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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
六章 スケープゴート
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二十話『扉の向こうには何がある』

 ドアを開けると、次のドアが見えるほどには短い通路が現れた。

 二重にセキュリティをかけるのが常みたいだな、この施設は。


「また番号を聞かないといけないのか。それは面倒だな。ねえ?」


 僕が首根っこを掴んでいる男に話しかけると、そこまで怯えなくてもいいぐらいに身体をビクつかせた。まるで僕が悪い人みたいじゃないか。


「ところでこの先に何があるの?」

「そ、それを知らないで開けたのか…」

「うん。あと僕うっかり殺してしまうから、予備の案内人が欲しいんだよね」


 ぼそりとつぶやくと男は小さく悲鳴を上げた。

 こんなこと言ったの、半分わざとだけどね。半分は本音。


 今回はまだ暗証番号を生きた人間から聞き出すなど自分の中でも上手くいっているほうだ。

 失敗をカバーしてくれる人がいない分、自分でなんとかしなければならないと緊張しているのだろう。


 一分も経たずに次のドアにつくと首根っこを掴んでいる手を軽く上に上げる。

 気管が締め付けられているだろうが、死にはしない。


「番号」


 短く問うと素直に教えてくれた。

 パスワードは正解だったので骨を折る手間が省けてほっとする。


 開けると、そこは。


「…仕事場?」


 手作業で何かを詰めたり整えたりする、ざっと三十人余りの人たちが長テーブルに向かい合わせに座っていた。仮面は被ってないものの、やはり皆白い服を着ている。工場みたいだな。

 一斉に視線が僕らに集まり少し照れくささを覚えた。


「ここは何?」

「……」

「ここにきて黙るのか。…まあ、気持ちはわかるけど」


 引きずってきた男の視線の先には、仮面を被った男がいる。ちょうど周りを見渡せるところにいた。物騒なことに手には竹刀を持っている。

 ただの仕事場でないというのは雰囲気からして察した。作業している人たちは誰もかれも顔色が悪い。

 この作業風景と言い、見張りといい、産業革命のイラストみたいだな。社会の資料集に載っていた気がする。


「助けてくれ! 侵入者だ!」


 僕に指を折られた男が叫んだ。

 床に男を投げるのと竹刀を持った男が僕のほうにかけてくるのはほぼ同時だった。


 上段から振り下ろされる竹刀をクロスさせた両腕で受け止める。

 何だこの威力は。メセウスの会は暴力禁止って言っていたじゃないか。これ二回目だな。


 竹刀を掴み、僕のほうへ思いっきり引っ張った。

 綱引きに負けた相手は前のめりにバランスを崩す。

 僕は、その顔面へ思いっきり自分の頭を叩きつけた。とどのつまり頭突きだ。


 ――あれ、待てよ。生身ならともかく、これ相手仮面じゃん。


「っ!」


 思わず自爆行為をしてしまった。

 頭頂部に鈍い痛みが走る。どれほどの強度があるんだ! 僕の蹴りでやっとひびが入ったんだから相当だろう。

 揺れる視界をどうにか正そうとする中、手から竹刀が抜けたことを知覚する。

 しまった。


 引こうとした矢先に両脇に腕が通され固定された。

 みれば僕を後ろから羽交い絞めにしている奴の右手指があらぬ方向に曲がっている。どう考えてもさっきの僕が指を折った男だった。

 ちくしょう、もう動けないだろうと油断していた。


 竹刀がもう一度振りかぶられる。

 僕は脇を固く締め、男の腕が抜けないようにする。

 効き足を前に踏み出し、そのまま、お辞儀をするように勢いづいて上体を前に倒す。


 僕を羽交い絞めにしていた男は足元を浮かせ僕の背中を通り過ぎる。

 向かう先は当然、竹刀を持った男。

 とっさのことだったので対応しきれず僕も巻きこまれる形で倒れこんだ。


「腰に悪いな、これ…」


 やっとのことで起き上がろうとすると、手を差し伸べられた。

 顔を上げると僕らの周囲にはさきほどまで作業をしていた人たちがぐるりと囲っていた。


「あの、あなたは…?」


 手を差し伸べている女性が僕に問いかける。

 どこかで見たな、と思ったら今回の依頼で見た顔だった。

 依頼人・松岡さんの婚約者さん。まさかこんなところにいたとは。


「ああ、えっと」


 女性の手に触れる前に名乗りだけはしておくべきだろう。


「探偵です」


 そんなわけあるかと誰かが小声で言った。

 僕もそう思う。



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