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ネギの勇者って、何ですか?  作者: 三宝すずめ
第六話「黒百合が紡ぐ子守唄」
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精霊様のお出ましだ

 聖地カルデレナと言えば? などと王国民に尋ねれば、みな揃って「大聖堂」と答える。主神代行サリナ・アイリスに出会える者は一握り、それでも神のご加護にあやかりたいと人々は聖地を訪ねるのが常。


 そのなかで、本日はあまり目立たぬ裁判所へとアイリスの信奉者が集まっていた。大きな執務室といった印象の造りであるが、中央に置かれた被告席をぐるりと取り囲む形で神父が列席する。


 高齢の神父が罪状を読み上げる様を、レジーム王が見届けている。国王が出向いたことで近衛兵が控え、黒騎士が居並べば物々しい雰囲気に包まれる。黒騎士を束ねるアジード司教もその場で判決の行方を見守っていた。


「何か申し開くことはあるか?」


 老神父――ジェフリーが日頃の穏やかさを隠し、冷淡に尋ねた。言葉を向けられたのは十八になったばかりの少年勇者だ。


「ありません」


 アイリス教の神父に囲まれ、まったくのアウェイである状況で、ジオは淡々と答える。


 緑色の篭手こそ取り上げられなかったが、上半身は裸。手には木の枷、足には鉄球を嵌められた姿であった。黒い瞳は真っ直ぐにジェフリーを見つめている。


「では、ジオグラフィカエルヴァドスは暁の勇者への暴行を認め、刑罰を受け入れるというのか?」

「はい」


 少年の答えに、ジェフリーは戸惑いを隠すことに苦心した。返事が淡々とし過ぎていると感じるのだ。


 アイリスの信奉者ではないが、ジオ少年自身は闘神から加護を得る勇者の筈だ。若者の潔い姿に、老神父は唸る。


「本当に何も言うことはないのですか?」


 大英雄よりジオの人となりを聴かされていた彼は、ここにきて表情を崩してしまった。この少年が理由もなく暴行を働く訳がない、まして国教を脅かす存在にはとても思えないのだ。


 暁の勇者が倒れた――この一点の事実のみが先立ち、ネギの勇者が何者で何をしようとしていたのかはまるでわからない。猜疑心が湧くことを止められない。


「ジェフリー神父、裁判は公正に」

「……失礼した」


 外野から飛び込んできた言葉に、老神父は冷静になった。実際は、腸が煮えくる想いに駆られてクールダウンに努めた、が正しい。ここ数年で急速に権力を得たアジードは、ついに裁判にまで口を出すようにもなった。


 裁判は公正に行うもの――それは当然だ。だが、裁判に出席した者はジェフリーを含め、すべてアジード神父の影響下にある。公正にという言葉には言外の圧力がかけられていた。


(この少年の受け答え、それはこの場では正しい。しかし……)


 内心が表情に表れないことを、老神父はアイリスへ祈る。


 少年を弁護する者もいないこの状況では、下手な言い訳をしないことが刑罰の軽減に繋がるのだとよくわかる。だが、それでよいのだろうかと、敬虔なアイリス信奉者であるジェフリーは苦悩する。


 黒鎧の大英雄が護り育てた、ルファイド教の勇者を裁いてよいものか。そもそも、ヴァリスナードに連れられて来たジオは抵抗する素振りも見せなかったと聞かされている。大英雄預かりの案件が、こうしてカルデレナに持ち込まれてしまったことに不信感を覚える。


「ジェフリー、どうした」

「罪状の読み上げも終わり、本人による弁解もなし。判決に移ります」


 アジード相手であれば粘ってやろうとも思っていた。


 だが、レジーム王から催促の言葉が出れば裁判を進める他なかった。王が如何に博愛主義者であっても、親族が傷つけられれば怒りもする。少年勇者が潔くしているのであれば、ジェフリーが騒ぎ立てることも憚られた。


「国教を脅かしたジオグラフィカエルヴァドスへは、禁固刑を――」


 最後まで告げ切る前に、裁判所を大きな音が打った。列席者は一斉に音の発生源へ振り返ると、木製の扉が勢いよく開かれていた。


 扉を両手で押し開けた人物は、剃髪のてっぺんから目にかけて傷の入った老人だ。艶のない黒色の鎧を身に纏った人物を見間違える者は、この国にはいない。しかし、その形相は怒りに歪められている。老人を止めようと腕や足を掴んだ三名の黒騎士が、引き摺られて一緒に入場していた。


「あー……、来てしまったか」


 怒り震える大英雄を見てジオが呟く。今この場に来てもらいたくない人物の登場に、少年の心も曇る。


 事を荒立てないようにヴァリスナードが根回しする間もなく、このスピード裁判が執り行われている。大英雄の手が届かぬ聖地で裁く――早期決着を望んだジオはやはり無抵抗だった。己のために恩人が立場を危うくするなど、考えたくもない。


「ヴァリスナード殿、ここは聖地です。更には陛下の御前であります」

「非礼を詫びる。だが、儂は陛下に火急の用があるのだ」


 この場を取り仕切る者としてジェフリーが告げる。何とか押し留まって欲しい想いも込められていたが、ヴァリスナードは王へと向き直った。


 場がざわつき、近衛兵は王と大英雄の前に割って入るも、その王が片手で兵を制した。黒騎士たちも大英雄から手を離し、拘束にならぬ拘束を解いた。


(怒れるヴァリスナードを下手に刺激してはならない、か)


 レジーム王は、これまでに厭という程聞かされたフレーズを思い出す。永らく臣下として仕えた大英雄が、魔物との大戦時と同じく怒りに震える姿がそこにあった。


「用件を聞こう」

「寛大なお返事、ありがとうございます。率直に申し上げます、この裁判の取り消しを求めます」

「――何故だ? この者を捕えてきたのはヴァリスナードであろう」


 王の眉がピクりと動いた。しかし老齢には似合わぬ精悍な顔つきは崩れない。博愛の精神を説くレジームであるが、それは枢機卿としての立場のものだ。国王としての彼は対話を試みることはあっても、決まり事を覆すことはない。


 寛容な面と厳格な面が使い分けられていることを、ヴァリスナードが知らない筈はない。それでも直訴しに来たことを買って王は促した。


「陛下にだけはお伝えした筈です。儂と共に魔物と戦った名もなき勇者のことを」

「確かに聴いた。しかしその話が今、何の関係がある」


 レジーム王から厳しい視線を向けられてもヴァリスナードは怯まない。内に湧く怒りを抑えつけながら、ジオを一瞥して再び王を睨む。


「この少年こそ、その勇者の忘れ形見なのです。裁判の取り消しが出来ぬのでしたら、恩赦でも何でもいい。極刑や長期間の勾留は、この国にとって不利益になります」

「……どう思う、ジェフリー」

「大英雄の言うとおり、刑罰を決めて軽減するのが一番かと。大戦終結時にそのような前例もございます」


 老神父とのやり取りの後、王は「そうか」と短く呟いた。これ以上の大事にはならずに済むと、ようやくヴァリスナードは怒りを引き下げることが出来そうであった。


 ジオを我が子と変わらぬ想いで見守ってきた彼は、一時であれ罪人扱いされたことを不憫に思う。確認のためにジオの方へ顔を向けると、当の少年は直立姿勢のまま目を瞑っていた――二代目ネギの勇者も言い訳をしない人物であったが、こんなところまで似てしまったことには、複雑な心境にもなる。


「どう思う、アジード」

「ジェフリー神父の仰るとおりかと。ただし、その名もなき勇者とやらが実在していればの話ですが」

「アジード、貴様っ!」


 瞬間、我を忘れる程の怒りにヴァリスナードの身体から魔力が迸った。魔法へ昇華されることはないが、その圧力に居合わせた人々は息を呑む。


「あ、あやつが実在せぬだと? 人々のために全てを(ナゲウ)った、己の名前すらも棄ててしまったあの男を――」


 持ち主の魔力に呼応して黒鎧が蠢動する。


 怒りのあまりに人相の変わったヴァリスナードの顔が黒色に呑まれる。冑は黒い豹を象り、魔物を震え上がらせた大英雄の姿がここに現れた。


「我が友の生きた証すら奪うか、小僧!」

「騎士らよ、大英雄がご乱心だ」


 アジードの言葉に、比較的若い黒騎士は互いに見つめ合う。命令こそ下されていないが、大英雄を捕らえよと言われているも同然。剣に覚えがあっても、むしろ覚えがあるからこそヴァリスナードの前に出ることの無謀さがわかってしまう。


 怯える者たちに代わり、別の名が叫ばれた。


「ガーーーレック!」


 歴戦の黒騎士、ガレックが図体に似合わぬ俊敏さで飛び出した。背中に背負われていた大戦斧(ハルバード)が構えられると風が巻き起こる――魔力を帯びた風はレジーム王やアジードを護る結界となった。


「怒りを鎮められよ……、貴方とはこんな形で争いたくない」

「退きやれ、旋風の」


 大戦を共に戦ったガレックの説得も届かない。猛る黒豹は、天へと向けた掌から黒色の槍を生成して引き抜かんとする。咎深き鎧(アムド・ブラム)が真価を発揮せんと、震え出す。


 片や救国の大英雄、片や黒騎士最高峰。両雄の生き様が刻み込まれた槍と戦斧をぶつけ合わんと、構えられた。


「じっちゃん!」


 衝突寸前、声が割って入る。


 震えるまでの怒りを持った大英雄を止めたのは、緑色の化け物であった。槍を掴んだ手も頭も、緑色の金属に覆われている。


「やめてくれ」

「止めてくれるな。貴様に刑罰が渡るだけでなく、我が友を愚弄されては――」

「頼むよ、じっちゃん。大英雄が国に刃向うだなんて、そんなことは俺も親父も喜ばねえよ!」


 説得の末、ジオが鎧を解いたタイミングでヴァリスナードも冑を解いた。顔には怒りの代わりに苦渋の色がにじんでいる。


 張り詰めた糸が切れ、若輩の黒騎士らはその場にへたり込んでしまった。ガレックも結界を解きつつ、ヴァリスナードの肩を掴んだ。


「ご退場を……」

「騒がせたな」


 言葉を多く交わすこともなく、大英雄は旋風の騎士に促されて歩き出した。扉に差し掛かると、足を止めて少年勇者を見つめた。今更ヴァリスナードが暴れ出すことはないとわかり、ガレックもその横に並ぶ。


「ジオ。ちょっといいか?」

「なんだよ、じっちゃん」


 いつもの眉間に皺を寄せた、難しい顔でジオは大英雄の言葉を待つ。名前で呼ばれることは珍しく、緊張で少年の表情は硬くなる。


「貴様がどれだけ強くとも、まだまだ小僧よ。小僧らしくもっと文句を言っていい、悩んでいいんだ。迷ってもいいし、ブレてしまってもいい――」


 我が子に諭すが如く、優しい口調で届けられる。


「しかしな、諦めるな。父の背中を追いかけるなら、何があっても決して折れるな……。儂が言ってやれるのはそれくらいしかない」


 言い終えたヴァリスナードは裁判所を退場していった。静かになった場内では、次に誰が口火を切るのか。視線で牽制の始まった場に、低い声が響く。


「ジェフリー神父、質問していいか?」


 これまで言葉少なかった少年が口を開けば、老神父は「よろしいでしょう」と従来の朗らかな表情で応えた。大英雄の怒りを静めるなど、ジオは聴かされていた以上の人物であるとわかり、何処か嬉しさを覚えていた。


「恩赦があるというなら、ヴァリスナード様にこそ向けられるべきじゃないか? アイリス教のことはよくわからないが、こんなところで暴れるのはご法度で……、そうだよな? なら、大英雄が投獄されるなどあっちゃならねぇ」


 呆気にとられるジェフリーを見ながら、うんうんと頷いてジオは続ける。


「見てのとおり、俺――私は枷をつけられても自由に動ける。大人しくしてたのは、人間種の勇者でありたいからです。けど、ヴァリスのじっちゃんに何かあったら、ついつい暴れてしまうかもしれん……。神父さん、俺はどうしたらいい?」

「ヴァリスナード殿を止められる者に暴れられては、かないませんね」


 質問どころか、はっきり言って脅しだ。無茶苦茶な提案にも、ジェフリーは笑って応えた。このジオという少年は真面目そうに見えて、頭のネジが幾つか緩んでいる。流石はヴァリスナードの秘蔵っ子だと感心すらしてしまった。


 落とし所を見つけ、裁判所の空気が弛緩していく。先程まで険しかった王も相好を崩してすらいた。


「では当初の予定どおり、ジオグラフィカエルヴァドスは禁固刑。期間は五十年ということでよろしいか?」

「何と――」


 ただ一人、顔色を変えなかった者が声を上げた。後ろに流された金髪に青白い肌の神父、アジードだ。鋭い瞳を隠すよう、眼鏡に手を添えながら告げる。


「裁判中、それも王の御前で武装する……。本来なら極刑ものです。どうかな、ジェフリー神父?」

「待ちなさいアジード、私は判決をまだ下してはいない」

「レジーム王はいかが思われますか? 私、アジードの考えは間違っていますでしょうか?」


 再び殺伐としたものが裁判所内に蔓延り始めた。振り出しに戻るどころの話ではない。ヴァリスナードはおろか、裁判長も暴れ出しかねない状況だ。


「ジオ、帰るぞ」


 緊迫した場面に、高い声が響いた。


 このあどけない声の主は、ジオとアジードの間に忽然と姿を現した。「精霊様のお出ましだ」などと告げる闖入者を、神父たちはリアクションに困る目でしばらく呆然と眺めるしかなかった。


「……またか」


 他の者には聞こえぬ音量で呻きが漏れた。これ以上の舌戦は期待出来ぬとアジードは愚痴る。


 現れた者は白いローブを纏った愛らしい少女だ。ただし瞳の色は人外の証である真紅をしている。予期せぬ人物の登場に、場内はざわつきだした。


「シャロ、どうしてここに」

「迎えに来たんだよ。人間種の勇者であるために筋を通したいのもわかる。けどな、人間の理屈にそこまで合わせる必要はない」


 精霊は人間の規則に縛られない。闘神の寵愛を受けるシャーロットは、わがままを押し通せるくらいには魔力を秘めている。


「本当に、精霊なのか?」

「一体兵士どもは何をしていた」

「王をお守りせよ!」


 口々に喋り訝しがる人々を見回し、シャロは極上の笑みを浮かべた。


「疑うなら、ルファイドに頼んでここに雷でも落としてもらおうか。でなけりゃ、私がここを更地に変えてもいいぞ」


 掲げられた小さな手が緑色に輝くと、ヴァリスナードの比ではない魔力の波が辺りを打つ。それだけで騒がしかった人々がぴしゃりと押し黙った。


「やめなさい、シャロ」

「冗談だよ。ルファイドはカミナリ様じゃない。精霊ジョークだ、わっはっはー」


 止めに入るジオへ精霊はほんの冗談だと笑うが、アイリス教関係者は皆が皆、表情を強張らせていた。そして彼女が本物であると確信する。見た目は幼いが、遊び半分でこの場にいる人間を建物ごと葬ることが出来るのだと。


「因みに制限時間がないなら、ジオも同じようなこと出来るから。そこんとこ、よろしく!」

「……脅すんじゃありません」


 こめかみを指で押しほぐす少年勇者。頭痛でも湧いたか、呻くように言葉が漏らされた。シャロは今も自由に「だってさー、こいつら生意気だよ?」などと言ってくれるため、ジオは割と本気で故郷に帰りたくなった。


「ちぇ、ジオも盛大に脅していたくせにさ、っと。冗談はさておき。今日は人間諸君らに会いたがっている方を連れてきた」


 先程から緑色に輝く拳、そこから指が広げられると中空に孔が開いた。捻じ切られたような孔の奥より、ゲストが招き入れられる。


「バ、バカな――」


 再びざわつきだす裁判所内。王も目を見開いていたが、一番の驚きを表したのはアジード神父であった。


「アイリスの子らよ、鎮まりなさい」


 凛とした声に、場内は一斉に両の手を組み合わせて応えた。少女のように清く、母のように優しい声だ。


 品のある怪鳥とでも表現すればよいか。現れたものは大きな白いカラスが如き姿をしている。大ガラスと言えば魔鳥神ピッサ・アーニュスを指すものだが、見間違えることはない。済んだ水色の瞳は教皇サリナ・アイリスの証だ。


 大聖堂にある謁見の間にしか降り立たない神が、人間種の前に姿を現しては告げる。


「世界が争いを望んでいる。これは真実、しかし母も私もそれに流されることは望みません」


 厳かに主神代行は語る。人間種を護る神が、少年を赦せと言うのだ。


「そもそも、この度の騒動は我が子ウィゴッドの不出来さが招いたもの。そこな少年を罰しようものなら、精霊シャーロットが言うとおりに闘神の怒りが降り注ぎますよ」


 神の言葉に反論出来る者はいない。暗にルファイドが怒っても止められないと言っているようでもある。


 ただし、問うことだけは出来た。


「畏れ多いながら、サリナ教皇にお尋ねしたい」

「なんでしょうかアジード神父」


 顔色をいつもより青白くさせた神父であったが、許可を得たために普段と変わらぬ饒舌ぶりが繰り広げられる。


「貴女の仰るとおりとは思います。ですが、暁の勇者が倒されたことで民心は揺らぎます。我々か弱い人間は、勇者不在に対する補償が欲しいのです」


 その言葉に偽りはない。人類最強の勇者が敗北したことは、この国にとって重大事だ。白色の光が空に灯ってしばらくが経つ。活気づいた魔物が村々へと襲いかかるのではないかと不安が拭い切れない。


「……なるほど。ですが護るべき人間へ私闘を挑んだウィゴッドへ、私は罰則を与えています。それも三月程ですが、魔物を思えば不安が募るも道理。何か手を考えねば人々は安心出来ませんね」


 白い鳥は人を喰ったような表情で困りを表す。そこへ偶々(・・)代替案を持ったものが手を挙げ、口を開いた。


「サリーさん、サリーさん」

「はい、なんでしょうかシャーロット」

「お困りなら、しばらくジオをこき使うといいよー」

「な――」


 無茶苦茶な発想に、決死の思いで斬り込んだアジードは閉口する。イーシアの再現か、ことは全てネギの勇者へ有利に働き出していた。


「刑罰には奉仕活動もありますね。ネギの勇者、ジオグラフィカエルヴァドスを当面の間は魔物討伐へ充てる……、解釈としては十分だと思いますが。どうですか、レジーム」


 随分と芝居がかった物言いであったが、人間種へ限りない加護を齎す神の言葉だ。疑問があろうとも、王は首を縦に振るしかない。


「より民が平穏である道を探る、それが王の務めでありますれば……」


 両手を組み合わせて祈りを捧ぐ姿に、サリナ神は鳥の姿ながら笑顔を届けた。


「では、後はあなたたちの手に委ねます。祈る皆に幸あらん」


 慈悲深い表情を残し、主神代行は空いた孔へ吸い込まれるように再び姿を消してしまった。


 残された者たちは困惑を胸にあちこちへ視線を運んでいた。


「……ジェフリー神父、結局のところ俺はどうしたらいいだろうか?」


 すっかり脅す気の削がれたジオの台詞に、人の好い神父は出来るだけの笑顔で応えようとする。その前にレジーム王へ視線を注ぐと、頷きが返ってきた。


「暁の勇者を倒した、ネギの勇者ジオグラフィカエルヴァドスには三月の奉仕活動を言い渡す。その内容は人類を脅かす魔物の掃討……、異議のある方はいらっしゃいますか?」


 サリナ神のお告げに反目する者などいるものか。


 押し黙るアジードの姿を瞳に収めつつ、ジェフリーは自身でも納得の判決を言い渡した。




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