『ウツセミ』
決勝の会場に入ると、既に封印は解かれ、志士上がゼウスハンマーを受け取ろうとしていた。
遅かったかとミナモが思い、目当ての人物の居場所を探した。
その人物はすぐに見つかったが、位置がとても悪い。どんどんと志士上に近づいている。その後ろ手にキラリと光るものが見え、ミナモは大きな声で「そいつを近づけるな!」と叫んだが、反応できた者はおらず、次の瞬間に先程見えた光ったものが志士上の体を貫いた。
志士上が倒れ、ゼウスハンマーも地面に落ちた。
僕は状況がわからずに志士上君の方に向かって走った。志士上君を刺したウツセミという神使は志士上君が落として地面を転がったゼウスハンマーの方に向かって近づいていた。
先ほど聞こえた叫び声と同じ声が聞こえ、
「そいつにゼウスハンマーを渡すな!」
その声と共に轟音をたてて水の柱がウツセミに向かって進んでいった。水柱の出た方を見るとミナモさんが二撃目を撃とうとしていた。
ウツセミは水柱を避け、ゼウスハンマーにさらに近づいている。
他の者達からの動きはなく、まだ何が起こっているのかわからずに混乱しているようだった。
ウツセミはさらにゼウスハンマーに近づき、ゼウスハンマーに手を伸ばした。もう少しで触るというところで、ウツセミは後ろに飛び退いた。一瞬前までウツセミのいた場所に竜巻が巻き起こった。
さらに飛び退いたウツセミへの攻撃は続き、炎の塊が飛んでいく。
しかし、ウツセミは炎の塊を避けることはなく片手でかき消した。
そして、
「おや、もう動けるんですか天野 晴さん?」
僕が目を凝らして見ると、そこには立っているのも辛そうな父の姿があった。先ほどの竜巻も炎も父の攻撃だったようだ。
「ウツセミさん、なんでこんなことを?」
父は絞り出すように言い、崩れ落ちるように片ひざをついた。
「そのような有り様でも、この腐った世界を守ろうとするのか?
君の頑張りなど無駄なんだよ。」
ウツセミはそういうと、ゼウスハンマーに手を伸ばした。
僕の近くまで来ていたミナモさんから二撃目の水柱が放たれた。水柱が直撃し、ウツセミの周りを水が弾けとんだ。
しかし、水がなくなった先には何もなかったかのようにウツセミがゼウスハンマーを天に掲げて立っていた。
「くそ、間に合わなかったか。」
ミナモさんが悔しそうに言い、未だ理解できていない僕はミナモさんに向かって
「どういうことなんですか、これは?
なんで志士上君が刺されるんですか?」
「簡単だろ。
あのウツセミがこのゼウス決定戦を仕組んだやつだからだ。
あいつはかなり昔から働いていたが、腰が低く、誰からも注目を浴びることなく、この機会を待ってやがったんだ。」
「でも、どうやってこんなことを仕組んだんですか?
あの人の力ってなんなんですか?」
「自分から能力を話さない限り、そいつの能力はわからない。
何か特別な力でもあるんだろ。」
ミナモさんがイライラしながら言うと、ウツセミが笑い声をあげ、
「私に特別な力などありはしない。
私が今までもっていた力は神の力と呼ぶにはお粗末すぎた。
私の力は声マネくらいのものだ。」
「嘘ついてんじゃねえよ!
そんな能力でここまでのことができるわけないだろ。」
「そう、単純に声を真似するのではなく、相手に私の意のままの言葉を話さすことができる力だ。
だが、直接話させることができるのは一人だけ。それを超えると声が混じったり、うまく話せなかったりと問題がでる。」
「なるほど、だから今回のゼウス決定戦は一人の神使がすべてを仕切る形だったのか。」
ムラクモが前に出てきて言い、ウツセミはニヤリと笑って
「その通りだ。
責任者のみを操り、その他には催眠を施して、ただ座らせておくだけにしておけばいい。
誰も私に操られているとも知らずに手のひらで踊ってくれたよ。
志士上もこんなに利用できるとは思っていなかった。
喜ばしい誤算だったよ。」
「あ、あなたはこれから何をするつもりなんですか?」
息も絶え絶えに父が聞き、ウツセミは悪意のこもった笑みを浮かべて、
「ゼウスの力で、上層界も人間界も全てを無に還す。
そして始めるのだ、新しい世界を!」
ウツセミは大きな声で叫んだ。ムラクモが
「お前一人で世界を滅ぼすことなんて不可能だ。
上層界にはアマテラスもいるし、他の国の最高神もいる。
お前がゼウスの力を手に入れてもそれらの神全員に勝つことはできない。」
「甘いですよ、ムラクモ殿。
なぜ、私が一人だと決めつけるのですか?
私には仲間がいないと?
そんなわけないでしょう。
働きもしないで、我々に命令するだけの上層神も奴隷のように扱われても文句のひとつも言えずに従い続けるバカな奴等も、そんな奴等を軽蔑している者はたくさんいるんですよ。
反乱を起こしてもみましたが、残念ながら上層神達の考えは変わらなかった。
だが、たくさんの人の神が処分されたことで、残された人の神の中に上層神への憎しみを植え付けることができた。
私が手にしたゼウスの力を使って、今度こそ上層神を倒してやる。」
「そんなことをしても世界は変わりません。
倒された上層神のために新たな争いが始まるだけですよ。」
父が言い、ウツセミはあざ笑いながら、
「上層神に封印までされた君がそんなことを言っていること自体、私には理解できませんよ。
恨みや憎しみはあなたの方が強いと思っていました。」
「自分のした過ちに対する罰を受けることに恨みや憎しみはありません。それは逆恨みですよ。」
「なるほど……………どこまでいっても甘いですね。
では聞きますが、我らが下していた天罰はなぜ下さなければならないのですか?
なぜ人間として生きていた我らを神に戻してまで下さなければいけないのですか?
我らは選択することもできずに無理矢理この世界に連れてこられ、そして楽しいことも嬉しいこともないこの世界で働き続けなければいけない。
我らの仕事に意味はない。なのに、その仕事によって不幸になる人間がいる。
我らのしていることとはなんだ?天罰とはなんだ?なぜ我らがやらなければならない?」
ウツセミの声はどんどんと怒りがこもりだした。その場にいる誰もその問いに答えることができなかった。
「こんなにたくさんの神がいて、誰も納得できる答えを言うこともできない。それはなぜか、最初から意味などないからだ。
我らは、我らの先祖が行ったことに対する罰を受けているだけだ。
私は、全ての人の神の代弁者なのだ。
皆の抱える不満を私が代わりに話してやる。
それが私の力だからな!」
ウツセミは掲げたゼウスハンマーを振り下ろし地面を叩いた。
大きな振動と衝撃波が会場内に広がり、そこにいた人々を吹き飛ばした。




