表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネギの勇者って、何ですか?  作者: 三宝すずめ
第六話「黒百合が紡ぐ子守唄」
103/202

神々の集い

 長い廊下をのっそりと歩く男がいた。頭から大きなヤマイヌの毛皮を被った、これまた大柄な男だ。このような格好は、大陸に四つあるどの国でもなかなかお目にかかれない。


 町を歩けば好奇の目に晒されるだろうが、本人に気にした様子はこれっぽっちもない。むしろ、鼻歌でも唄い出しかねない程の陽気さが覗えた。


 突き当たりに差しかかり、扉の前で男は一呼吸分置く。これまでとは一転、湧いてきた憂鬱な気持ちを静めるように、濃紺色の瞳を二三度瞬きさせた。更には勿体ぶるようにして胸ポケットから取り出した懐中時計を一瞥した後、扉を荒っぽく開いてみせた。


「久しいな、皆の衆!」


 見た目に違わぬ大声量で、男は神々の共有空間(パブリックスペース)に集まった友や宿敵に挨拶する。中央に供えられた長机に、既に他の神の姿もあった。


「時間ギリギリじゃ。誓いの神の名が泣こうものぞ」


 大柄な男――カヴァン・ウィッツへ向けて、意地の悪い笑みを向けるものがいた。灰色の髪をツインテールにした幼女だ。瞳が輝かしき橙を放つそのものは、造形の神フィロッサ・ロジェクトであった。


 彼女の言葉遣いは変わらないが、本日は集会ということもあって鮮やかな黄色のドレスを着込んでいる。よく似た灰色の頭に、真紅の瞳をした執事風の青年から紅茶を手渡されると、ご機嫌そうに頷いてから口をつけた。


「何を言うか、ギリギリでも間に合っとる。我は約束破ってないわい」


 ロジェクトの隣へどっかりと腰を落とし、ウィッツは不平を漏らした。日に焼けた野太い腕を組んでは、濃紺色の瞳を尖らせて抗議する。あの挨拶でやり取りはもう終わりと言わんばかりだ。毛皮の隙間から覗く顔は、犬というよりもゴリラに近い。


 大きな声で注目を集めた後、彼を歓迎する神は少なかった。ルファイドに呼ばれたのでなければ、彼は嫌いな奴らや苦手な連中の前に姿を見せるつもりもなかった。憂鬱やら苛立ちやらが募り、ウィッツは貧乏ゆすりをしながら耐えようとする。


「破ってないけど、十分守れているとも言い難い。大体、扉を開く時にもマナーがある。ノックは三回するものだが、そもそもノックもなしに開け放ったのは結構なマナー違反。後、声が大き過ぎる。こういった集会の時は――」

「やめろエギレア、お前の話は一々が長い。我はルファイドのようには付き合わんからな」


 苦手筆頭のアギト・エギレアが注意を飛ばしてくると、ウィッツは露骨に表情を渋くさせる。純白のドレスを着た長身の女は進化の神ともあり、早口の長台詞にも益々磨きがかかっていた。


 やめろと言われたところで、理屈っぽいエギレアは止まらない。


「集会には相応しい服装がある。見てよ、ピッサだってきちんとしている。リックに言って蹴ってもらうぞ? 規則破ったら罰則だ」


 美貌に似合わぬギザギザの歯を見せながら、彼女は反対側を指差して言う。付き合わないと豪語したウィッツも、邪神連中へ指が向けられたとなれば無視も出来なかった。


 無理に話題に挙げられたのは、儀礼の神ピッサ・アーニュス。億劫そうに、だがマナーを守らなかったウィッツは許すまじと、瞳を鋭くさせる。


「そちらで勝手にやっとけ――と言いたいが、所かまわず大声を張るのはこちらもいただけない」


 ぬっと突き出された腕は、指のない丸みを帯びた形をしている。真っ黒な身体は、手と同様につるりとして見えた――本来は大きなカラスが如き姿だ。集会に合わせて人間らしい風貌を保ってはいるが、日が作る影のように輪郭のみ人の形になぞられたフォルムをしている。


 身体の全てを黒色としながら、瞳だけは異彩な金色を放つ。日頃は丸い瞳であるが、無礼な同胞を見ては尖らされる。しかし背丈は人間種の子ども程しかないので、迫力はイマイチ欠ける。


「アギト……、アーニュスのどこにドレスコードがあるんじゃ?」

「造形の神ともあろうものが。よく見てくれたまえよ」


 ん、と再度指が差された先を、灰色頭のツインテール幼女は睨む。


 真っ黒なシルエットにしか見えなかったアーニュスだが、目を凝らせば黒いジャケットが羽織られているとわかる。どちらも真っ黒とあれば、身体にすっかり溶け込んでしまっていた。これを即座に見つけろというのは無理がある。


「わかりづらいわっ!」

「騒ぐなロジェクト、我々(・・)は静寂を愛している。あと加えて言えば、人に礼節を説くなら指を差すのもやめるんだな、エギレア」

「ごめん、これからは気をつけよう。……私は謝った、次はカヴが謝る番だ」

「やめろやめろ。貴様ら、本当にうるさくてかなわん」


 一番に大声を出しておきながら、ウィッツは厭な顔を隠すこともしない。腕を振りながら面倒だと告げている。


 彼はエギレアやアーニュスとはともかく相性が悪い。地を駆ける獣を愛する神は、竜や魔人といった翼あるものがどうにも苦手らしかった。


「そうよ、やめて頂戴な。細かなところを論うのはどこぞの陶芸家みたい。本当に泥くさい……、まったく美しくないわ」


 アーニュスに近い位置から、げんなりした声を届けるものがいる。赤いドレスを身に纏い、羽根つきの扇子で顔を隠した女は、錬成の神メントレナ・プルックである。扇子の下には桃色の瞳が控えている。


 あからさまに顔を背け「あーやだやだ」などと、周囲に聞こえる音量で呟いている。頭の天辺でまとめられた髪は金色で、髪に刺さる装飾品もまた金。重たい頭は喋る度に揺れてみせる。


 物を造ることに長ける神といえば造形の神とは重なる部分が多くある。一方でその趣は全く異なる――彼女は派手さを好むし、人間種よりもドワーフへ多くの加護を齎す。


「ほーぅ、レナよ。吾輩へ喧嘩売っとるんじゃな?」


 ティーカップを机へ置き、ロジェクトはなるべく静かに睨む――声音は穏やかであったものの、篭った力は大きい。カチャンと音を立ててカップは割れてしまった。


「母さん。いい歳なんだから、落ち着いて」

「フィルよ、吾輩は冷静じゃ。努めて冷静にしているのじゃ……。余り責めんでおくれよな」


 ルファイドに呼ばれている身としては、ケンカを買うつもりもない。ただ、不満は募るので文句の一つも言いたいところだが、息子に叱られると何とも情けない気持ちにもなる。


 言い訳をするような形で、適当に発散をして終わろうと思ったロジェクトであった。しかしプルックが口元を歪めながら続けたことで状況は変わった。


「土ばっかりいじってるから、テーブルマナーも身につかないのよ」

「な、何じゃとっ!? 貴様なんか髪やら眉やらばっかりいじるから徳が身につかんのじゃ!」

「ちょっと、母さん……」

「おう、やるかロス! 我も一緒に暴れてやろうぞ」

「完全なるマナー違反だ。これから食事をするってのに、この騒々しさはたまらない」

「相変わらず、そちらは思考も地面に縛り付けられているようだな。まるでくだらん。騒ぎが続くなら、こちらは空へ帰る」


 集まった神が各々好き勝手に話し始める。大半の神は弁えているものの、激情家に分類されるものたちは席を立ち上がってもいた。


 神々の共有空間では当たり前の光景であるが、看過していいかと言えばそうでもない。神同士の争いは世界を壊しかねない。小競り合いを始める神々を見て、傍観者である神も長い耳を震わせて立ち上がった。


「もーー、やめてよね!」


 泣き腫らしたような瞳、赤褐色のそれを輝かせながら羨望の神がテーブルを叩いた。感情的になってはいるが、漏れる魔力量は少ない。にも関わらず質が非常に優れていれば、魔法にならない内からテーブルがごっそりと削られてしまった。


 彼女も激情家に分類され、且つ破壊に長ける。暴れ出されると集会どころの騒ぎではなくなってしまう。


「いやいや、ビスが怒るこっちゃない。吾輩ら少々騒がせ過ぎたよ」


 真っ先にロジェクトが謝った。それに続き、ランギス派のアーニュスもつるっとした頭を下げて詫びる姿勢を見せた。


「ケンカはやめて。私、地上のことはどうでもいいの。みんなが仲良くしてくれたら、それでいいの」


 ヒートアップしていた場が鎮まるのを見て、ビスと呼ばれた少女は拳を緩める。椅子へ腰を下ろせば、ピンと立っていたウサ耳の緊張も解かれた。中立勢の神――ビィスタンダー・バイスは身内の争いを何より嫌う。


「紅茶でもいかがですか」

「あーー、気が利くねー! キミは何処の子?」

「ロジェクト神が僕の母です」


 気の優しいバイスは、フィルに紅茶をもらって機嫌をすっかりと立て直す。紺色のドレスを青年へと見せびらかしながら、ホクホク笑顔を見せてすらいる。


 バイスの性格は悪くない。ただし感情の振れ幅が大き過ぎるために、しばしば周りは振り回されることにもなる。


「だから集まりは嫌いだと言う……」


 席に座り直し、ウィッツは誰にも聞かれないような音量で呟いた。聞かれて困るなら黙っておけばいい話だ。それでも口にしてしまう辺りが、加護を授ける信奉者からも面倒臭がられる由縁であった。


「あっはっは、あははははっ!」


 騒がしいやり取りも一段落かと思えば、妙に明るい声を上げるモノがいた。


 パンパンと乾いた音が、宙に浮いた手が合わさって立てられる――距離は離れていたにも関わらず、ウィッツはこれまで以上に露骨に厭な顔をしてみせた。


「やめろフレイル、喧しいぞ!」


 誓いの神が煩わしそうに腕を振るうと、拍手をしていた手はピタリと止まる。音は止まれども、静まり返った空間にシンとしたものが響いた。


 中身の詰まった手袋と表現するのが一番か。つい先程まで愉快そうにしていたそれも、一拍遅れで指先を戦慄かせて不快さを示す。


「カヴ、学ばんな」

「ねぇ本当に脳みそ空っぽなんじゃないかしら……。あら、珍しくロスと意見が合ったわ」


 造形の神と錬成の神が、叱責するような憐れむような視線をウィッツへと向ける。


 周囲の評がどうあれ、震える手はゆっくりと本体へと戻っていった。これで怒りが呑み込めたかと言えば、否である。


「リックがさ、大人しくしてて欲しいって言うからボクはそうしてる。いきなり怒鳴るなんて無礼だろう? ウィッツ、ボクとやるの? 今からやるの? 終わりが来るまでやるの?」


 手が戻った先、宙に浮かぶ紫のローブに中身はない。肉体らしいものを持たない中立の神が、怒りを露わに不満を溢す。ローブの上に浮かぶカボチャ、それが彼の頭だ。


 子どもが繰り抜いたような不揃いの瞳、普段はぽっかりと空いた暗い穴でしかない。それが今は怒りに火でもついたか、鋭い形に変わり、奥底から銀色の光を垂れ流していた。


「おう、我はいつでも誰の挑戦でも受け――」

「あーーー、気に障ったか! こやつはバカなんじゃ。ジャコも知っておろう? 吾輩としてはどうでもええのじゃが、今暴れたらよくないぞ」

「ロスは黙ってて。ボク、今はウィッツに怒ってるんだ!」


 ロジェクトが止めに入っても、不動の神ジャク・オ・フレイルは止まらない。橙のカボチャ頭を赤くして、宙に浮く手をウィッツへと伸ばした。


 不動の神は中立勢でありながら、心情的には主神派でもあった。ただし、その理由はルファイドがアイリス寄りだからというものでしかない。自分よりも強い闘神にしか彼は興味を示さなければ、アイリス側のウィッツであっても容赦なく握りつぶしにかかってしまう。


「神がまた減るのか」


 やれやれとアーニュスはつるりとした腕を組んで溜め息を吐く。


「ケンカは止めてっていってるでしょ!」


 バイスが再び昂り立ち上がるが、同じ中立勢が怒ろうともフレイルは聞く耳を持たない。小さな手がウィッツの頭を掴む。


 誰もがよく熟したトマトが潰れる様を想像した――が、掴まれた頭が潰されることはなかった。


「いやぁ、久々に集まってるのーに、なーにか殺伐としてますねぃ」


 妙な言葉遣い、間延びした声が響く。ただし今この時に限っては他にはない程適していた。クリーム色のローブを纏った美丈夫がのんびりと歩いて来れば、カボチャ頭は表情を一変させた。


「アル、久しぶりだね!」


 子どものような声を上げ、フレイルは吟遊詩人の青年へと飛び出す。手に掴んでいたウィッツのことなどは、ぞんざいに放り捨てている。


「なーにをして……、んんっ! いけないよジャコ、同胞を傷つけてはね」

「えーー、これはウィッツが悪いんだよ。ボク、大人しくしてたよ? リックとの約束だもん」


 カボチャ頭を歪めて、口を尖らせるようにしてフレイルは不平を漏らした。喉を鳴らし、フードが被られることで男は本来の姿へと戻る。身体の半分は骨になった神は、悩みも多いが生憎と顰めるような眉も肉もない。


「取り敢えず、お座りなさいよ。隣には私が座っても?」

「勿論さ! アル、今度は何を見て来たの? ねぇねぇ教えてよ、ボクも見ているけどさ、キミのは視点が違うから面白いんだ」


 機嫌を直したフレイルは、骸骨の吟遊詩人――アーレンクロイム・ケーマラードに誘われるようにして円卓に着く。フルゥエラ大陸を眺め続ける二人の神が和やかに談笑を始めていた。


「おい、ロス」

「……応えんぞ、吾輩は応えんからな」


 誓いの神が造形の神へと、身を起こしながら語りかける。毛皮を被った大男が眉を顰めているが、そんなことは知らんとロジェクトは言う。


「ロスよ、我とアルの扱いの違いは何だ?」

「応えんと言ったろう。これだから貴様は面倒臭いんじゃ。ジャコが如何に幼く見えても、アレもまた世界に“そうあるように”望まれてああなっとるんじゃからな。面倒臭くささを望まれてなったカヴとはな、成り立ちからして真反対なんじゃろうよ」

「母さん、しっかり応えてる」


 息子に指摘され、造形の神は黙って椅子へ座り直した。ちらりと隣を見やると、まだ不服そうなウィッツは懐中時計を見て唸る。


「おい、もう時間を過ぎてるじゃないか! 罰則もんだぞ」

「マナーを守らないウィッツが言うのは、違うと思う」

「然り」


 エギレアとアーニュスがつっこめば、誓いの神は「うるせぇ」と声を荒げていた。


 神々がここまで集うことは久しくなかった。個性豊かな面々が集まれば、どうしても騒がしくなってしまう。誰もがそれぞれの分野に特化した神々だ、このままいけば主張をぶつけ合って争いは過熱の一途を辿る。


「あー、諸君。お待たせしたな」


 やいのやいのと喧噪が繰り広げられていたところ、ハスキーな声が注目を集める。


 曲がった黒髪に褐色の肌、緑色の瞳を携えた神が現れた。主神派、邪神派、中立派のそれぞれと交流のある神、ヴァンデリック・ルファイドの登場である。いつものように黒い着物を着ているが、今日は集会とあってきちんと着付けられていた。


「時間に遅れて申し訳ない。ちょっと準備に手間取ってな」


 暗闇の中から現れたルファイドは、神々の共有空間に据えられた椅子へ腰かける。ついでに、同伴していた女性がその膝元に座って首元へ手を回した。


 赤い肌をした女性は額に角を生やしている。光を照り返す白髪に、白いドレスを纏った姿は妖艶の一言。紫の瞳は日頃鋭いものだが、ルファイドを見つめる今はとろんとしたものに変わっていた。


「あー……、やっぱりかのぅ」

「リック、お前は主神派なのか邪神派なのか」

「まー、人様を呼びつけておいていいご身分ですこと」

「破廉恥」


 神々が口々に想いを述べる。人間から闘神と呼ばれるルファイドは、神の中でも戦闘能力が格段に高い。だがそうとわかっていても、嫉妬の神セルペンティア・ランギスを伴っているとなれば、不満を隠せないものもいる。


「姫様、ルファイドから離れてください」


 つるりとした黒色の身体を伸ばして、アーニュスが苦言を呈し――


「小煩いことは後にせぇ。妾は今、至福の時を過ごしておる」


 紫の瞳を輝かせる邪神に、魔鳥神は端まで吹き飛ばされた。


「わー、えげつないのぅ」

「美しくないね。従うものを吹き飛ばすとか、言葉にならない。そもそも神は同格なのだから、ピッサを従わせて喜んでいる時点で品を疑う」

「セっちゃん、ケンカしないで!」


 女性形の神から避難の声が飛ぶが、当のランギスはそしらぬ顔で愛する闘神の頬へ手を伸ばしてみせる。


 無視をする形になったので、その他の神々のご機嫌もよろしくはなかった。


「あー、諸君。オレのために争わないで欲しい」


 ランギスを腕に抱きながらルファイドは溢すが、この言葉運びもよくなかった。ルファイド派であろうが主神派であろうが、穏やかではいられない。


「リック、遅れてきたのが邪神のためとは何だ。誓いを立て直すぞ!」

「姫様から手を離せ」

「言葉は自由だ。何を言ってもいい……。何を言ってもいいが、リックがセルペンティアを擁護するなら、私は一時的であっても敵対しかねない」

「リックよ、先日吾輩に偉そうに言っておきながらこれか。貴様、何様じゃ?」

「……私はなるべくリック側にいたいが、時間に遅れた自覚があるならもっとしっかり謝ろうな。不名誉な行いを地上で謳われたいか?」


 対等、或いは敵対する神からは一斉に文句が流された。


「いいよいいよ、ボクはいくらでも待つ。ね、後で遊んでよ」

「いいとは言わんけど、まー目くじら立てるもんでもないわね。我々には時間なんてあってないようなもんだし」

「むしろいいでしょ。面白い方がいい、愚かな言い合いがあったことすら良いことでしょうよ」


 一方、主神は愚かルファイドにも中立を保つものや、一部熱狂的に彼女へ関心を寄せる神は擁護する――その言葉すらルファイドを護るものではなく、各々の関心事に向けられたものであったが。


「あー、話してもよろしいか? 遅れてきたことには責任を感じてるから、話を進めることで償いにさせてもらいたい」


 エホン、と咳払いをしてルファイドは緑色の瞳で面々を見た。真下から熱い視線を受けたが、今は受け流す。首元に腕を絡められようとも、受け流す。


「フルゥエラ大陸に影響を及ぼす十三神よ、よくぞ集ってくれた。この地にいないエリーは始めから外すとして。休眠中のムドー、大陸で大わらわのサリーを除けば……、後はラトだけだな」


 視線を巡らせれば、その場にほぼ全ての神の姿が見えた。


 獣神、誓いの神カヴァン・ウィッツ。虚神、造形の神フィロッサ・ロジェクト。炎の神、進化の神アギト・エギレア。謳神、献奏の神アーレンクロイム・ケーマラード――アイリス派と呼ばれる神々。


 邪神、嫉妬の神セルペンティア・ランギス。魔鳥神、儀礼の神ピッサ・アーニュス――ランギス派と呼ばれる神々。


 錬成の神メントレナ・プルック。不動の神ジャク・オ・フレイル。羨望の神ビィスタンダー・バイス――中立の神々。


 それらを視界に収めて、招集をかけたルファイドは言葉を紡ぐ。十二の種族に分かれて争い合ったのも神歴時代のこと。今はフルゥエラ大陸の繁栄について、敵対すら忘れて知恵を絞らねばならぬ。


 白色光とはそれ程に生物へ影響を齎すものであった。


「ムドーは休眠中であるのに、白色光が大陸を打った。オレらは直接的に手を下す訳にはいかないが――」


 口上の途中であったが、闘神は目を見開きながら廊下へとつながる方を見た。


 ノックの後に申し訳なさを表すよう、ゆっくりと扉が開かれる。


「すまん。遅れた」


 そこに現れたものもまた、神であった。長く伸びた黒髪を後ろで適当に束ね、大陸の魔法使いが如き黒いローブを着こんでいる。手には分厚い書籍、眉間には深い皺、ついでに眼鏡の奥には隈が見られた。


「あー、いいよ。よく――」


 その神へ気兼ねすることはないと、主催者は告げようとした。言葉の最後までを待たずに色んなものが割って入る。


「帰れ、クソ野郎!」

「何しに来たんじゃ、寝ておれよ陰険」

「久し振りだね、ラト」

「姫様を置いて、何をしておるか」

「キツいこと言うでないわ、ピッサ。ラト、妾のためによくぞ来た! ささ、(ハヨ)うこちらへ来るがよい」


 神々がまたしても口々に語る。現れたのは邪神派、人間からは悪神と呼ばれるオラテオ・ラティオスだ。


 精霊と同じ真紅の瞳をした彼は、神らしからぬ神だった。眼鏡を人差し指で持ち上げながら、魔法使い風の男はアーニュスの横へ腰かけた。


「よく来てくれた、ラト。会えてオレは嬉しい」


 一度は遮られた言葉を、ルファイドは今度こそ形にしてみせた。


 主神寄りの態度を見せるが、邪神も等しく彼女は愛している。そもそも、現存する十三の神はルファイドの兄弟姉妹である――等しく愛そうとするから、個性豊かな面々とは軋轢が生まれてしまう。


「私には気にせずに続けて欲しい」


 遅れてやってきたラティオスは、手にしていた書籍を開きながら話を促した。マイペースな態度であるが、これをケイマラードは骨ばかりの硬い顔を崩して見守った。この人間に肩入れする骸骨は、敵対関係にあっても苦悩の神という二つ名を関する男が気にかかって仕方ない。


「本人の希望だ、聞こう」


 首をゆっくりと立てに振りながら、ルファイドは遅ればせながら本来の話題へと話を向ける。相変わらずランギスが首筋を撫でたりとしていたが、最早それは気にも留めない。


「私事だが、みんなに助けてもらいたい」


 眉間に皺を寄せた難しい顔をして、闘神は投げかけた。


「とりあえず、こいつを見てくれないか?」


 言うや否や、ルファイドはテーブルの上に置かれた鏡を操作する――その先にはフルゥエラ大陸にあるレジナス王国が映っている。操作が進むと王都トトリを通り越し、その北部にある聖都カルデレナへと焦点が合わされた。


「オレが選ぶプレイヤーが今、危機的状況にある」


 苦いものでも含んだ表情で言葉が溢される。


 机に広げられた鏡には、鎖や枷に手足を取られたジオの姿が映っていた。瞳を瞑って微動だにしない彼の前、そこには黒衣に身を包んだ熱狂的アイリス信仰者が並ぶ。続き、その場の音声が流される。


「暁の勇者への蛮行、アイリスの勇者不在の状況が生まれた。ジオグラフィカエルヴァドスの罪について、これより裁判を行います。レジーム王、よろしいですね」


 ジオの正面に座る高齢の神父が淡々と語る。国王が裁判長に向けて頷けば、六日前に起こった事件について正式な裁きが始まった。


 騒がしかった神々も、人間種の行く末を黙って見守る。ルファイドとしては、十八になったばかりの少年には寛大に接して欲しいところではある。


 枷をはめられたジオは取り乱す様子もなく、静かに瞳を瞑ったままであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ