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0話 一年と七ヶ月前 終われなかった話2

「どういうこと、と聞かせてもらうよ~?」


 ガーゼで片頬を覆ったスキンヘッドの男に目を吊り上げ腕組みをした長髪のは問いただした。

 深夜なこともあって薄暗く、人気のない病院の待合室に声が響く。


「とりあえずやり遂げた・・・・・んだね。おめでとう。でも、なにこの状態」

「俺だって同じ心境だ…」

「黙って出ていったかと思えばそんなボロボロで、しかも女の子まで連れてきて、挙句の果てには重症の男の子まで拾ってきて! 何も知らないとは言わせないよ!?」

「こいつは、あー…」


 どう説明したらいいものか。

 なによりも『鬼』の血縁者が生きていることを明かすべきか、まだ迷っていた。

 女は信用のできる仲間ではある。

 だが、これ以上巻き込むわけにはいかない。今回の一件だって無理やり付き合せたようなものだ。


「妹。血、繋がり、ない」


 言いよどむ男の横から、にこりともせずに少女は言った。

 無愛想極まる挨拶に、女は先ほどの剣幕をほとんど引っ込めてきょとんとした顔で二人を見比べた。

 どう見てもきょうだいには見えない。

 それでも少女は淡々と男に指をさす。


「助けられた。こいつ、兄」


 どうやら口が悪いのは元々のようであった。

 女は複雑な顔をしていからせていた肩を降ろす。

 嘘だとは分かっているだろう。


「…そっか」


 だが、何を思ったかそれ以上は触れずに現在集中治療室に送られている男の話に移った。


「彼はいったい誰なの? …武器も持っていたし。ケンちゃんのお仲間?」

「まさか。俺と目的・・は一緒だったが、理由は別だろう。得物を横取りされて怒り心頭って感じだったが…顔を合わせた時点で、すでにダメージを受けていた」

「……」

「名前も知らないんだ。頭を強かに打っている。障害が出るかは…不明」

「ふぅむ。赤の他人なのね?」

「そういうことだ。それで、困ったことにあいつ…浅いとはいえ銃痕があるんだよ…」

「……警察沙汰じゃん」


 階段でこけた、ケンカをしたでは通じない怪我だった。

 しかも知らない人間だ。

 庇っていいのか、見捨てていいのか非常にあいまいなところにいる。


「その通りだ。何とかできないか。そうとう俺たちは不味い状況にいるぞ」

「分かってる。あたしだって半分以上噛んでるしね。……ちょっとやってみるよ。でも、駄目ならすぐ撤退する」

「頼む」


 話がまとまりかけた時。

 おもむろに少女が常時明かりのついている通路へ首を回す。

 二人もはっとして同じ方向を見た。


 人が歩いてくる気配。

 誰か。

 この時間に面会者などいるはずもなく、緊急外来でもわざわざここには来ないだろう。


 現われたのは黒いストールを首に巻いた女だった。

 光の落ちている通路から、薄暗い待合室へとためらいもせずに足を踏み入れて来た。

 お互いに三、四歩ほど歩かなければ近寄れない距離で彼女は止まる。


「――あんたは? 野次馬って感じじゃなさそうだな」


 男は睨み、威圧を滲ませる。

 それを涼しく受け流して女は一礼した。


「初めまして。私、国府津咲夜と申します」

「…こう…づ。まさか」


 長髪の女は額に汗を浮かばせる。

 目線だけで男は問うが、女はそれに気付かないようだ。

 少女はなおも黙って国府津と名乗った女を値踏みするような目で観察する。


「組織『鬼』の壊滅、お疲れさまでした」

「…情報が早いな」

「とどめは、誰が」


 ストレートな問いだった。

 男はちらと少女を横目で見る。一切の感情がないように、彼女の表情は揺らぐことはない。

 ますます少女の正体を口外しできなくなってきた。

 伺うように男は口を開いた。


「俺だ」

「そうですか」


 僅かに目を細めたが、次の瞬間には元に戻る。

 抑揚のない声音で国府津咲夜は言った。


「では、つぎはあなたが殺されますね」

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