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ネギの勇者って、何ですか?  作者: 三宝すずめ
第六話「黒百合が紡ぐ子守唄」
108/202

緑色鬼と竜人 1

 ネギの勇者一行は空の旅を満喫する。


 赤竜エディンが馬車を掴んで飛ぶと、走る時とは比べものにならぬ程に景色は速く流れていった。レティアをほとんど出ることのなかったキリカは、それに目を輝かせて喜んだ。身を乗り出す彼女を、穏やかな表情でオッサンが見守る。


 エディンの首元には白銀の鎧を纏ったエドワンと、緑色の鎧を纏ったジオがいた。西に魔物が現れたと聞かされたからか、緑色の方は表情が随分と硬かった。


「浮かぬ顔をしている。何か気がかりでも?」

「そうでもないさ。気が抜けてたみたいだ」


 特等席であるエディンの背に乗せても、ジオははしゃぐ様子もない。問いかけられた後は表情を引き締め直してみせる。


 以前に彼の妹を追いかけていた際には、エドワンは喋ることに夢中であった。今はと言えば、考えてから話せるくらいのゆとりは出来ていた。


(落ち込んでいるであろうに……。人間とは理解の難しい生き物だ)


 馬車を掴んで飛ぶ、このシチュエーションは王都へ向かった時のものとよく似ている。異なるのは、従者はオッサンで妹分はキリカという点だ。はしゃぐ少女の姿からマリィのことが思い出されるのではないか、そんな心配があった。


 マリィがどうなったかを、エドワンはキリカから聴かされた。本人とはそれ程話したこともなく、結末も又聞きのためにあれこれ言うことは憚られる。その上でジオに元気がなければ、どうにも気になるものだった。


「しかし、竜ってのはすげえよな。レティアがもう見えないし、もう山を越えて森が目に入ってる」

「そうであろう! エディンは最強なの――ゴホンっ。時に、ジオ殿は東の端にも行ったのだろう。その時はどうやって移動したのだ?」


 はしゃいでしまう己を諌めつつ、竜騎士は先日のトロール退治に話題を振った。丁度、竜のスピードを褒められたところだ――自然に話題が変えられたと、胸中で自賛する。


「飛んでいったぞ。いや、飛ばされたと言った方がいいか」

「……人間も、飛べるのですか?」

「俺は飛べないな。シャロ――精霊の力さ。ティアなら飛べるけどな」

「む、むぅ」


 魔女の話題が出ると声は小さくなった。またしても暗い表情をするジオを目に、会話とはこんなにも難しいものだったのかと、竜人の王子は整った眉を寄せた。


 今も魔物が出たから勇者が行かねばならぬ。それはわかるが、ティアのことを先送りにしたように思えた。


「そうそう。私の力だ、ふはははは」

「何奴っ!」

「待てエドワン、それが精霊で俺の姉ちゃんだ!」


 剣を引き抜く前に制止がかけられる。いつの間にやら、エディンの背に緑色の髪をした少女が腕を組んで仁王立ちしていた――瞳の色は真紅であり、精霊であることに間違いはない。


 何処から現れたのかはわからなかったが、エディンが不快さを示していなかったため、特に問題はないかとエドワンは自身を納得させた。


「ジオにそれ呼ばわりされたのは、ちょっと不服。けど苦しゅうないぞ、楽にするといいドラゴンプリンス。キミも赤いお友達も元気になってよかった」


 腰を屈め、竜の背中をぺちぺちと叩く精霊。エディンが吠えるが、不快どころか喜んですらいる声だった。ふとエドワンの中で何かが繋がり、表情は晴れやかなものへと変わった。


「貴女が精霊シャーロットでしたか! 先日助けていただいたこと、遅ればせながら感謝申し上げる」

「苦しゅうない苦しゅうない。もっと褒めるといいぞ、わははははは」


 上機嫌のシャロは今度は腰に手を当てて豪快に笑う。ジオは姉の出現に、表情を普段のものへと戻しては頭を掻いていた。


「エドワン、こういうヤツなんだ。あまり調子に乗せないでくれ」

「何てことを! お姉ちゃんに向かって、何てことをだぞ! 精霊は人々の祈りを糧にしてるのだというのに……」


 笑ったり怒ったり、目まぐるしい勢いでシャロの表情は変わる。ジオの言うとおり、煩いところはある。「兄弟姉妹とは、よいものですな」明るい顔つきになった彼を見て、ついついエドワンは微笑んだ。


「ようし、いいさ。そんなに言うならもう一回、ジオ一人で魔物の群れに突っ込むんだな!」

「な――」


 小さな手に緑色の光が灯り、少年勇者の身体が浮かび上がる。進行方向に向かって緑色の光が空に道を作る。


「ヴァンデリック・ルファイドの名の元に、我が望みを聞け」


 眼前に開いた両手を翳し、シャロは大魔法を詠唱する。


 不可視の自然霊の力も借りて対象は緑色光に包み込まれた。浮き上がったジオは手足をバタバタとさせながら、何とか切り抜けようと足掻く。


「我切り裂くは、青き色。貫くは緑、破れよ空」

「待て、シャロ! 心の準備が――」

大地間転位砲(グランジッション)!」


 ズキューンと青空を斬り裂く音を立て、ジオが光になって飛ばされていった。唖然とするエドワンの後ろで、精霊は「衝撃に備えて鎧をおつけください」と気楽に言っている――が、それが届いたかどうかはわからない。


「今のは、一体……。ジオ殿はどうなったのだろうか?」


 声が出せるようになり、竜騎士は問う。これまでとはまた別の意味合いでジオが心配になった。飛ばされた、というのはこういうことかと納得する反面、竜人にも理解出来ない現象が引き起こされている。


「よかろう、教えてしんぜよう!」


 えっへんと胸を張り、シャロは説明を試みた。


「ルファイドくらいの力があったら、空間を捩じ切って距離を零にするところだけど、それはもう大魔法どころか神魔法だ。しかしこれでも私は精霊。入口と出口を設定して、その間の距離を超高速移動することで擬似的に零にしたのだ」

「……したのですか」

「したのだ! ただし、自分でもこの説明で合ってるかはわからないから困ったもんだ」


 わっはっは、と笑ってはいるが、正直言って本人も理解していないものだと告げられている。


「精霊に問うのも失礼かもしれないが、危険はないのだろうか」


 ジオが飛ばされていった方角を見つめながら、エドワンは尋ねる。既に何度も行っているらしいので危険な筈はないが、ジオの嫌がりようを見ていると不安が募った。


「任せろ、ジオは頑丈だ!」

「他の人だと危ないってことか。精霊とは常識を越えた存在ですな」


 考えようにもスケールが違い過ぎる話だ。溶岩竜すら倒した勇者を、大砲の弾のように軽々しく飛ばしてしまう――エドワンは精霊の力を見て頷くしかなかった。


 さてそのような途方もない存在と何を話せばいいのか。しばらく無言で空の旅が続く。


「ドラゴンプリンス、ちょっといい?」


 沈黙を破ったのはシャロの方からであった。振り向き、きちんと正面に据えれば小さな少女にしか見えない。


「実は、ジオは最初から飛ばす予定だったんだ。キミにちょっと弟の様子を尋ねたかったんだ」

「……ああ、貴女も心配されていたのか」


 今彼女の前に居るのは、弟を心配する姉であった。エドワン自身、暁の勇者が不在になったことや、魔物の動きが活発になってきたことを案じてジオを訪ねていた。


「ジオ殿は以前と変わりないように感じた。だが、何かを躊躇しているようにも見えた。迷いだろうか?」

「なるほど。お姉ちゃんもドラゴンプリンスと同意見だぞ。あの子の望みは勇者になることだった……。きっと今も変わっていないんだけど、ちょっと変わってきたところがある」


 ふぅ、と軽く息を吐きながらシャロは憂い顔になった。


 ジオが十二歳の時に交わした契約に基づき、精霊は彼を三代目ネギの勇者に選んだ。闘神が造った生長鎧(アムド・グラス)を扱えていることから間違いなく、彼は途方もなく強い勇者に成れた――ただし、それが望みどおりの姿であったかは、この精霊ですら疑問に思うところ。


「贅沢な悩みですな」

「だろう? プリンもそう思うか。最強の勇者に育ててやったのに、何が不満なんだろうな」

「プリンとは私のことか。それはさておき、贅沢と申したのはそこではなくてですな……」


 何をきっかけにしたのか、エドワンを親密に思ったシャロは新しいあだ名をつけ出した。戸惑いつつも受け入れながら、ドラゴンプリンス改めプリンは疑問を投げかける。


「精霊殿やティア、それに私。これだけの美人に囲まれて心配されて、ジオ殿は贅沢なのかなと思ったのですよ」

「確かにそのとおりだ。けど自分で美人と言うなんて、なかなかやるなプリンちゃん」


 大きな瞳を真ん丸に開き、シャロは感心やら驚きやらを伝える。エドワンとしては、相変わらず人間の文化は難しいという感想を抱く。


 そもそもジオが彼女を美人だと認めているのだから、言って何が悪い程度の認識であった。あとは、ティアが不憫だなという想いが強い。ジオに対しては友好以上の念を覚えているが、うじうじ悩む姿は見ていて腹が立ちもする。


「勇者としての彼が変わってしまったようには、私には思えない。そもそもあの御仁は私と同じく、闘うことでしか生き方を示せない生き物だろう」

「ふむ……」


 真面目に考えを述べるエドワンを見て、シャロも思うところがあった。ジオが理想の勇者を追い求めていることに変わりはない。変わったところがあるとすれば、それは何処なのか。


「思うに、彼は変わろうとしているのだろう。勇者以外にもすべきことが見つかった、それは恐らく――」

「妹か? ジオはあれからよく祈るようになった」

「それもあるかもしれない。強いだけでは駄目なのだと感じたきっかけでしょうな。もっと直接的な要因は、ティアではないか?」

「ティアティアか……。うん、そうだな。お姉ちゃんもそう思うぞ」


 この一月の間にジオが魔法を学び出したこと、彼なりに懸命に祈ったこと、それは精霊であるシャロにはひしひしと感じ取れていた。契約で繋がった勇者と精霊、二人の間を流れるものの質が変化したと言っていい。


「うーん、魔法はいずれルファイドに教わるまで色をつけたくなかったけど、仕方なしか。強くなるのはいいことだがー、確かにジオは贅沢だね」


 ネギの勇者はいずれ精霊を介さず、直接ルファイドの名の元に広域魔法や大魔法を扱えるようになる。そこに邪神系列の魔法も加わるとどうなるのか。「セルペさんなら許してくれるか」などと呟きながら、シャロは深く考えないようにした。


「しかし精霊殿、最近のジオのことならティアに尋ねればよいのではないか?」

「それでもいいけど。今ティアティアに聞いたらさ、あの子頭の血管切れちゃうんじゃないかな」

「いや、そこはむしろ私の方が尋ねたい。ティアは大丈夫なのか? ジオ殿へ向けて酷く癇癪したんだ。奥方の機嫌を損ねたまま旅に出るとか、人間社会ではよくないと耳にしたんだが」


 人間の文化は理解し難いが、知識として理解出来ていることもある。エドワンは眉間に皺を寄せながら唸る。


「うん、そこんとこは大丈夫。ティアティアはジオのこと、お姉ちゃんが妬いちゃうくらい好きだから」


 うんうんと頷きながら説明しても、エドワンの表情は硬いままだ。どう説明するか一秒程考え、面倒になった精霊はローブの裾から大きな鏡を取り出した。


「見た方が早い」


 エディンの首に乗せられた鏡に、映像が映し出された。それは黒騎士から魔物討伐の召集がかけられる少し前の出来事。宿屋でジオがティアの説得に当たっている場面であった。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ」


 珍しく慌てる様子は、年相応の少年らしくもあった。幼馴染みであり、魔法の師でもあり、ここ最近は精神的にも支えてくれていた少女が荷物を整理している姿を見れば、こうもなる。


「知らん。エドワンに助けてもらえばよかろう」


 一頻り八当たりを終え、ティアに激昂した様子はない。しかし硬い表情を崩すこともなく、部屋を出て行こうとしていた。


「いやいやいや、何でエドワンの名前を――そうじゃない。もうちょっと話してくれよ」

「……私に話すことはない」


 ティアの顔つきはキツいことに違いないが、むすっと膨れたようなものに変わる。本当に話すことがないならば、黙って出て行く筈とジオは脳がバターになるくらい懸命に頭を回す。


「じゃあ、俺の話を聴いてくれないか?」

「……」


 荷物は背負われたまま、腰掛けることもなくティアは幼馴染の方を向いた。視線が痛いくらいに刺さったが、話が出来るだけマシと続けられる。


「今、ティアに出ていかれたら、その、なんだ……。困る」

「はぁー、そう。困るんか。それで?」

「そ、それでって……」


 ジオなりに絞り出した言葉であったが、ティアからは溜め息と醒めた目が返されるだけであった。


 文字通り闘うしか能がない彼は、ラスパを目指した時、温泉でやらかした時のことを何とか思い出していた。未だ上半身裸なまま、剥き出しの背中に妙な汗が滑っていった。


「前も言ったが、ヌシが私に期待しとるのは伯父の代わりじゃろ? よかったじゃない、伯父上帰って来たんだから。私、もう要らないじゃない!」

「ち、違――」


 焦るジオ。幼馴染が出て行こうとしている場面で、何故か斜め上の方を向いてぶつぶつと呟いた。


「違わんだろ、伯父上と仲良くな」


 再度溜め息を吐いて飛び出そうとする少女の手が掴まれた。


「行かないで、ください」

「うん?」


 しどろもどろ、そう表すのが相応しい。日頃闘うしか能がないと言う少年は、目を泳がせつつ続ける。


「また間違った。俺さ、ティアがいないとダメだ。この一月で本当に痛感している……。今更だけどさ、キミには感謝を伝えていなかったことに気づいた」


 ありがとう、口ごもりながらも瞳は真っ直ぐにティアを見つめていた。


「……私が必要かの?」

「勿論だ。オッサンは俺にとって父親みたいなもんだ。ティアは何だ、上手い表現が見つからないが、どっかに行かれたら、本当に困る。俺、これからどうしたらいいかわからなくなる」


 温泉でやらかしたことを思い出すだけでなく、決定的な失敗を目前に控えたジオは、情けなくも心情を吐露した。今しがた言ったとおり、この一月の間に嫌という程ティアは献身的に尽くしてくれた。そのことに礼も言えないのであれば、彼は自身が目指す勇者像を曲げることになる。


「そう、か。なるほどのぅ、く――否、だがエドワンは……」

「俺には、ティアが必要だ!」

「は――」


 一瞬頬が緩むことを堪えたティアも、力強い言葉に荷物を取りこぼしながらぽかんとした表情を浮かべた。


「えっと、なんだ……。あの、行かないでください」


 小さく呟いた少年は、何かを確認するように斜め方向に視線を向け、もう一度ティアを見た。


「ふ、ふふふ、そうか、ヌシには私が必要か」


 心揺れまくるティアはジオの挙動の不審さには気づかなかった様子。噛み殺し切れなかった笑いを口元に浮かべていた。


「わかった、わかったぞエル。そこまで言うなら、ヌシが私を愛して止まないなら仕方ないな」

「そこまでは言って――ああ、いや、その通りだ。俺にはティアが必要だ」


 何かに諭されるようにして、ジオは口説き落とすことに注力していた。


 心内を悟られない、このことにティアも神経を払っていたため、幼馴染の少年がどこか変なことは目に入らないでいた。


「――トだな」

「うん?」


 彼女もまたハキハキと喋るタイプではない。聞き取れずにジオが聞き返す。


「デート一回で手を打とう。一日私をもてなすなら、今日の苛立ちにはさようならしてやるわ」

「わかった。デートが何なのかわからんが、大体わかった。一日はティアのために使うと、俺は信奉する神に誓おう」


 両手の平を合わせ、合唱のポーズを作ってジオは言い切った。ルファイド神へ祈りを捧ぐ所作だ。ここまでされてはティアもいい加減、曲がった臍を戻しようものであった。


 手札を全て切って、尚も要求が出ようかというところであったが、扉がノックされたことでそれは中断された。


 ガチャリと音を立てて開かれた扉、その先にはジオと同じく半裸のオッサンがいる。


「ジオ様、黒騎士の方が魔物討伐の依頼にいらっしゃいましたぞ」

「あー、そうか。直ぐに行く……、と言いたいが、ちょっと待ってもらってくれ」


 生真面目な勇者であるが、目下の課題は目の前の少女のご機嫌取りであった。ジオは迷わず優先順位をティアに定めた。


「エル、そっちに行ってやればええぞ」

「いいのか?」

「ええと言っておるじゃろうが。何、私はヌシの一日を手にしたからな。今更やいのやいの言わんぞ」


 努めて冷静に言葉を紡ぐ魔女。だがその頬はひくひくと揺れており、伯父から見れば嬉しさをひた隠しにしていることが手に取るようにわかった。


「すまん。話の続きはまた戻って来てからだ。あとは、コーディーをな?」

「うむ。みなまで言わんでええぞ。この幸薄いのは、責任をもって治しておこうぞ」


 すっかり上機嫌の魔女は、複雑な形に折れ曲がった手足の長い男の看病を受け持つと言い切った。彼をここまで痛めつけたのは紛れもなく彼女であるが、誰もそこには触れない。


「んじゃぁ、ちょいと留守にするわ」


 飄々と答えて少年勇者はオッサンと共に階下へと降りていく。


 そこまでを鏡に映し、精霊は竜騎士へ「な? 大丈夫だろ?」などと言い放った。


「……大丈夫、なのでしょうな。いや、これ、いいのか?」


 自問自答する形でエドワンは唸る。


 途中ジオが斜めを向いていた辺り、誰かに助言されていたように思えて仕方がない。もっと言えば、予定調和だと言わんばかりの精霊が手を入れていたのではないか。


 それはともかく、ティアへの心配がなくなった訳ではない。大爆発だけは回避出来たかというところだ。


「続き、見る?」


 促す精霊。見るも何も、ジオとオッサンが出て行った後の光景が鏡には映されている。


 二人の姿が見えなくなった途端、ジオのベッドへ飛び込んで枕に顔を埋めるティアの姿があった。


 出て行こうとした手前、表現しきれなかった感情があった。噛み殺し切れなかった喜びの感情が、何秒かに一回は溢れてジタバタと手足をベッドに打ち付ける姿が見える。


「あ、あの、もうこの辺で」


 人間の文化はわからないが、これは明らかに他人が見ていいものではないとエドワンは理解する。素直に成り切れない少女が、誰の目もなくとも押し殺そうとしたものを覗き見るのは、一言で表せば下衆そのものだと思える。


「そう? プリンちゃんはいい人――いい竜人だな」


 人ではない精霊は淡々と撤収作業に入る。大きな鏡もローブの中にすいっと仕舞われていった。


「ティアが案外元気だとわかり、安心しました。ですけど、これを見せる必要は……」


 全力でプライベートを覗き見た、そこにバツの悪さを感じてしまう。竜人も流石にこれは悪趣味だと感じていた。


「はっはっは。ジオのやつな、最近お姉ちゃんをないがしろにし過ぎだと思うんだ。真の愛は見返りを求めない姉の愛、それをそろそろわからせてやりたいんだ」

「ああ、そうですか」


 伝わるといいですねー、と他人事のようにエドワンは溢す。人間の文化以上に、精霊の常識なるものはわからないと痛感した瞬間であった。


 それでも、ジオとティアに無用な諍いが起こらなくてよかった。そのように生真面目な竜人は思うことで、無理矢理にでも自身を納得させにかかった。


 何処か遠くを見つめたくなった彼女は、ジオが飛ばされていった彼方へと視線を送った。




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