対決 グレテフレーゼ‼︎
Boss:Gretefrethe
HP:????/????
Status:正常
巨大な漆黒の竜が現れた。
それは唐突に、自然に。
そして、急に現れた脅威に彼らは対応出来ない。だからだろうか、彼らが立ち尽くしたまま動けないのは。
(動けよ、動けよ!俺の身体!)
(怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
(身体が…動かない)
頭の中で分かっていても、動かなくてはいけないと分かっていても、目の前にいる圧倒的な脅威に身体が動かない、いや動かせない。脳が無意識に恐怖を理解していても、身体が、本能が、「動いたら殺される」と伝えてくる。
見えない鎖に縛られて、タケ達は動けない
「何してやがる! 逃げるんだよ!」
唐突に声が聞こえた。
それを認識した瞬間、言葉の刃が見えない鎖を壊す様に身体が自由を取り戻す。
慌てて彼らが真横に飛んだのと、グレテフレーゼがその長くて太い腕を叩きつけたのはほぼ同時だった。
ドゴォン‼︎
爆発した様な重い音が鳴り、タケ達が居た場所を粉々に粉砕する。
タケ達は間一髪避けた後、やっと反撃に映った。
「うぉぉぉぉぉ‼︎」
高らかに声を上げながら、あの攻撃から生まれた隙を突いて斬りつけていく。
それを合図にした様に、サヤ達も攻撃を始めた。
大剣と薙刀の刃が肌を斬り、放たれた矢が突き刺さる。
Boss:Gretefrethe
HP:4833/4500
↓
HP:4759/4500
↓
HP:4668/4500
ダメージを与えていることに、タケ達は静かに安堵する。流石にダメージを与えることができなければ、自分達に勝ち目はなかっただろうからだ。
だから、少なくともダメージを与えている事が支えになる。
今の所、グレテフレーゼは腕を使った大雑把な攻撃しかしていない。
後に攻撃パターンが増える可能性があるが、少なくとも今は大丈夫だろう。
「大丈夫、あいつは倒せるぞ!」
だから、タケは皆を励ますのを辞めない。自分が折れたら、皆が折れる。
そんな思いが、タケをより一層、奮い立たせる。彼にもう一回、立ち上がる勇気を渡す。
そして攻防を続ける事数分、それは起こった。
Boss:Gretefrethe
HP:3000/4500
Status: 正常
↓
HP:2876/4500
それはグレテフレーゼのHPが3000を切った瞬間と
それはタケが追撃を与えようとして近づいた瞬間と
それはサヤが矢を弓に掲げた瞬間と
ほぼ、同時だった。
--Monster skill: tail whip--
『Guiuiuiiiuiiiiuooooooooooooo!!!!!!』
耳をつんざく様な雄叫びと同時に、その強靭な尾が緑色の光に包まれる。
今更だが、グレテフレーゼの身体はどちらかと言うとティラノサウルスに酷似していた。そしてその武器は強靭な顎とその体躯に似合わないスピードで振るわれる尻尾である。
円を描く様にして振るわれたそれは、タケの横っ腹を強打し吹き飛ばした。
「「タケ‼︎」」
シズとサヤの叫びが聞こえる中、ナナシの目にはシズを次の標的にし、超スピードで突進してくるグレテフレーゼの姿が映った。
ーーーとあるヒーロー漫画の中に、こんな台詞がある。
「考えるより先に、身体が動いていた」
だからだろうか、自分の足が動くのは。
何か策がある訳でも、
助ける力がある訳でも無い。
それでも、
それでなくとも、
この訳の分からない世界で、
自分を少なからず救ってくれた、
最大の恩人が死ぬのを見ていられるか⁈
「うぉおおおぉぉぉおおおおお‼︎」
自然と声が出る。
思わず踏み出した足は、グレテフレーゼとシズを遮る様に数メートル前で止まった。
そして身体は自然とかばう様に腕を上げ、大の字になる。
グレテフレーゼに背中を向け、シズと向き合ってナナシは言った。
「大丈夫」
ただそれだけ、
そのたった一言の後、
--Monster skill: power arm--
ナナシの背中を、紫色の光を纏ったグレテフレーゼの巨大な腕が襲った。