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貴族の嗜み

貴族───それは王に次ぐ団体で組織。

血で繋がっていても居なくても王という威光を背に領地経営をして、オマケに戦争でその領地をごそっと減らしたり、ともすると山盛り一杯、敵地から領地を奪って拡大なんてしちゃうそんな奴等……………………………………と、いうのがアタシの頭の中の貴族のイメージだったんだが、少々違うらしい。


大体はあってた、合ってたんだけど……合ってない方がこれほど良かったと思ったのは、ぜんせに照らし合わせてみても生涯無かったていどに厄介な奴等だと思い知らされる。


この世界の貴族は五爵と称される、いわゆる貴族とはちょっと違う。

その一片をまず話さないとね、判って貰えないと思うわけで。


はいはい、ご紹介。ご紹介。





貴族の階級について……公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の一般的でアタシでもある程度知識としてもってた貴族の他に辺境伯、戦爵、法伯、外爵などの特殊な貴族もいるようだ。

既存の爵位の扱いはまああんまり変わらないので省くっとして……既存の爵位以外に触れてみよう、まず戦爵。


戦など目覚ましい成果を挙げて爵位を得たもの、しかし、領地経営に向かぬと判断されたもの、だって説明された。


ジルリットが言うには、傭兵に毛が生えたようなゴロツキ紛いの戦闘以外に能のないような人たちなんだとか。

会ったことないけど、ジルリットがそんなことを言うからさ、先入観?怖い人たちだったりして……なんて思ってるし、妄想上はコワモテのおっさんが浮かんでくるんだよ。


軍人で言うと、少佐くらいの意味合いかなぁ?

偉いは偉い……けど?どうなの?な爵位。


辺境伯。

名前の通り遠方へ左遷された伯位、または領地経営に特化した伯爵。

って、ジルリットは言うけど……アタシの知識としては違うかな?

辺境伯ってゆーと大体は小君主みたいで、国境を任されてて、きっちり強い軍隊を持つ、そんなイメージ。

だけどそんな一般的ないわゆる『辺境伯』とは違うっぽくて、なんてゆーの?

……軍隊は許されてないとかで、他の伯爵や侯爵みたいに偉い貴族から駐屯の兵や援軍を送られて防備を固めているという話だし。


そのまま伯爵のひとつ下に政治的な称位がある、そんな感じ。なんか、ジルリットの言うように左遷されてやって来た、戦争では結果残せないけど政治はばっちりなんですよ、な空気感漂ってそうな……発言力は一様に低い印象。


オーウェンも改易で後がないんだっけ、……そんな没落一歩手前な崖っぷち貴族が頑張ってしがみついてる権力ってことなのかな。

戦争をやるなら、国境には大部隊を置いて置きたいけどそんな崖っぷち貴族に言い様にさせらんないから……援軍、駐屯って姿勢をとってたりしてるんじゃないか?

戦争下手な司令塔なんて、愚策もいいとこだろうし……上位の将軍たちもいたずらに死人の山を作らせたくもないに違いない、なんて。


なんでも、帝国は勝たなきゃ貴族でも悪く言うと酷い場合には、奴隷に落とされるような絶対勝利が義務というか当たり前なんだとか。

で、無理な領地拡大政策が敷かれているので、それはもう余分以上に領土が広がってて開拓も間に合ってないくらいに、急速に。

帝国の貴族のものになった、奪った国土はそれを上手く経営出来ているかはこの辺境伯たちの腕次第。

こんな風に田舎に引っ込んで余生は送りたいな、とかって思うんだ。


ま、そのような経緯もあってか、戦争では後続などの位置で安全なところから高みの見物といった輩も少なくない。

戦争下手の左遷組に兵を任せるわけに将軍たちもいかないだろうしね。

なので、ここより上に上がるためには至上の頑張りが必要となるらしい。

戦功は期待出来ないし、国境辺りは民心も帝国にはなかなか傾かないから誰がやったって成果をあげるには時間がかかるんだとか。

侵略者をよく思わないのは、どこの世界の住人だって同じなんだろーな。

生活が以前以上にでもならない限りは、心の底から『帝国万歳なんて』言えないよねー。



では次、外爵。

彼らは占領先や戦略的に他国から調略に応じてやってきた貴族、亡命してきた貴族など所謂ところなんの関係も帝国ともたない貴族の爵位。


発言力は未知数だがだいたい偉そうにしていて、役目を終えると奴隷になってるケースがだいたい。

言ってみれば、良いように使われて可哀想な人たち、だ。

奴隷にされる危険性を知って爵位を投げ出すものもいるほど。


社交界なんかに上がるには爵位が要るわけで、でも子爵や男爵みたいのを他国から旨味が欲しくて寝返った貴族なんかはそんなのじゃ納得して貰えない。だから、当たり障りのないくらいに爵位を作ったのが始まりだとか。


帝国以前からある爵位というけど、ここから這い上がらないと人生詰んでるわけで。

ツーアウトツーストライクな貴族さん達……御愁傷様。



で、最後に、法伯。

オーウェンが使って見せたような、この世界の魔法のエキスパートな人で、その数は最も少ない。

魔法使いなら誰もが憧れる爵位らしい。


ただ、この人たち扱いが難しくて一番が魔法で次が皇帝というそんな貴族的にはアウトな思考の方々。

そのため、身を挺して国を守るとかそういった真っ当な貴族のあるべき姿、貴族のとるべき行動とは全く違う確信犯な上で周りをあわてふためかすななめ上をいく存在なのだとか。


教えるジルリットも、『まぁ、まず会うことはあるでしょうが。家格とは逸脱した、貴族であることを気にしない生活をなさっていられる方がほとんどです』


なんて言って格上とか下とか在ってないようなもの、と説明されたわけですし。


魔法使いは多くはないけど、少ないってわけでもないらしくって……それでも法伯の名を持つ魔法使いは五人いれば多い方なんだって。


帝国への貢献は他を圧倒し、一人で戦争を始めて終わらせるくらいの能力。


戦爵千人の価値があるとかないとか。そんな実力社会だからか、頭のネジが擦りきれておかしくなってる場合も実は多い。



一般人には雲の上な存在にしつらえ、したてあげられた……ご丁寧にまぁ……、そんなまやかしの団体──貴族になってしまったアタシだから、いや……貴族の妻なんだな、貴族はオーウェンでアタシにはそんなの関係無い、無いはずなんだ、無いと思っていた。

それは、都合のいいことでしか無いことだったかも知れないけどさぁー。


どーして、…………………………悪魔に魂捧げるってことになんのよ?


前半はそれっぽく割かし楽しめた、後半はドタバタしてこんなのは違う、って思った遠足から一夜明けて、次の日。

アタシは学園の一室に学園長の一命で呼びつけられた。


そこには、他に何人か生徒がいて、おめでとう。とか、選ばれた方々です。とかお世辞を並べる学園長。


で、それが終わると今いるこの大理石みたいに磨かれた石の、一面ぴかぴかな床が広がるだけ。

そんなホール状の建物に入った。

辺りを見上げると、二階は四方を丸くベランダがあってそこには見たことのある教師なんかが座ってるのか、ぱらぱらと散らばるように顔が見え隠れ。

なんか見せ物にされる闘技場のステージがないバージョンな気がしてくる。


ここで説明を受けた。

学園長も目の前に立ってて説明をしてる教師の話を黙って聞いてんだけど、この無害そうな笑顔の学園長は裏があることをアタシだけが知っている。


「ここに何で居るか、よく解ってない顔をしている者も居るようだがこれは君らの義務。貴族であることの最大の強み。そして、貴族であれば誰でもが享受すべき伝統でもある。単刀直入に言おう……、君ら貴族の魂は今日、今のこの時をもって、君らのものでは無くなる!」


説明を受けても、義務だ、やれ、享受すべき伝統だなんだ言われるだけで……よくわからん!


「これは過去、王国の頃より長々と続いてきた帝国貴族の秘中の秘。魂を悪魔に差し出すことによって契約は成立し、悪魔は君らに力を授ける。カッコよくなりたい、器量良しになりたい、そんな願いも叶う。勿論、わが学園ではそんな願いでは契約は成立させないわけだが。帝国の明日の力となって貰う為に君らが悪魔と交わす契約は───」


頭の中わいてるんじゃないか?

魂はいっこしかなくて、あげちゃったら無くなるんだぞ?


「──魔法!ここに居る皆そろって魔法が使えるようにしてやろうと言ってるんだ……悪くない、そう思えるだろう?

いや、いい。反論など端から聞く気はこちらとしては無いのだからな。どんな悪魔も、弱かろうと強かろうと魔法を使える。その悪魔と契約することにより、君らには魔法が使えるようになる。これは帝国の秘力であり、財産なのだ」


無くなったら、アタシ死んじゃうだろ!


「ん?

だろうな。そうだろう、そうだろう。魂を悪魔に取られてたら、死ぬかと心配しているのか。勿論、契約するには魂の譲渡が条件になる、しかし、魂はひとつでありひとつではないのだ。よかったな、心配ごとがこれで消えたわけだ。何も、契約した魂は君らの中からは消える訳ではない。悪魔のモノとして呪印が施されて君らが死ぬ時に悪魔が取っていく、それだけのことだ。魂半分は常に悪魔の中に、半分は君らの中に。これによって魂を通じて悪魔とリンクし魔法と呼ばれる、非自然的な力を使うことが出来るようになる、というわけだ」


ん?なんかしらんが、死にはしないらしい?


「悪魔の中に根付いた君らの魂の半分は、リンクする元の君らの魂に魔法を使うために絶対必要で、ただの人間には絶対に持つことのない力──魔力!その魔力を作り、供給する役目をする。そうして君らは、君らの器に見合った魔法が使えるというわけだ。悪魔との契約システムの仕組みはこれで解って貰えたかな、諸君」


半分取られて、悪魔の中で魔力を供給する機関になる?

なんだそりゃ。


ようは……悪魔と契約したら、死にはしないけど魂を預かられてかわりに魔力が強くなるのか?

アタシの知ってる悪魔とだいぶ違うな……あいつら人間の魂をデザート代わりに食べちゃうようなやつらだし、食われちゃうと死んじゃうし。


適正なくても悪魔契約で魔力を得られる?

適正あれば悪魔にもっと強力にしてもらえる?


そして、その秘術は帝国貴族の秘中の秘なんだとさ。


強くなるのか、強くなる為に必要ってゆーんなら……リズの、首の皮一枚で繋がってる魂をくれてやってもいいよな?


アタシはどーせなら強くなりたい!

どーこー言ってくる雑音その他大勢を黙らせて踏み潰して二度と偉そうな顔が出来ないように!

なあ、それでこその悪魔契約(チート)なんじゃないの?


まず、魔法陣を書くとこから。

契約をスムーズに行うために魔法陣を書くインクに本人の血、つまりアタシが血をまず差し出さなきゃなんない。


「これでいいの?」


渡されたナイフを受け取って人差し指の指先を傷つける。少し。

そして、垂れて流れる真っ赤なアタシの血、ぽたり。

インク壺に指先を近づける。

垂れた鮮血は濁ったインクの中に混ざって。ぴかっ。

光った。


「はい。準備はこれでいいです。名を呼ばれるまで、後は待っていてください」


ただのインク、という訳でもない感じ。

魔力が練られてるとか、魔法で産み出されたインクとか、そーゆーのだったりして……って考えすぎか。

いや、でもな……悪魔契約するよ、悪魔呼び出すよって言ってるネジの緩んだ貴族がやってることだし。

血を垂らすと光る、そんなインクがふつーなインクであるはずなんてないわな。


そうしてただ待ってますってのもなんだったから、トイレへ。


「ふぅ……って、……やけに静かになっちゃって。どうしたってゆーの……」


すっきりしたアタシが帰ってくると。

最初に呼ばれた、ナントカって貴族が悪魔契約をするとこだった。


出てきたのは、三本のぐりんぐりんした鋭く尖って並べた異様な角を生やした鷲鼻、鉤爪の悪魔。


悪魔、っぽい悪魔だ……。

あ、ホントに……。ごくり。

喉が鳴った。


悪魔と、アタシとが、契約をする。

アタシの魂が悪魔のモノになってしまう。

そう、実感が今さらになって湧いて出て。

ざわっ、と心が戦慄いた。


え?びびった?

そりゃ、ビビるよ。魂を質に入れるみたいなものだよ。

魂を喰われたら、伝承通り……輪廻の輪から外れて転生しなくなってしまうかも、なんだよ?


だけど、それとは別に……違う意味で心がざわついてるアタシもいる。魔法だ、魔法だよ?

魔法を使えるようになるんだよ?

出てきた悪魔と契約を交わすと、魔法が使えるなんて……携帯会社と契約すると携帯を使うための電波が使えるようになるって言うのと、なんとなく似てるようなそんな気がして。

実感しつつも、ゆっくりと恐怖が和らいだ。



そんな事をアタシが考えてる間にも、目の前では悪魔と契約をする光景を目にすることが出来た。

悪魔ってのも、見た目は異常で凄く怖くて酷く威圧感があるわけだけど、いきなり取って喰われるって訳ではないようで心配ごとがまたひとつ減った。


「怖い姿をしたのばかりが続いて、そういうものかって思ってたけど……こんな奇麗な、可愛い姿の悪魔も居るんだ……」


何度目かの貴族が魔法陣を描いて、その悪魔は現れた。


耳が尖ってて、銀色した角が生えてる以外は美少女な姿。

そう、一部を隠せば人間に見えないこともない、そんなのも契約の場に出てくるとアタシもあんな悪魔だといいなーなんて思ってしまう。


魔法を使うために契約するだけでも、何度かその姿を見ることもあるかも知れないわけで、どーせならあんな可愛い悪魔なら友達にも成れそうなんて、羨ましく思っちゃったとしてアタシは間違ってないと言いたい。


そんな悲喜こもごもありつつ、アタシは自分の名前が呼ばれた事をやっぱりそれでもどこか他人事のように受け止めて、歩き出した。

魔法陣ひとつは専用で、まぁそのために本人の血をインクに少し混ぜて書くわけなんでね。

呼ばれて現れた悪魔は、アタシ専用になるわけなのだ……。



「……っく、……えっ?」


言葉に詰まる。

それもそのはずで、現れた悪魔は想像していたよりずっと悪魔らしい姿をしていた……そんなアタシがすぐにそれを受け入れられるかと言うと、そうじゃなかった。



「……コイツが、こんな悪魔が……アタシの?」



魔法ひとつに命を縛られるリスクがある──そんなお話し。


魔法が使えると解ってわくわくしてたら出てきたのは悪魔らしい姿をした悪魔で───



必勝の帝国の秘密がここにあった。



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