不確定要素での決着
スキルとは、見えない数値である自分の行動に付く熟練度によって追加される力である。そしてそれはモンスターもまた然り。
決まった習性を持ち、自分の武器を一番良く理解している彼らも、それぞれのスキルを習得している。
そしてグレテフレーゼはハッキリ言って強い。今のタケ達では勝てないだろう。
パワー、スピード、全てに勝っている。
そんなグレテフレーゼのスキルであるpower armは一番力がある。
そんなpower armはナナシの背中を砕き、ナナシを地面に叩きつける筈……だった。
だが、お忘れだろうか?
狼に噛まれ、痛みも傷1つ付かず、死ねない事を確認した事を。
そして今、ナナシのその謎の現象が
死すらも遠ざける、忌まわしい筈のアレが
今度はナナシを救った。
スキルによって放たれた腕の一撃は、ナナシの背中に食い込むだけで終わっており、それ以上の侵略を許していない。
この現象を前に、助けられたシズは開いた口が塞がらなかった。
それも仕方がないと言える。
なんせダメージも衝撃も食らっていないのだ。それこそ、ダメージを無視しているかの様である。
既に似た様な話を聞いていても、驚きは隠せなかった。
「話には聞いたけど、やっぱり信じられないね」
「だろ?俺でもビックリしてる」
話とは、自殺未遂の時の話だ。
その時の話も合わせ、戦場にいる事を忘れる様な笑い声が出る。
そして、一通り笑った後
「じゃ、やってみるわ。タケの事よろしく」
「ええ、頑張って。私も後で行くから」
そう言って、グレテフレーゼに向かって振り返るのだった。
「覚悟しやがれ、糞ドラゴン」
ナナシが今、巨大な竜に挑む。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『Guuuioioioioooiiiiooooooooo!!!!』
グレテフレーゼが雄叫びを上げながら、その巨大な腕を振るって迎撃する。
上から振り下ろす様にして放たれたそれを、ナナシは……
「喰らいやがれぇ‼︎」
気合いの入った声と共に、大振りのテレフォンパンチが放たれる。
一見、何の変哲も無いそれは、グレテフレーゼの腕を真正面から受け止めた。
何故ナナシがこんな事を出来るのかは分からない。しかし、一度は恨んだ力でもそれが仲間の為になるならば……
使える物は何でも利用する。
そんな思いで、ナナシは拳を振るう。
「まだまだぁ‼︎」
再び、拳はグレテフレーゼの腕を止めた。
そうしてグレテフレーゼがその猛威を振るう度、ナナシは拳を使ってそれを止める。
勝てるかの様に見えたが、1つだけ懸念事項があった。
(ダメージが入っていねぇ‼︎)
そう、ナナシのパンチはグレテフレーゼのHPバーに傷1つ与えていないのだ。
つまりは、ナナシ1人では倒せない。
それを悟ったナナシが冷や汗をかいた瞬間
「『パワースラッシュ』ゥゥ‼︎」
横から突然、その大剣に光を纏わせたタケが飛んでくる。
大剣、片手剣専用攻撃スキルーーパワースラッシューー
これは縦斬りから派生したスキルであり、大抵の剣使いが最初に習得するスキルでもある。
ただし別にスキル習得までに必要な熟練度は低くなく、ナナシはタケがこの場で習得するとは思っていなかった。
しかし、その懸念はいい意味で裏切られたと言っても良い。
そして、それはナナシ達が最大のダメージソースを手に入れたという事でもある。
タケが放った渾身の一撃は
Boss: Gretefrethe
HP:2876/4500
Status:正常
↓
HP:2503/4500
戦闘が始まってから今までで最大のダメージを叩き出した。
『Guuuioioioioooiiiiooooooooo!!!!』
叫びと共に振るわれる尻尾をナナシはその拳で受け止める。
ダメージを受けないという不確定要素に賭けた戦いの終わりは、一歩、また一歩と近づいていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから数分、ナナシはひたすらグレテフレーゼの攻撃を止めていた。
幸い、グレテフレーゼの動きは単調で大振りだった為、受け止めること自体は簡単だったからだ。
そして、ナナシが攻撃を受け止める間にタケとシズ、そしてサヤの攻撃が少しづつ、しかし確実にHPを削っていく。
Boss:Gretefrethe
HP:649/4500
Status:正常
そしてHPが700を切った瞬間、
『Guuuioioioioooiiiiooooooooo!!!!』
グレテフレーゼが叫びをあげる。
しかし今回ばかりは、何時もの叫びとは違った。何故なら………
--Monster skill: pressure howl--
そんなウィンドウが現れたからだ。
字面から察するに、周りの動きを一瞬止める効果があるのだろう。
そしてその一瞬は最大の隙を生んだ。
--Monster skill: tail whip--
追い打ちを掛けるように追加のスキルが発動され、グレテフレーゼの尾は光に包まれる。それは最大の一撃。グレテフレーゼのHPが一定以下を切ると使うようになる、最後の悪足搔き。
その雄叫びは、その場の全員の動きを一瞬だが止めたーーーー
その場にいた、攻撃を受け付けないたった1人を除いて。
「させる……かぁ‼︎」
脳の何かが切れた音がしたが、関係無い。
今はただ、あの一撃に届く足があればいい
そんな思いが、自分の中にある何かを切った
自然と足は力を持ち、身体から力が湧く。
この瞬間、ナナシの脳のリミッターは粉々に砕け散った。
そして、ナナシの身体はあり得ないスピードで加速し、スキルよって放たれた尻尾の一撃をシズに当たる直前で止める。
「今だぁぁぁ‼︎」
後は身体が勝手に動いていた。
足はグレテフレーゼに向かって進み、
身体は最後の一振りに力を貸す。
肩に担いだ大剣を掲げ、
タケはトドメの一言を言い放った。
「喰らえ、『パワースラッシュ』ゥゥ‼︎」
金色の光を帯びた大剣が、グレテフレーゼの体を切り裂く。血を吹き出しながら倒れた竜はーーー
Boss:Gretefrethe
HP:0/4590
そのHPが0になると同時に、光の粒になって消えていった。