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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
一章 遺骨ペンダント
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十九話『人でなし』

「あらかた終わりましたか」


 咲夜さんが姫香さんの頬をおしおきと称してむにむにしつつ周りを見回した。

ちなみにそんなに強い力ではないらしく姫香さんはされるがままだ。かわいい。


「終わったっぽいですね」


 大の大人が縛り上げられてからの、呻きとか嗚咽の大合唱で視覚と聴覚ともにひどい有様だ。見ていられない。

 半分僕のせいであるが。


「まだ油断するな。仕事は残っているぞ」


 気絶した添田信二郎を見下ろし、所長は首筋を掻く。

 一方の手には拾い上げたゴム弾が握られていた。

 姫香さんのリボルバーには元から実弾などは装填されていなくて、殺傷力のないゴム製のものが込められていた、ただそれだけだ。

 とはいっても何も知らない相手には恐怖以外何物でもなく、ショックで意識を落としてしまった。…あと漏らしてるので水たまりができている。

 痛いことは痛いだろう。至近距離で撃ったから運が悪ければ骨にひびが入っているかもしれない。


「トカレフ? どっからか流れてきたんだな」


 添田信二郎の手から拳銃をもぎ取るとハンマーを起こして撃てない様にする。

 それからマガジンを取り出して顔をしかめた。


「こいつのは入っている」

「えっ」


 じゃあ下手すれば姫香さんは死んでいてもおかしくなかったのか。

 横目で彼女を伺うと平然とした表情をしていた。咲夜さんがむにむにを続行した。


「ヒメ。そうやってみだりに相手をおちょくるのやめろ。命がいくつあっても足りないぞ」


 僕は所長のせいで命が足りなかったところなんですがね。


「だって。人、殺せない目、してた」

「……。そうだとしてもだな…」

「それに。このほうが、はやい」

「そうだとしてもだなぁぁ……」


 なんか分かるのだろうか、姫香さんには。

 でもまあ何を持っていようとまわりは存分にはらはらした。

 所長は呆れかえる。


 空気を読んだように無線機からごにょごにょと音が漏れた。


「…あ? ああ。大丈夫。ヒメが撃っただけだ」


 百子さんか。


「平気だって、全員怪我ない。いや、今のはヒメ。ヒメが脅して撃っただけだから」


 内容は不明だが怒られてる。


「本当に! 俺がそんな無茶な事やらすわけないだろ!」


 僕にはしていましたけどね!

 義妹には甘いんだからこの人は。


 ふとその義妹に目をやると何やら気持ち悪そうに舌を出している。

 咲夜さんはすでに頬から指を撤退させてぼんやりと天井を眺めていた。


「…どうしました?」

「にがい」


 かわいい。ではなく、鉄なんておいしいものじゃなかろう。

 そういえば百子さんが飴を買っていたなと思い出す。持ってきていると良いんだけど。

 立ち止まっている時間がもったいないと感じたのか所長はうるさそうに手を振りながらズタ袋に向かって歩いていく。

 慌てて僕らも追いかけた。


「はいはい、分かったよもう。まだやんなきゃいけないことあるから…」


 無理やりに中断し、彼は探偵事務所所員をぐるりと見回した。

 それからズタ袋を指さす。


「さーて諸君、これどうする」


 ズタ袋が魚のごとく跳ねた。

 それからガタガタと震えだしている。

 ああ、もうこの時点で添田君じゃないな。

 僕が小さく手を上げると所長は顎をしゃくった。GOサインももらったことだし、開けますか。

 口を結んである紐はそんなに固く結ばれていなかった。

 無言で解くと、そっと口を開いた。


 にゅっと拳銃が出て来た。


 ……ふむ。

 僕もここは舐めたほうが良いだろうか。

 なんて考えたけど、間違いなく焦れた所長に殴られるだろうからチョップで手首を叩く。

 あっさり取り落とされたそれを咲夜さんに投げ渡した。


「弾なし」


 短い回答だ。あとその言い方なんかやめてくれ。

 しかし、そうか、この人も脅し目的だったか。

 始末してくるだろうと予想していたのに拍子抜けだ。ただたんに現代日本において銃火器系は入手が難しいからなのではと思うけど。

 それに、殺すだけなら時間はかかるけどどこかに閉じ込めて餓死させたり海に沈めて地底散歩させたり、そう言う方法もあるもんな。

 袋の口を最大限まで開けると所長が懐中電灯で中身を照らしてくれた。

 はっきりと顔が見えた。


「ああ、昼間の」


 紫ネクタイの人とコンビをくんでいた、お話し担当の。

 あのときは涼しい顔保っていたのに、現在は汗だくで顔面蒼白だ。この袋の中は暑いのかな。

 音声だけしか聞いていないから何が起こったかは断片的にしかわからないだろう。それでも、味方は全滅したと――それだけは不幸にも察してしまっているようだ。

 それにたった今頼りの拳銃も取り上げられたしな。身体の半分以上は袋の中だし。

 向こうからしたら絶望的状況と言ったところだ。


「ハロー。ミノムシごっこですかな」


 所長が実に楽しそうだ。


「あ、は、はろぉ…」

「こうやって添田青年に見せかけておいて、いざ開けた人間に銃を突き付けて脅すつもりだったのか」

「そんなかんじで…」

「ふーん。無駄骨だったな。やり損ともいう」


 まったくだな。

 こんな二重の仕掛けまで作っておきながら突破されるとは思わなかっただろう。

 逆に言うとなんで僕たち突破しているんだろうね。頭おかしいんじゃないかな。


「ツル」

「はい」

「しまっとけ」

「了解です」


 そういうことでリリース。這い出ようとするあえなくも不発で終わった人を押し込み、再び紐できゅっと口を縛る。

 これでよし、ミノムシの完成だ。

 通気性も一応あるだろうし、特に心配することは無いな。モゴモゴ言っているけど僕たちには関係のない事だと思う。


「奥の方にまたドアがあるな。事務室みたいなとこか」

「行ってみましょう」

「…本当に人でなしですねあなたたち」


 咲夜さんのつぶやきは聞こえないことにした。

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