り一面を白いモヤが包み込んだ。
「よし、いいぞ。
今のうちに移動するぞ。
戦場ではできるだけ足を止めるな。狙い撃ちにされるからな。」
ムラクモさんが言い終わるとウツセミの声が聞こえて、
「私もなめられたものですね。
この程度の目眩ましで貴方を見失うとでも思ったんですか?」
ゼウスハンマーを掲げたウツセミがすぐ近くまで迫っていた。あまりに驚いた僕は壁を作ることすら忘れて振り下ろされようとしているハンマーに見いってしまった。しまったと思う頃にはハンマーは目の前まで来ていた。
だが、ハンマーは僕にあたることはなかった。水のトゲつきがついた僕の壁なんかよりも精錬された盾が僕の前に現れ、僕を守った。そしてミナモさんの声が聞こえ、
「戦闘に集中しろ!
適当にやりたいようにやれば良い。今は基礎より派手さの方が重要だ。デカイのかませ!」
ミナモさんの言った『デカイの』がどんなものかわからなかったが、前に天罰を下したときに強すぎて後悔したことがあったのは覚えている。ウツセミの場所を確認して、そこに落ちるようにイメージした。
「おい、まさかそれをやるつもりか?
周りの被害を……………………」
ムラクモさんの言葉が終わる前に僕は大きな雷をウツセミに落とした。前回のものよりも強力でウツセミに直撃した周りのにも衝撃が伝わり、地面に大きなヒビがいくつも入った。土煙がスゴすぎてウツセミがどうなったかはわからなかったが、ミナモさんの「よくやった」という声だけは聞こえた。
「まったく無茶苦茶するな!
神の力も無限に使える訳じゃないんだぞ。
スタミナがきれたらそこで動けなくなるんだ。
まぁ、あの一撃でウツセミはまったく動けなくなったみたいだからよかったがな。」
ムラクモさんが呆れたと言わんばかりに言い、ミナモさんに向かって、
「ミナモ、現状の把握とゼウスハンマーの回収を頼む。」
だが、ミナモさんは土煙のなかを凝視して動かずにいて、こっちに向かって
「まだだ、もっと攻撃しろ!」と叫んだ。
しかし、すでに遅かったと言わんばかりに強い衝撃波が僕の体を吹き飛ばした。
強い光の中からウツセミの姿が浮かぶ。光の攻撃かと思ったが、光っていたのはウツセミ自身だった。ウツセミは笑いながら両手を大きく広げ、天を仰いでいた。




