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契約すればすぐに使えるって携帯電話みたい

悪魔が……。

目の前に居る。悪魔とは決まってないかもだけど、呼び出した異形なモノ……。


一言で言い表すと、羽の生えた蛇。アオダイショウみたいな長い蛇がとぐろを巻いている体にコウモリの羽が1、2、……4枚生えてる。

蛇……みたいなものかも知れない。よく見ると、体にはちみっとした前足後ろ足のようなものが生えていた。

……ただ、なんてゆーか……このイライラしてる原因は他の貴族たち、先に悪魔を召喚した貴族たちの呼び出した悪魔と違ってアタシの目の前に現れた蛇に似た悪魔は少々……その、サイズが小さい。

えーと、あのさ?皆の、やつらのさ、喚んでた悪魔って人間くらい一飲みに出来るそんなサイズだったじゃない?

なるほど。

はて?なのに、なんでアタシの目の前に居るコイツは……アオダイショウていどのサイズなのよ!

小さいにも程がある。小さくてもやつら、貴族の呼び出した悪魔は人間サイズがあったっていうのに!

これはもって生まれた魔力の差だったりとかしたりする?ねぇ、どこの誰でもいい。説明を……。


どこにぶつけていいか解らない怒りが自然と両手を震わせた。

だけど、不思議といきなり叫んだり声に出したり出来なかった。

何故にか解らないけど目の前の蛇みたいなものに瞳を奪われる。なんてゆーのかな、奇麗な蛇。そう、思ってしまう。

自分でもホントに不思議なんだけど。だって、爬虫類はそんなに得意な方じゃないし、勿論のことカエルみたいなぬめぬめもどっちかってゆーと、ってか嫌いかな。

はっきりいってカエルなら100%無理でしょ。


呼び出された悪魔の中にはカエルみたいなのも居たから、もしあれが目の前に居てアタシが契約対象だったと思うと全身が身震いしちゃうって、ゾゾッと。


その証拠に、そんなとりとめもないifを頭に過らすだけでも……背中を冷たいものが走っていく。

これでよかった、じゃない……これくらいがアタシにはちょうどいいってことだったりしませんか?


小さい、ホントにペットショップで見かけそうなくらいの大きさの蛇だけど……魔力がこのサイズってワケじゃ無いはずだし!

気合いいれた。痛いくらいぐぐっと掌を握って。

うし、やるか!


「───我が魂を受け取って契約は成ったり。汝の悠遠の力もて我にその力貸し与えたまへ。いらかの地よりやってくる者よ。今こそ我を万能の使徒へと覚醒めさせたまへ」


契約の言葉を唱え、契約は何事もなく執り行われる。そういうこと。


ぜんせで本で読んでたような体験を今、してる。悪魔と魂を代償に契約なんて、ね。


読んで知ってるのとホントに体験するのじゃ全く違うって言うのをマジで実感してる。

魂が吸われる感覚ってのを味わった。なんて言ったらいいかな、体が老いる、じゃない……酷く、ダルい。マラソン大会で走りきった後みたいな虚脱感。もう、どーにでもしてよってあの感覚。これ、まじで死ぬ感覚なんじゃない?ゲームなんかではさ、この状態をってゆーか魂が吸われることを表す言葉あんじゃん。ほら、エナジードレイン。まさに、そんな感覚。

そのものずばり、生命力を奪われるようなくらいな経験をしてる。

これが魔法を使うための、代償って?なら、広めても大丈夫。好き者じゃないなら喜んでこんなことに手は出さないから、マジでこれ死ぬんじゃないの?


止まんない、汗が、ヨダレが、涙まで出てきた。なら、多分……鼻からだって出てるはずで。

きったないなぁ……ふつーならそう思うとこ。でもね、そんな事すら思えないくらいに追い込まれてたんだよ、アタシは。きっと他の貴族だって……こんな生き死の境に叩き込まれてたんだ。

ダメだ、これ。


音をあげてしまいそうになる、精神ががりがり削られる音が聞こえる、そんな気がした。

と、同時に目の前で悠然と構えて身動きしなかった蛇みたいな悪魔に変化があった。


な、なにこれ?

髪が……生えてる?蛇に……てか、悪魔にか。なら何が起こっても不思議も無いのかも知れないワケか。

目の前の悪魔らしき蛇の頭から銀色の髪の毛が一瞬で、気付いたら生え揃ってて。


常識、とか全く意味を成さないのだと心に痛いくらい刻み込まれた。

びっくりはしたよ? 言葉にできない、身動き出来ないくらいには全身が固まったような、それくらいには。

それ以上に悪魔に対しては常識と思うこと全て全部、非常識なんだって思い知らされたんだ。

ふつーに生きてたらさ、エナジードレインなんて体験すること無いでしょ?されたことある?無いよね。

気付いたら蛇の頭から髪が生えてくるなんてことある?まず、そんなこと有り得ない、だけど。


悪魔が何してくれやがるなんて、人間さまには計り知ることは出来ないと、そういうこと。

考えてみれば、魔法だって科学的に証明してみろって言われても無理、絶対に。じゃあ、魔法が非常識なら悪魔だって非常識だとしても、不思議でも……無い?

人間に魔法はそのままじゃ使えない、悪魔からリンクした魔力を与えられて魔法が使えるようになる、魔法が使いたければ悪魔に自分の魂を差し押さえられるみたいに契約して……なんか、ズルくないか?悪魔。

だって、何したって契約しちゃったらば結局魂をもっていかれちゃうワケじゃ無い?

死んだら、次のアタシは無い。生まれなくなる。貴族の秘中の秘が帝国の強さ、豊かさの源で……それを貴族が求めて悪魔にそそのかされたか、偶然呼び出せたのかそれは知らない。でも。

そんなものが国家を支え、形付ける大元になってるとか、それはどうなの?

悪魔から借りた力で絶対必勝の力を得てるとか。


そんな思考の海に現実逃避していたら、まただ。

音が聞こえる、なんの音?

耳に直接聞こえてくるような音。

理解できないでアタシは挙動不審にも辺りをキョロキョロ。

後ろを向けばクラスメイトじゃない貴族がちらほら。その前には教師が数人、見守っている。勿論、アタシが最後まで契約をきちっと出来るか監視している意味だってあると思う。よく見ればアーマリアだっけ、帝国歴史の先生も。その隣には学園長に代わって熱弁を振るっていた教師の姿もある。


やりきらないで逃げる、そんな選択肢はなさそうだな、こりゃ……。

目の前の悪魔に視線を戻す以外無かった。


で、悪魔さんの側に注目すべき動きがありました。視線を戻して蛇の赤黒い眼が視界に飛び込んできたかと思うと、しゅるるると蛇が動き出す。正確には、トグロを巻いていた尻尾の方が動いたワケだけど。

その尻尾には契約を完全なものにする、契約を結ぶ最後に必要なアイテムが巻き付けられていた。

そう、ジュエル。

魔法が使えないものがジュエルを使えば、これさえあれば魔法を使える、そうやってオーウェンが言ってたような?違うの?

ジュエルを差し出すように前に出される尻尾。

当たり前だけど蛇革にしか見えない、そんな尻尾に巻き付けられてる白い……いや、透明と表す方が正解?そんなジュエルが目の前に差し出された。


一歩、一歩魔法陣に足を踏み込む。だって、さ、小さいの。呼び出した悪魔さん。魔法陣の真ん中の円の中に収まるくらいにサイズがお手頃。ぶっちゃけ悪魔って言われて無いならペットにしか見えなかった。

いや、髪生えてたり、羽生えてたり、足4本あったり、そりゃいろいろ変ではあるけど。

長い目でみるとやっぱり蛇。

そして、耳障りな音が聞こえてくる。ああ、なんだ。そうか、これは。テレパシーというやつ?念話というやつ?

悪魔の声なんだ。

目の前に居る蛇が笑った気がした。にやって感じに。


「これを、アタシに?」


他の悪魔は喋る、喋る。流暢に、ずっと帝国に住んでたかと思うくらいに喋る。……はぁ。

どーして、アタシの悪魔は喋るくらいの事もできなくって意味不明のテレパシーで意志疎通しようとしてんのっつーの!

他の悪魔と比べる、比べちゃうと刺すような劣等感に襲われる。やめよう……。

アタシの悪魔はこのくらいの、ひよっこ同然の、頼り気の無い、……羽の生えた蛇なんだ。それは嘆き苦しんで悩み考えても、そのことは変わったりしない。受け入れよう、そうだ。それで楽になれる。そうだよ、魔法だって使えるようになるんだもんね。

…………蛇の魔力、蛇の魔法なんてたかが知れてるような気がしないでもない──いやいや、もう、後戻り出来ない、いや。しない!

ジュエルを受け取った。こんなちょっと大きめの宝石が魔力の供給装置?みたいなものって言われても知っていないと信じれなかったかも知れないけど。


アタシは知ってる。オーウェンをぶん殴った時に。ゼリエを相手にした時に。

ティルフローズのもって生まれた力と違う、外の力を思いっきり感じたし。なにより──この二つの瞳で見てる。しっかりと。


疑いようの無い、魔法の力を。


考えてみれば、ティルフローズの小さな拳で力いっぱい殴って、オーウェンみたいに重そうなのを倒せるワケ、無いしね。


あの教師が言ってたっけ。魔法を使うにはジュエルに魔力を注ぎ込む、それだけのことだって。

あ、でも……それだけの事も何も……。やり方がまるっきり、全然まったく。一欠片も解らないんですけど、ねぇー?


悪魔を睨む。喋れ、喋れよ。さっきまでの悪魔は貴族の子らに言葉で教えてただろーが。

えーと、何か?レクチャーなしでやれと?アタシには。


その時、蛇がウインクした、そんな気がした。こいつ、こっちの思ってることは見えてんじゃないの?マジか……。

んじゃ、てすとてすと。

頭の中で浮かべるのは悪魔の蛇に対する罵詈雑言。


こいつ……、今ひくっと口がつり上がらなかったか?いや、絶対イメージした思いに反応した。

テレパシーでアタシの頭の中見てやがる、通じてる。


「オイコラ!この、ちび蛇っ!喋れ、喋れるくせにぃっ」


後で考えたらこの時の自分の後先考えなしの行為に苦笑いしかない。びっくりする。何故なら、蛇の首?どこが首かって説明はできないけど首らしき辺りをひっ掴んで蛇をどなり散らしたんだから。

見た目は蛇でも、れっきとした悪魔だってゆーのにねー。

前後の行動をあんまり覚えてないから、キレてたかな。ぷっつん。

「ンンン、ケイヤクヲヤメルカ?タマシイハイタダクゾ」


したら、喋ったよ。蛇が、アタシの両手の手のひらの中で。紫の舌をチロチロと震わせながら片言喋りで。聞き取り辛いけど、アタシ……もっと困難で聞き取り辛い言葉を脳内変換でなんとか理解出来るレベルに訳してるから。こんなのなんて事無い。へいちゃらへいちゃら。


「ふっ、ふざけんな!アタシは魔法が欲しいんだ。魂をくれてやったんだからちゃんとしろよおっ。あんだろーが、そのっ、レクチャーとか。魔力の感じ方とかっ。初めてなんだ、それをいきなり。ジュエル渡されて、はい、これに魔力を注ぎ込むだけの簡単な作業です。みたいに言われて、はいそーですか。やってみ……やれるかっ!」


「ナカニチカラカンジルダロウ」

「ああっ?………………何にも」


「オカシイ」


「おかしいって何よ。だっ、大体あんたのサイズが小さいからっ。魔力がちっせえんじゃないの?ってゆーかさー、どーしてそんなサイズの悪魔がアタシの召喚の時だけ出てくんのよ。ねぇー?!」


「スコシマテ」


「イマ、イマ。オボエル」


めんどくせーな、とでも思ったのかアタシの手のひらの悪魔は赤い眼を閉じた。


「……待たせた。我らも、貴様らが万能の悪魔と呼ぶ我らもすぐに出来ない事もある」


次にゆっくりと眼を開いた時にはふつーに喋ってました、蛇の悪魔が。


「わずらわしい事は後回しにするか。我の力は貴様の芯に届いておるわ、解らぬか。ならば、今……動かしてやろうではないか」


「な、何する……の。あ、あっ!」


心臓が。信じられないけど、握られた。そんな、気がした。え、嘘よ、嘘?でしょー?


「それみろ。我が力はちっせえから感じられないのではなくてな。貴様が鈍感だから感じ取れないだけのようでは無いかな?」


「これが───魔力。悪魔の力……」


握られた、だから。感じられないのじゃないって理解る。まるで、電気。ぴりぴり、ビリビリ、感じる。体の芯、なんて言われて、でも。どうしてさっきまで気づかなかったの?

電気なんて、体に走る感覚くらいはいくらでも体験して身をもって理解してるはずなのに。

ほら、みんなだって冬場。経験したでしょう、ぴりぴりって。

そう、良くできました。正解は静電気。ああ、……でもこれは静電気どころじゃないかも、ヤバイかも。百ボルトくらいほどの電気が体を跳ね回る。体の内で流れてく。しっかり実感した、痛いくらいに。

蛇の悪魔が『動かしてやる』ってゆーのもわかる。納得だ。生き物みたく魔力が動き廻る。血液の流れが超速に設定されたみたく、びんびんに。蠢く何かがみなぎって迸る。これが……魔力なんだ。


「っく、わかった。わかったから、……止めて」


「くっくっく、もうれくちあーなぞせんでも判ろうな。その破裂するような衝動を流すつもりで。貴様はただの管になった。我が魔力を汲み上げて注ぐのだ。このジュエルに」


蛇が喋ったと同時に蠢く何かはぴたりと止まってくれる。有り難い、こんなの続けてたらティルフローズの体がもたない。もち、アタシ的にも精神が壊れそうだったんだけど。マジで。

アタシが感じてたのは、全身の異常だ。異常事態なんだ。

考えても見てほしい。百ボルトくらいほどの電気をびりびりさせられて。血液の流れがメチャクチャになってて。全身の全神経があっちこっちに跳ね回る感覚を。そんな感覚、何をどーしたって味わえるわけ無い。そんなわけだから思い出すだけで、吐きそう!

ま、しかーし。おかげで魔力なんてものを感じて、掴めるくらいには学習出来たわけなんだけど。

問題は、汲み上げて?魔力を?んーむ?こうか?

これ危険物じゃないのか、暗黒物質みたいにヤバイものじゃないのか。このジュエルに納まる……のか?これを?

探り探り、魔力をジュエルに流す。どんどん流す、これでもかってくらいに流す。

すると、色が……。


「ジュエルに色が?」


「成功だろーが。ジュエルを見たことも無いのか、人間」


アタシは片手に蛇、もう片手にジュエルの状態。確実にこれ、ヤバイ。だって、あれ……魂を吸われた、エナジードレインな、あの感覚をまた再び味わってる。

どうして、流し込んでるだけなのに……魔力を流し込むだけの簡単な作業ですっ、つったの誰だよ、全然じゃねーかー。何だよ何だよ、これ。死んじゃうんじゃないか、アタシ。


契約すればすぐに使えるって携帯電話みたい───そんな風にあの説明聞いて思ってた。全然そんなことない。ハズレでも引いちゃったか?言われたことと、どーにも今アタシが体験してる色々は簡単な作業だとは思えないぞ?

等価交換じゃないね、損だらけだこんなの……今更、後悔しないって誓ったけどそれをねじ曲げてぶっ倒れちゃいたい。そんな気分……。


色がどんどん広がって染まっていく透明だったジュエル。色の無かったジュエルなのに今は七色、いや……妖しく色々な色に染められた。


「これ、成功じゃないよね?ね?吐きそう、死んじゃいそうなんだけど───」


そこで、アタシは。ぷちん、と。

何かちぎれるような、スイッチを押すような音を遠くに聞こえたら記憶が飛んだみたい。

その後の記憶が無い。すっぽりと。



作者の考える魔力ってこーゆーの、危険物。いや、絶対違うでしょって思われるかもだけど、使いすぎたら死んじゃうこともあったりするじゃないですかー。色々と。

だから、ヤバイ。魔力ってヤバイ。

貴族がやってることは、ヤバイ。

そういうこと。

とかいって、次から着々と魔法つかったりするんだろーけどね♪


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