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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
一章 遺骨ペンダント
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十五話『ファーストアタック』

 ついたところは電灯もなくさみしいところだった。

 暗くてわかりにくいが、ぽつんとあるのは廃墟だろう。倉庫かな。


「誰かいますね」

「ああ、いるな」


 運転席の会話は非常に淡々としている。

 カーライトによって照らされた人影に向けてゆっくりと減速していった。


「任せたぞモモ」

「あいよ」


 所長は無線機のイヤホンを耳にねじ込んだ。どこまでの距離までなら届くんだろ。

 そこらへんはうまく調節されるか。

 僕は靴紐を確かめる。ちゃんと固く結んできた。

 それから――例のストラップで作った即席のペンダントも下げてある。姫香さんが本物を持っているとのことだ。

 いざというときのかく乱にと渡された。

 ちゃんと偽物フェイク偽物フェイクなりの動きを出来るか不安だったけど、その時にならなきゃわからないな。

 所長が上手くお膳たてしてくれるだろうと細かいことはぶん投げた。


 律儀にも人影のそばで車は止まる。てっきり轢くんじゃないかとひやひやしていたがそこまで非常識な人じゃないみたいで安心した。

 この発想が非常識か。そうか。

 コンコンと助手席の窓ガラスが叩かれた。

 迷いもせず咲夜さんは開ける。


 ドアを。

 思いっきり蹴って。


「ぐぼぁ!?」


 別に予想の一つや二つしていてもいいだろうに、想定外だったらしい。人影は面白いように転がっていった。

 それと同時に所長が車外へ飛び出す。続いて僕と姫香さんも。

 所長は乱暴にドアを閉めると「行け!」と叫んだ。

 ワンボックスカーはライトを消すと共に急発進して、夜の闇へと消えた。


「さてさて、お顔を拝見」


 所長が倒れている人の顔を覗きこむ。尻ポケットから小型の懐中電灯を取り出して無慈悲に明かりをつける。


「おや。あの紫ネクタイの奴じゃねえか。半日ぶり」


 言われてみればそうだった。

 さすがにスーツ姿じゃないけど。


「歓迎してくれようとしたのか。でもそれはないわ」


 所長はにやにやと笑いながらその人の手をふみにじる。一見どっちが悪人だか判断に迷うな。

 一応これにはちゃんと意味はあって、ちょうど紫ネクタイの人の手は零した銃を持とうと伸ばしたところだったのだ。

 姫香さんを守るように立っていた咲夜さんは、屈んで銃を拾い上げると中身を見る。そしてあっという間に解体して地にばら撒いてしまった。


「弾、ありませんでした」


 ないのに解体したんだ。


「じゃあここで殺すつもりじゃなかったんだな。何でここにいたんだい、あんた」

「あ、案内…案内に……」


 あーあ、すごい怯えてる。

 生まれたての小鹿のようだ。実際に見たことは無いけどな。

 そりゃあ勢いのついたドアに体当たりされるわ、手を踏みつぶされるわ、銃を目の前でバラバラにされたらこうなるよ。

 ちなみに姫香さんは雨の日に道路に躍り出た挙句車にひかれたカエルの死体を見るような目で案内人を眺めていた。

 精神、肉体ともどもファーストアタックをやりすぎてしまった感じだ。


「なんだ、案内人を無碍にしちまった」


 反省した様子もなく手から足をどけた。

 ただの脅し目的程度で良かったというか。

 そこら辺は運が良かっただろう。調子に乗って実弾入りだったらこれの比じゃないいじめが起きていたに違いない。

 そんなに同情してやれる時間もないので僕は倒れ伏している案内人の顔を覗きこんだ。


「それで僕たちはどこに行けば?」

「ひぇい…」


 会話をしてくれ。

 仕方がないので襟首を引っ掴んで立たせる。ちょっと重たいけど、このぐらいならまだ余裕だ。

 その背をポンと押した。びくっと跳ねる。別に殺意のない人間を後ろから攻撃はしないぞ僕は。


「お願いしますね」

「わ、わか、わかりましたぁ!」


 ひっくり返った声で案内人は言った。


「片手で成人男性持ち上げるたぁ、なかなかやるじゃんかツル」


 誤解だ。脅したつもりもなかったんだ。信じてくれ。

 最初っから傍若無人っぷりを繰り広げているせいで僕の印象までヤバくなっているだけなんじゃないか。

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