出逢う2人
移り変わり行く景色が収まった時には、シズは石作りの広場の中に居た。良く見れば、周りにもいきなり現れた人が何人かいる。待ち合わせをしていた者もいる様だ。
どうやらここがスタート地点らしい。
「さて、行きますか」
こうして、シズは一足早くコネクトオンラインの中に入ったのだった。
ーー起源の街 イニシアーー
広場を出たシズを待ち構えていたのは、膨大な数の人間とファンタジーらしい風景だった。
古めかしい石作りのそれは、まるで中世ヨーロッパのよう。コネクトイオンを介して送られるデータは、ラグる事も無く全ての情報をリアルタイムで送られる為、コードを外されでもしない限りはこの仮想世界は揺るがないのだ。
それはさて置き、シズは街の見物に歩き出す。見渡せばファンタジー風の装備を着た人が何人か居て、街人の格好をしたNPCがまるで生きているかの様に暮らしている。
改めてVRの凄さに驚いていると、シズの目に奇妙な者が映った。
格好は街人と同じシャツとズボンだが、その表情から溢れる絶望が、NPCとは違う事を明らかに示していた。背丈からして自分と同じ17歳だろうか?何故あんな表情なのだろうか?
それを見たシズは少年に向かって歩き出していた。
理由は分からない。
少年だから?
明らかに不審者だから?
いや違うだろう。あの今にも泣いてしまいそうな表情を見て、動かない自分が居るだろうか⁈
「どうしたの?君」
だから、少女は少年に声を掛ける。
「俺の話……聞いてくれるのか?」
声を掛けられた少年はゆっくりと顔を上げた。その顔は涙で汚れている訳では無いものの、まるで心底嬉しそうな顔をしている。
「そんな泣きそうな顔をされたら、放っておけないでしょ」
つまりは、そういう事だ。
ただ単に、泣きそうな顔をする少年を見ていられなかっただけである。
「そっか……あんたはみんなとは違うんだな……」
「皆んなって?」
「実は………」
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そして話は数十分前に遡る。
「誰かと話そう」と意気込んで道に出たは良いものの、誰も少年と話そうとしなかったのだ。
まぁ、それは仕方がないとも言える。
NPCと同じ格好で急に言い寄られても不気味としか言えないだろう。
だがまだ話さないだけ良かった。
何人かは、「イベントか⁈」と期待しながら少年の話を聞いていたのだが、聞いていく内に、
「不気味な奴」
と言い残して離れていった者よりかは、まだマシな態度だろう。しかし、今まで少年が話してきた者全員がこの2つの内どちらかの対応しか取らなかったのだ。
逆に、向こうから話しかけてきたシズがおかしい方である。それをシズは「見ていられないから」という理由で話しかけてきたのだ。少年が驚くのも無理は無いだろう。
そして、少年は声を掛けられた
「どうしたの?君」
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こうして話は戻る。
自分の事も踏まえて全て話した少年にシズは、
「じゃあ、私と来てよ」
そんな提案を持ち掛けたのだった。
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ここイニシアの街は基本、シンプルな街である。
何がシンプルなのかと言うと、ショップや武器店の配置などが、だ。
しかしやはりどこの街でもある通り、イニシアの街には隠れた名店?が存在する。
何故そんな事を話しているのかと言うと…
「ね、ねぇ、君。本当に、本当〜にこの道で合ってるの?」
「大丈夫だって。ここを過ぎれば目当ての店がある…………………筈」
「ねぇ……その変な間は何?」
「大丈夫だって……………多分」
「ちょっと〜‼︎」
この通り、街の裏道や隠れた小道を進んでいるからだ。
シズから「一緒に来ないか」と提案をされた少年。シズから提示されたのは、
「君の事が分かるまで面倒見てあげる。その代わり、君が知ってるこの街の情報を教えてよ」
という物だった。
右も左も分からない自分を引っ張ってくれ、しかも対価は自分が知っている大したこと無い情報と言う破格の条件に、少年は直ぐさま承諾したのだ。
そしてまずはショップや武器店の場所からと案内し始めたのだが………
「なぁ、シズ」
「なに?」
「お金……持ってんの?」
ピキッ
その時、少年は確かに時が凍った音がしたと言う
「………そもそも、お金ってどうやって確認するの?」
「そこからかよぉぉぉぉぉぉ⁈」
…………少年のキャラがブレブレになっている!
ゴフン、まぁ自分の事を何も覚えていないので仕方ないと言えるのだが。
「まぁ、"メニュー"って言えば良い」
気をとりなおして、まずはメニューから教える少年。シズが支持された様に「メニュー」と言うと……
「わ、何これ。これがメニュー?」
どうやら無事にメニューを出せたらしい。
そして何とかしてメニューを可視化させた結果、シズ達は遂に自分のステータスを確認したのだった。
Name:シズ
HP:150/150
Status:正常
武器アビリティ:無し
以上が、現在のシズの状況である。
装備は初期装備の軽装で、ファンタジー感溢れる格好となっている。
因みに、このコネクトオンラインはレベル制では無い。自分の動きを認識し、攻撃方法一つ一つが熟練度などの見えない数値に見守られ、それらの数値が水準を満たせばスキルが発現すると言うものだ。
例えば、縦斬りを何度も行えば「縦斬り」の熟練度が上がり、縦に斬る様なスキルを覚えるのである。逆に、実際にカウンターを行った事が無ければ、カウンター系のスキルは覚えれないという事でもある。
暗殺者の様な戦い方をすれば暗殺系のスキルを覚え、戦いを支援ばかりしていれば支援系スキルしか覚えない様に、このゲームではスキルは自分のプレイスタイルに影響される物であり、プレイヤーの数だけスキルの組み合わせがあるのである。
故に、始めたばかりのシズにスキルは付かない。戦ってすらいないのだから
それはさて置き、
肝心のお金はと言うと……
Gold:100g
少年は凍った。
それはもう、本当に凍ってしまったんじゃ無いかと錯覚するくらい、自然に。
それは無理も無い。
なんせ1番安い武器でも500gはする事を少年は知っているからだ。
つまり、これっぽっちも買えないのである
「ーーーーーー、ーーーーー‼︎」
少年が声にならない叫びを上げる中、一組の男女が接触した。
「よ、シズ。抜け駆けなんてズルイなぁ」
「ねぇ、シズ。誰その人」
シズの友達のタケとサヤとの再会であった
タケは余り気にした様子では無いが、サヤは少年が誰か気になるらしい。
何か言わなければ、とオロオロするシズを尻目に、少年は怪しまれない様にと、
「初めまして、かな。
ナナシって言うんだ。宜しく」
そう逃げるのだった。