表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

マイキャラに転生してしまいましたが

 ファフニール・オンラインというゲームをご存じだろうか。

 FNOとも略されるかのゲームは使い古された王道ファンタジーを地で行きながら、無限に等しいキャラ育成の幅によって余多のネットゲーマーを虜に、惹き付けて止まなかった大人気MMORPGである。かくいう俺――有栖川明宏(ありすがわあきひろ)もそのゲームに魅了されたゲーマーの一人だった。

 最初はネタプレイのつもりで好奇心から女アバターを選択し、仕事終わりの暇潰しでもという思いから始めたゲームだったのだが、あれよあれよという間に濃密なストーリー。モンスターとの戦闘。そしてマイキャラの育成に傾倒し、気づけば時間を忘れてゲームにのめり込んでいた。自分自身そこまで熱中するタイプではなかっただけにこれはけっこう意外だった。

 FNOの特長でもあるキャラ育成では剣士の派生職である拳闘士の最上位職、拳王という魔法全捨ての筋力、敏捷極振りの少々ピーキーな職業に着き、プレイ時間が千を越え、いつしか俺は自他共に認めるFNOガチ勢と化していた。

 プレイヤー名を【aria】。トッププレイヤーの端くれに立ち並ぶほどまでに登り詰めたその名前は、FNOを楽しむプレイヤーなら知らぬ者はいないと言わしめるほどに轟いていた。



 * * *




 小鳥のさえずり、木々を揺らす暖かな風、地を照らす麗らかな日差しに俺はぱちりと瞼を開ける。


「…………ふぁ」


 なんか眩しいなーとか思いつつ欠伸をしながら背筋を伸ばす。寝違えたのか、身体に妙な違和感を覚えつつも俺は辺りを見回して、絶句した。


「…………は?」


 そこにあったのは辺り見渡す限りの木、木、木。森、超森だった。意味わかんねぇな。超森ってなんだよ。


 何度も瞬きしながら眼を擦った。続いて頬をつねって――普通に痛かった――これが夢ではないとしっかり確認した俺は耐えきれず呟く。


「どこだ……ここ……?」


 喉を響かせ、口から漏れた声は涼やかなソプラノ。明らかに平素とは違う自身の声音に俺はようやく異常は周囲だけでなく自身の身体にも起きているのだと気がつく。


 困惑しつつも立ち上がるとカシャンと金属同士が擦れるような音が鳴る。心なしかいつもよりずっと低い目線、持ち上げた腕は自分のものとは思えないほど白く、細くなっていて手首から手の平にかけて記憶にない豪奢な籠手(ガントレット)が嵌められていた。


「――これ、もしかして【巨神の拳(タイタンブロウ)】か?」


 現実ではおよそ見ることはできないだろう。大粒の宝石類がふんだんにちりばめられた黄金に輝く籠手は、俺がFNOで愛用していたイベント上位報酬の伝説級武器(レジェンダリーウェポン)巨神の拳(タイタンブロウ)】の一枚絵に酷似している。


 否、それだけではない。

 よくよく見れば俺が今身に付けている裾の長い、赤っぽい外套もFNOで使っていたレア装備【拳神羽織(けんじんはおり)】そのものだし。さっきから視界の端で揺れている黒髪は俺のものにしてはいつもよりずっと艶やかで光沢を放っている。

 ここまでヒントを出されれば嫌でも認識せざる負えない。


「俺、FNOのマイキャラ――アリアになっちゃってるのか……?」


 戸惑いに満ちた呟きは、俺の疑問に肯定するかのようにFNOで嫌というほど聞き慣れた可愛らしい少女の音声(キャラボイス)そのものだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ