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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
一章 遺骨ペンダント
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三話『ロッカーの鍵/添田という人』

「ふーん、それでこれが問題のか」


 あらかたの流れを聞き終えた所長は鍵を摘み上げる。

 プラスチックの番号札とぶつかって軽い小さな音が鳴った。


 城野探偵事務所。

 所員が全員集まって机に置かれた何の変哲もない鍵を眺める。

 姫香さんはあまりこういうのは得意ではないみたいなので説明は僕がした。細かい補足は姫香さん。そう言えばいつも断片的に喋っているし、話すの苦手なんだろう。


「慌てた女性、渡された鍵、それに添田一郎、その息子。なるほどなぁ」


 所長が難しい顔をする。スキンヘッドに厳つい顔も相まって凶悪犯っぽい。


「…『新宿』って書かれているし、普通にそこのロッカーの鍵かな。このご時世に電子カードとかじゃなくて鍵か~」


 椎名(シイナ)百子(モモコ)さんが鍵をつつく。ハスキーボイスな事務的処理を中心にこなす人だ。


「所長。女性の『助けてもらった人』――こちらからすると『助けた人』って誰なんですか? 僕が聞く限り結構信用しているような雰囲気でしたが」

「まあ待て、俺だってすぐには分からんさ。調べている間にこの鍵でパンドラのロッカーを開けてきてほしいんだが――」


 所長は使いこまれて古びた鍵を前触れもなく投げた。


「ーーじゃ、見てこいサク」


 難なくそれをキャッチした咲夜(サクヤ)さん――前原(マエハラ)咲夜さんは、心底嫌そうな顔をする。年中首元に布巻いたり手袋つけているけど暑くないのかな。


「はぁ。私ですか」


 自動車免許と二輪免許を持っているせいでこういうパシリに使われやすい。


「ダッシュで十分な」

「なに馬鹿なことを言っているんですか」


 仲もそんなに良くはないようでこの二人のやり取りはいつもハラハラする。

 いや、ここまでズバズバ言いあえる仲ならむしろ仲良しなんだろう。


「俺はここ離れられないし、ヒメは人混み苦手だし、モモはクソ方向音痴だし。加えてそこのツルはあの迷宮にまだ慣れていないだろ」


 確かにそうだけど。


「シスコンっぷりは相変わらずだね~。ケンちゃんが姫ちゃんに事務所任せてパパッといけばいい話じゃない~?」


 髪をかきあげて百子さんが気だるそうに横槍を入れる。

 『パパッと』の部分には変なジェスチャーも合わせて。


「めんどくせえんだよ、言わせんな恥ずかしい」

「ぶっちゃけすぎです。仕方ないですね、行ってきます」


 事務所のロッカーを開けヘルメットを片手に前原さんは出ていった。

 きびきびとしているが、あれ多分帰りになんか買ってくるだろうな。さっきまで暇を持て余して新商品のお菓子検索していたから。期待しておこう。




「さて、こっちも調べ物するかね。よっこらせ」


 背中を見送ると、デスクの一番下の引き出しを開けて所長は分厚いファイルを三つ取り出した。

 パンパンに膨れたそいつはいっそ可哀想なぐらいだった。

試しに一冊持ち上げてみる。…重いな。


「……絞り込めそうですか、これ」

「絞り込むんだよ」


 ですよね。

 人力か。そうか。目、霞むな。目薬頼んでおけばよかった。


「デジタル化しようよこれ~。せめて五十音順にしようよ~」

「ちゃんと日付順だボケ。お前がやってくれるならなデジタル化も夢じゃない」

「え~。人任せ~」


 姫香さんはと言うと、もくもくと調べ始めていた。

 まずは名前を見つけるだけだからそこまで難しいものでもないだろう。

 さて自分もと残ったファイルの方へ目を向けると、ぶーたれていた百子さんと所長がさっさとファイルを抱え込んでページをめくっている。

 …あれ。なんか僕だけ仕事がないんですけど。


「あった」


 三十分ほどたった時だった。

 所長が目を擦りながら手を上げる。達成感を味わうためかガッツポーズなんかもして見せたが特に興味はそそられなかったので無視する。

 暇すぎた僕は部屋の隅でいつだったか誰かが持ち込んできたミルクパズルと悪戦苦闘していた。簡単だと思ったらめちゃくちゃ難しいんだけどなんだこれ。

 みんなで所長の背中越しに綺麗にファイルに挟まれた書類を見る。


 添田一郎。

 どんな依頼だったか、なん人で何をしたか、時間はどのくらいかかったか。

 そんなことが几帳面な字でびっしりと埋め尽くされていた。…手書きだ。


「ふぅん。そう言えばこんなやつもいたな。まだ百子が来ていない、前の所長と俺しかいなかった時期だ」


 二人?

 よくそれで持っていたな。


「どんな人だったんですか? 添田さんって」

「サクと一緒に話を済ませたいが…いつ帰ってくるかもわからんし、先に話しちまおうか」


 トントンと机を指先でたたいた。


「一言で言うなら金貸しだ」

「高利貸しみたいな?」

「そうだ。良心的なやつじゃなかったと思う。今生きていたら…六十代ぐらいかね」


 ははぁ。ドラマとかで見る取り立て屋みたいな。

 しかし、と女性の顔を思い浮かべてみた。あの人は悪女って感じの顔はしていなかったが…。

 顔で判断するものでもないな、こういうのは。旦那だけかもしれないし。


「んで、ええと…大体クソ上司がやっていたから覚えてないな」


 その上司さんは今何をしているのか不明だけど、さすがにクソをつけるのは失礼なのでは。


「というか、ほとんど上司さんに任せていたんですか…」

「ヨヅっち知らないか。ケンちゃんの字の汚さはすさまじいんだよ~、ミミズが悶絶死している感じ」

「喧嘩売ってんのか」



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