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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
六章 スケープゴート
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二十五話『ベンチと殉死』

 五人ほどが座れるベンチ。僕はそれを振りまわす。

 さすがに腕から悲鳴が、というよりなにかぶちぶちとした感触を感じる。

 痛みよりも気持ちの悪さを感じた。


 僕を襲おうとした何人かが巻き込まれて倒れたり、吹っ飛んだりする。

 あ、もう限界だ。指に力が入らない。

 一番人が多いところにめがけて放り投げた。ものすごい音と幾多の悲鳴が生まれたが興味はなかった。

 構わない。ここにいる連中はどうせ三組織にかかわっている奴らだろう。死んでも惜しくはない。


 腕をさすりながら周りを見渡す。

 指を曲げ伸ばししてみたが異常はないようだ。


「ええと、確か十八人いて――なんだ、もう十人ちょっとか」


 今ので半分ほどなぎ倒せたことにびっくりだ。死んではいなくて地べたに這いつくばっているのもいるけど、一時的な戦闘不能には出来ている。

現在立っているのは九人。

 殺せない数字ではない。

 それよりも、すべての仮面が僕のほうを向いていてとても不気味だ。

 夢に出てくるんじゃないかって思うぐらいに異様な光景だった。こんな狂った空間でよく生活ができるな。僕はごめんだ。


 トントンとつま先を床で跳ねさせる。

 リズムが体に生まれ、余裕のなかった心と体が徐々に落ち着いてくる。そうして、結びついていくように意識する。


 ずっと殺してばかりだな、僕は。

 もしかしたらそれしかできないのかもしれない。

 それは少し、寂しい事だ。

 誰かを殺すために生まれたわけではないはずなのに、誰かを殺さなくては生きていけない。


 首を振って溢れかけた感情にふたをする。

 こんな自問自答、無駄だ。


「こいよ」


 たぶん、僕は笑っている。

 何がおかしくて唇を釣り上げているのだろう。

 顔はよくおかあさんに似ていると言われたものだが、こういうあまりよろしくない笑顔とか残虐性は父に似ているらしい。そんなところが似ているのは嫌だな。そういえば父さんは元気だろうか。


「ここがお前たちの終わりの場所だ」


 眠り姫たちのまわりは、せめて、静かにしなくては。


 ひとり、切り込んでくるものが居た。

 僕を殴ろうとする腕をつかみその場で一回転する。相手の肩が破壊される音を間近で聞いた。横たわった胴体に足をかけ、腕を引っ張るとぶちぶちと音を立てて腕が外れた。

 つんざく悲鳴とともに僕の靴が濡れる。ああ、買ったばかりなのに。

 今のでひるんだと思ったらそうでもなかったらしい。示し合わせたように三人が襲い掛かってきた。

 あえて距離を縮めさせる。


「っ」


 力を込めていたとはいえ腹を殴られるのはつらい。

 その代わりに、僕は手を伸ばして二人の襟首を掴んでいた。

 右手側にいる奴の足を払って地面に叩きつけてから、左手側にいる奴を背負い投げする。その際に余ったひとりを殴る感じで当てていく。視界が開けた。

うつぶせに倒れた右手側の奴の背中を強く蹴ると危害を与えた側の僕でもびっくりするぐらい悲痛な悲鳴が漏れ出した。

 かがんで首の後ろに爪を突き立てる。抵抗の手が僕の手をひっかいた。気にせずに、三澤の時と同じように引っぺがす。一層の悲鳴があがったがそれもすぐにやむだろう。


 起き上がりかけた左手側の奴に手にした肉片を投げつけるとあからさまに引いた反応を見せた。ひどいな、仲間だろ。

腰をひねり左足を軸に右足を振り抜く。右足のかかとが上手く左手側のやるのこめかみにひっかかった。めきりと嫌な音共に再び倒れた。もう動かなかった。


 僕が二人相手にしている間に、最後のひとりは立ち上がって僕の隙を狙い思いっきり顔面を殴ってきた。よろめいたが体制を立て直し二発目をよける。残念ながら左の頬を殴られたからと言って右の頬を差し出すほど僕はおとなしくない。

 ジャンプし、空中で軽く体をひねる。その勢いでみぞおちに足のつま先を食い込ませた。骨が折れる感触があったが、たぶん肋骨だろう。

 向かってきた別の一人の頭を掴み肘で顔面を殴る。そのまま首の骨を折ってどかした。


「う、うわあぁっ!」


 ようやく恐怖を感じたのか、一人二人が逃げようとする。が、すぐに別の仲間に捕まり――あろうことかずいぶん力強く殴りつけられた。


「『かみさま』の仇を取るぞ! それができないのか!」


 できないから逃げようとしたんだろ。あと僕、べつに仇じゃないし。

 ちらりと姫香さんを見る。睡眠薬でも盛られたかまだ眠っている。これなら多少暴れても大丈夫だな。もう結構暴れているけど。


 僕の次の行動を見極めようとしている、残りの信者たちへ僕は近づいていく。

 

「ねえ、この宗教って殉死って概念ある?」


 それなら白い少女はさびしくないだろうな、と思った。


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