夢の終わり 3
上機嫌な顔で、リリが戻ってきた。魔女と黒騎士、黒ずくめの一行は勇者を探しながら探索を続ける……、筈であった。
「スティン様、あーしがいない内に大変なことになりもうしたな」
「今は黙ってなさいよ」
通せんぼする岩の塊、それへの対処を魔女に任せて二人は小声でやり取りをしている。
魔女や黒騎士を立ち往生させるのは、当然ただの岩ではない。リリの戻る少し前、空から灰色ツインテールの幼女が降ってきた。何かと思う間もなく、その幼女は周囲の礫や石くれを集めて巨大な岩人間へと姿を変えた。
「そこを通してくれんかのぅ」
ティアが交渉を続けているが、岩人間は黙って首を左右へ振るだけ。よく物怖じもせずに交渉するなー、とリリが思っていたところ、「ロジェクト神よ」と漏らされた名前に身を固くした。
「ロ、ロジェ――」
「やめなさい、魔女殿が交渉しているんだ」
事を荒立てるんじゃない。スティンは、騒ぎ立てる前に顔を押さえつけていた。リリのバイザーを瞬時に持ち上げて、掌底を喰らわせた形だ。言葉は丁寧であるが、やることはえげつない。
顔の小さなリリはすっぽりと掌に覆われて、ムームーと唸ることしか出来なかった。手足をバタつかせて抵抗したが、しばらくすると大人しくなった。状況把握のため、魔女と造形の神がどんな会話をするか、動向を見守ることにしたようであった。
「その先に用があるんじゃ、通してもらいたい」
「聴けん話だ。貴様ら人間種が闘神と呼ぶ存在から、この先へ立ち入らせないように吾輩は頼まれている。これは魔女に告げているのではない。騎士たちも同じであるので、悪しからず」
尊大な言葉遣いで、ロジェクト神は懇願を右から左へと流した。その巨躯は泥人形の総大将とでも呼ぶべき姿であった。瞳と思しき二つの穴からは橙の光が漏れ出ている。
「あれが神、か……」
「おぉぅ、眩しい! んで、どうしましょうね。サリナ・アイリス教皇のお名前、出します?」
音量に気をつけながら、小さい方の黒騎士が尋ねた。ようやく掌が外されたばかりなのに、またバカ力で締め上げられるのは勘弁願いたい。
「不用意にお名前を出すべきではないな」
大きい方は状況を読むことに努めた。彼自身は会ったことはないが、師であるエスティトより教皇のことはよく聴かされていた。
サリナ教皇は人間へ深い慈しみのある存在である。アイリス教の頂点にして、主神の教えを説く者。だが、他の神々との関係性には注意が必要だ。
(目の前にいるのは造形の神。主神に対立していると聴いたこともないが……)
彼にとっては剣で斬れるか斬れないかが基準だ。大抵の物事はシンプルに考えられるが、流石に神を単純化してもよいものか。腹が決まらず、自分よりも魔法、神に精通する魔女の動きを窺う。
「そう言うと思うたわ……。実力行使じゃな」
さらりととんでもない言葉が告げられていた。
「無茶苦茶だ!」
「逃げましょう、さぁ、すたこらさっさと逃げましょうよっ!?」
黒騎士は揃って戦慄した。神に堂々とケンカを売る人間など、聴いたことはない。文字通り、神をも恐れぬという態度に混乱を覚えていた。
「……よいのか?」
「よかろうて。私が大切にしたいものは、その先にしかない」
神を前にして、きっぱりと言い放つ魔女。そのやり取りを見ていると、騎士の少年はいつでも逃げ出す準備を整えつつ、後少しばかり動向を見守ることに決める。
「よいのだな?」
「ええぞ。かかってこい、造形の神フィロッサ・ロジェクトよ」
「本当か?」
「ああ。来なんだら、こちらから行くぞ」
「本当に本当なんじゃな?」
じり、と足元の砂利を踏みしだきながら、神は微妙に後退してみせた。
「スティン様よぅ……。何か、情けなく見えねぇですかいね?」
「言うな、相手は神だぞ」
黒騎士のやり取りはここに来て、大いに緊迫感が欠けていた。巨躯を誇る神、その向こうには泥人形が控えているだろうにも関わらず、だ。
睨むティアの態度がまるで変わらないことに対して、ロジェクト神は大層な話し方を崩して取り乱しているように思える。立派な図体をしていながら、幼い子どものようにも映っていた。
「貴様な、吾輩は神じゃぞ! 神が頼んでるんじゃから、聴いてくれたらええじゃないか……。不遜、神に対して不遜じゃ!」
「あ、やっぱり情けな――」
「やめなさい」
声を荒げるロジェクト神。ふんぬー、と鼻息が荒げられるが威厳は感じられない。石くれで覆われているというのに、顔に赤みが差しているのは気のせいか。
「バカ抜かせ、ワガママ通すために私は魔女やっとるんじゃ。その先にはな、私の妹になるかもしらんヤツがおる」
相手が神だろうが何だろうが関係ない。ティアは堂々とした態度のまま、杖を神へ向けた。
「全くなっちょらん。が、貴様流石はランギスの眷属よ。ほんにあの女そっくりじゃわい」
だらりと腕を下げ、神は臨戦態勢を解いた。ついでに身体に纏っていた石も剥がれ、灰色の髪をツインテールにした幼女が現れた。
「ええのか?」
急転直下で変わる事態についていけず、ティアは睨みを緩めた。魔力は倹約すべきだが、大魔法の三撃くらいはブチ込む気概でいたのだが。
紫の瞳がパチパチと瞬きを繰り返す様を見て、むしろロジェクト神の方が訝しい視線を投げかけてすらいた。
「なんじゃ、貴様。我儘を通すって言っておったろうが」
正直に言えば、以前のように闘神の一撃をいただくのは御免被る。それが理由の一つであるが、神をも恐れぬ暴挙の裏を聴けば、この神は嫌がらせをする気にはなれなかった。
「ではお言葉に甘えさせていただこうぞ。やっぱなし、てのはなしじゃからな」
急ぐ彼女は、大股でつかつかとツインテール幼女の脇を抜けて行った。
「吾輩じゃって、向こうにゃフィルが、息子がおるんじゃ……」
身内のためにと言われれば、仕方ない。ロジェクト神は妙なところで人間臭さがある。
「チャンスですな! 行きましょうぞ、我々も行きましょうぞスティンさ――へぶっ」
魔女を見送る神の脇を、同じようにして抜けようとする小柄な黒騎士。しかし背の高い方が止める前に不可視の壁に進路は阻まれた。
「こらこら、貴様らを許可した覚えはない。リックには借りがあってな、ここらで返しておかないと吾輩の今後の創作活動に支障が出るのだ」
口調に尊厳を取り戻し、ロジェクト神は余裕満々に黒騎士を牽制する。小柄なツインテール幼女の姿に反して、人外の存在感が強く漂っていた。
カエルのようにひっくり帰った同僚はさておき、使命感の強い少年は冷静に神へと対峙する。
「ロジェクト神よ、質問よろしいか?」
「許そう。吾輩はリックよりも寛容だ」
フェイスガードに包まれた顎元へ手を当て、尊大な態度で神は続きを促す。
許しを得たスティンは、律儀にも冑を外して名乗ってから問うた。
「貴女が、神がこの地に現れたということは……。この事態に収拾をつけられるのだと理解しても?」
「相違ない。盟友、ヴァンデリック・ルファイドの願いを今は聴いているが、直に吾輩は息子を連れ帰る。息子がしでかしてしまったが、これ以上人間種へ迷惑のかからないようにすると約束しよう」
泥人形が溢れることはない、そのように神は言い切った。ならば、スティンたちの任務もこれで終わりと言っていい。
「えー、スティン様、もう終わり?」
いつの間にか起き上がっていたリリがぼやくが、それにも少年騎士はさらりとした笑顔で返す。
「帰るぞ。ジオ殿がどうなったか、それは気になるが我々の目標は達せられたろう」
目の前の神へ祈りの所作を取り、スティンは早速身を翻した。造形の神に対してもアイリス式の祈りであったので、ツッコミどころはあった。
だがそれはそれとして、リリはロジェクト神へぶんぶんと手を振って同僚の背中を追いかける。
「案外と聴き分けがいいな」
「いやいや、人外の戦闘に巻き込まれるのは本望じゃねぇっすよ。あーしはね、ただの後方支援なんですから」
二人並び歩きながら会話が交わされる。極秘任務であれば、目標達成が一番だ。泥人形の脅威が取り除かれるとなれば、スティンとしては十二分。
「そうか。争わずに済むなら、それが一番だ」
辿り着いたばかりの地を、生真面目な騎士は迷うことなく離れてみせる。四角い穴に彼が入り込んだのを見て、リリは呟く。
「ええ、争わないのが一番ですとも。ただね、人間て奴はどうしようもなく争う生き物なんですよ」
彼の呟きは、先に空間を越えたスティンへ届くことはない。冑に包まれたままで、リリの表情は見えずにいる。
自身も続いて、四角い穴へ身を捻じ込む。その際に橙のオーブが転がり落ちたが、焦ることなくリリはそれを拾い上げて去って行った。
神歴時代さながらの長閑な地に、轟音が響く。
これで幾合目か。拳をぶつけ合うのは人智を越えた者どもであった。
「人間、人間よ、僕に教えておくれ……。人間の感情とは何なのか!」
頭は竜、身体は人の形をしたモノが叫び拳を振るう。幼子の胴体程はある拳が真っ直ぐに振るわれた。嘆くそれは覆われた土くれの上から涙を流す。
「知るかよ! 俺も人間が出来てるとは言い難い、そいつはさっきから何度も言ってるだろうが!」
迫り来る拳に、自身も右の拳をぶつける。硬く握られたもの同士がぶつかり合い、やや不快な音が辺りを打った。
問われた方は直ぐに緑色の拳を引き、次に向けて地を蹴った。相対するモノに比すれば、心許ない大きさだ。だが、人間種の勇者ならば寸法としては十分だ。
頭まですっぽりと緑色の金属に包まれた少年は、冑の瞳と思しき位置から緑色の光を漏らす。常であれば、滾々と湧き出す緑色光であるが、今は断続的に流れ出るに留まった。
「面白くはないが、興味深い。人間はもっと脆いと思っていた」
何度も打ち合い、ヒビの走った拳を泥人形は性懲りもなく放つ。
「知らんと言った。俺を人間代表と思ってくれるな!」
これまでをなぞるようにして、ジオは向かい来る拳に自身の拳をぶつけていなす。
何合目であろうか。先程からこの繰り返しであった。
「面白い、面白いぞ人間……。僕にもっと、もっと教えておくれ!」
「やなこった!」
再び起こる轟音。だが、これまでと異なって片方の態度が変わる。
体格では勝っていた泥人形の拳が跳ね上げられ、緑色の拳が竜を模った頭部にめり込んでいた。
「おぉ、これは……。これが、人間?」
衝撃に身を地へつけた泥人形であるが、愉快そうに笑う。口元を腕で拭う様は、正に人間がするようなものであった。
「ああもう……、それでいいよ。これが人間だ!」
やや投げやりになりながら、ジオは咆える。
相手は姉のように真紅の瞳を晒す人外。魔力と耐久力が人間の比ではない。片や、少年は勇者ではあるが人の身だ。闘いが長引く程に、彼の劣勢が深まっていく。
「よし、いいぞ人間!」
造作もなくぞんざいに振るわれる拳だが、それこそが脅威であった。
「よかねぇよ!」
余裕があれば舌打ちをしたいくらい。繰り返し繰り返し、出される拳を拳で迎撃し続けた。
相手はこうしている間にも、周辺の泥を啜って身を強大化させていく。一方のジオは、今の一撃で加護を使い果たしてしまった。
「面白い、面白い」
振るわれる拳と同じくして、台詞が何度も繰り返される。スウィータが完成しなかったのは、自身の不勉強によるものだ――そのように泥人形の青年は思い込んでいる。
人間を知るためにと、もう一度拳が振るわれる。
「うるせぇ!」
そんなことは知ったことではないと、少年は再び拳をぶつけ返した。緑色と橙がぶつかり合い、一際大きな音が鳴った。
「――っ!?」
「知らねぇよ、そんなこと!」
石で纏われた拳が砕け、泥人形の方が驚愕の表情を浮かべる。そうだとしても、土くれに覆われた顔から感情を窺い知るのは困難の極みであった。
緑色の冑に顔を包んだ少年は尚も咆えた。
「俺の妹を、泣かせんなよ!」
追いかけて放たれた右の拳が、相手の顔面を打つ。響く音はやはり大きい。人間であれば――魔物であっても絶命させるに足る一撃であった。
だが、人間ではない泥人形は放たれたものは体勢を整えるまでもなく、目の前の生き物に左の拳で追いかけた。
「――――っ」
まともに一撃を受けたジオは、縦回転をしながら屋敷の壁に身体を撃ちつける。パラパラと土壁が崩れると共に床へ足をつけた。
「お兄ちゃん!」
これまで黙って事態を見守っていたが、堪り兼ねてマリィが言葉を出した。少女らしい高い声音であったが、その音は悲痛にも割れていた。
「お兄ちゃん、もういいよ!」
自身もまた泥人形である彼女は、兄に向って叫んだ。もういい、自分のためにこれ以上傷ついて欲しくないという訴えであった。
「よくは……、ない」
頭を持ち上げ、マリィの兄は右の拳を握る。妹はそう言うが、兄としては認められない。
彼の眼前に居るのは神歴時代の遺物だ。時代は王歴、世界は神から人の手へ委ねられ久しい。にも関らず、古い時代に捉われたままマリィを拘束しようというものが居るのは、我慢ならない。
「よかねぇんだよ、お前は……」
石くれの左腕が迫るが、ジオはバカの一つ覚えのように右の拳で迎え撃つ。
「お前は、俺の妹だ!」
拳を振り抜き、相手の両の腕を砕いた。彼もこの間に冑を砕く程の一撃をもらっていたが、割れた緑色の金属から覗く黒い瞳は、未だ精力に満ち溢れている。
勇者としてではなく、兄としての気概でジオは外套を広げる。
マリィにはここを離れるように、凄惨な殴り合いを見ないようにと言ったが、彼女は未だに留まっている。ならば、妹の意志を尊重するならば、彼に出来るのは兄が傷つく姿を不要に見ぬよう、目隠しを作るくらいのものだ。
「これが、人間? 勇者?」
「お前が言うのは、わからん。だがな、だけどなよ、俺を育ててくれた人が言った」
割れた冑を拳で拭いつつ、ジオは取り残された泥人形を強く睨む。防戦一方だった勇者が、足を強く踏みしめて相手に迫る。
「嫌なもんは、嫌だと言っていいんだってな!」
強い踏み込みに倣い、迷いなく放たれた拳が相対するモノの胸を強く打った。
吹き飛ぶ巨体を見送りながら、加護を使い果たした少年の頭から、緑色の冑が溶け落ちた。膝に手を添えて、勇者である少年は肩で息をする。
ここまでの連戦の結果、疲労困憊である。彼を育てたオッサンに言わせれば、勇者は意地で成り立つとのことであるが、それを叶えられた暁には人間を辞めているのではないかとすら思ってしまう。
「はー……、はー……」
大きく息を吐きながら、少年は相手を睨む。駆け寄る妹の気配を察すれば、まだ健在の左手で制してみせた。
「マリィ、まだだ。もう少し離れていてくれな」
人間種としての限界を越えたからこその勇者だ。だが、それも闘神ヴァンデリック・ルファイドの寵愛を受けたが故。
壁に埋め込んだ筈の泥人形がのそりと動き出す。彼もまた、フィロッサ・ロジェクトからの愛を一身に受ける存在であった。
「あー、うん。うんうん、なるほどなるほど。この激情、これがこれこそが人間か!」
石くれを剥がして、細身の青年が嬉しそうな顔で這い上がってきた。その表情はこれまでの曇ったものとは異なり、晴れやかさが窺える。
「そう、そうそう、そうなんだ、そうなんだよ! 創意工夫、人間てのは弱いから策を弄する。母さん、これか、これだよな? これだよ、先生!」
高らかな笑い声。爽やか過ぎる笑顔が、艶のある黒色の金属に覆われていく。
「そうなんだ。人間が無茶苦茶だと思ってた。けど、違ったんだ」
灰色の髪にも黒色が浸食したかと思えば、それは爆発的な広がりをみせる。全身を包むまでの時間は短く、ジオは妹を外套で囲うくらいにしか動けなかった。
「僕たちがおかしかったんだ。人間のように、己の身を壊すことを厭わず動くんだよ。これが、そうなんだ、人間なんだ」
全身が黒色の金属に覆われていくなか、泥人形の青年――フィルは嗤った。凡そ、これまでに見られない姿であった。
光沢のある黒色に細身の青年はすっぽりと包まれ、理想の形に成り上がった。
「お、おに……」
お兄ちゃん、その簡単な言葉すらマリィには紡ぐことが出来ない。目の前にいるのは、一時でも兄と幻視した存在の筈だ。だが、神に愛されたその存在は、自らの造形を造り替えながらひた進む。
その奥、椅子周辺に散らかった姉妹たちも、すっかりとこの泥人形と同化してしまっていた。
「さぁ、さぁさぁ、逝こう。殴り合おう、それが人間なんだろ?」
吐かれた言葉に慈悲などない。血のつながらないどころか、種族すら違う己を妹と呼んでくれた少年に向け、灰色頭の少女は言葉が出せないでいる。
眼前の人外へ立ち向かえと、兄に言えたものではない。
「マリィ、さっき言ったろ? 嫌なもんは嫌だと言ったらいいんだ」
固まる妹の頭を、優しく撫でてジオは言う。
「お、おに……、ぃ」
少女は喉が震え言葉が出ない。兄はこの緑の少年だと理解しているが、これまでのことから目の前の黒色が怖くて仕方がない。
「はっはっはー!」
「な、何!?」
途端、挟まれた笑い声にマリィは肩を震わせて驚いた。とうとうジオの気が触れでもしたかとすら思った。
「笑うんだよ、マリィ」
「何言ってるの、おに――」
馬鹿馬鹿しいとすら思える。だが、見上げた兄は馬鹿馬鹿しさすら忘れる程、爽やかな笑顔を浮かべてみせる。
「鬼で結構だ。妹が護れるなら、俺は、鬼でいいんだ」
にっこりと笑顔を浮かべて、ジオは言う。
「どうしようもないピンチの時程、笑う――それが、勇者なんだってな!」
兄の顔から、ネギの勇者としての顔へ。ただ一人の少女を護るために、少年は腹の底から笑ってみせた。
黒色の拳に向け、緑の拳が振るわれる。先程の焼き直しとはならず、ジオの篭手にヒビが奔った。
「ダメだよ、もうやめてお兄ちゃん!」
叫びが漏れた。
だが、勇者である兄の心はまだ折れてはいない。
「離れてろ、マリィ」
砕けつつある拳を振るい抜き、ネギの勇者は抗う。既に言葉なく襲い来る泥人形、その耐久の正体に気づきつつあった。心配顔をする妹へは、やはり笑顔を見せて黙らせた。
「いくぞ、人間!」
より上位の存在へと身体を造り替え、泥人形の精霊は拳を振りかぶる。
神に愛された存在は、他に比べて高い魔力を得る。それがセオリーだ。自身もまた強き加護を得るネギの勇者は、暴挙へと出た。
「我抱くは、身に余る理想。崩れよ大地!」
精霊級の泥人形、その魔力の素を絶たねば、相手は止まらない。この地に累積されている魔力を吐き出させんと勇者は呪文を紡いだ。




