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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
六章 スケープゴート
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十三話『まっくらくら』

 気を失ったふりをしている僕は米俵のように担ぎ上げられる。

 そこそこ重いはずなんだけどよく持てるな、などと場違いに感心してしまった。


 オートロックキーに暗証番号を打ち込む音。四桁か。

 僕の頭は担ぎ上げている人間の背中の方向にあったので何を打ち込んでいるのかまったく見えない。

 というか、見れるとしたらどんな格好なんだ。かなり間抜けなことになってないかそれは。それに最近のは数字の位置が変わるものもあるので順番と位置だけ見ても駄目だったりする。


 物々しい音と共に開けられた扉。

 数歩の間揺られて知る。これ、階段だ。

 踊り場含めて三十七段降りるとまた暗証番号を入力する音。音からして先ほどのオートロックキーと同じタイプだろうけど、ここまで手が込んでいるのだ。同じ番号とは思えない。


 外部からの侵入を防ぐためのものか。

 内部からの脱走を妨げるためのものか。


 いや、

 どうにも隠したい・・・・もの・・がここには・・・・・あるようだ・・・・・


 しかしこの堅牢なセキュリティを抜けて脱出できるのか不安になってきたが、まあ、それは後の話だ。

 姫香さんの場所に少しでも近づけるなら多少の困難位乗り越えてやろうじゃないか。

 何回か蹴れば開くだろ。


「…三澤? それは?」


 あ、誰かと会ったらしい。声を掛けられたと同時に動きが止まり、鍛えられた背筋に鼻がぶつかる。いたい。

 僕を輸送中のこの男の名前は三澤というのか。


「侵入者がいると『かみさま』から警告された」


 侵入はしていなかったんだけどな。未遂って感じ。

 そしてやっぱりあの白い子は僕を売ったのか。ひどい話だ。

 いたずらのつもりだったのかは分からないけど文句の一つは言ってやりたい。


「侵入? 入ってきたのか」

「いや、オートロックを触っていた」

「それ侵入って言わないんじゃないか」


 いいぞ、言ってやれ。気絶していることになっているからツッコミも出来なくてもやもやしていたところだったんだ。

 だが三澤はひるむことも悪びれることもない。


「『かみさま』が「放置するな」と警告していらしたのだ。それに従ったまでだ」

「ああ…確かに『かみさま』は鋭い。それで、どうするつもりだ、それ」

「あとで『使え人』さまの指示を仰ぐ。おおかた贄だろうが」


 ニエ…なんだって? 贄っていったか?

 神への捧げものって意味だよな?

 『かみさま』もいるこの状況にかなり適切すぎる単語なのがまた嫌な感じだ。


「そうだな」


 納得しないでほしいんだよね、そこ。もう少し説明をしてくれても構わないんだけど。

 会話をいくつか交わして二人は別れる。

 僕の欲しい話題は――姫香さんについてのことは残念ながら一言もないまま。


 幾つかの扉と幾つかの通路の果てに、放り込まれたのは真っ暗闇な部屋だった。

 ろくに受け身も取れずごろんごろんと冷たい床に転がされた。もう少し人権というものを考慮してほしい。

 我慢してじっとしていると三澤は特にリアクションを起こさずに扉を閉め、施錠し、その場を去った。

 見張りぐらいつけとけばいいのにとも考えたが一般人が施錠した扉から出てくるとか普通考えられないもんな。それでも持ち物検査はしたほうがいいと思うんだ。

 …残念ながら、本当に残念なことに何も持ってないけど。


 足音が完全に遠ざかったのを確認し起き上がる。

 扉についている小さな窓から入り込む光以外は本当に光源がない。

 目を慣らして部屋を見回す。防犯カメラの類はなし。


 ドアノブを捻ってみるがわずかに軋んだだけで開く素振りはない。ただ、年代ものなのかすこしガタついている。

 扉には無数のへこんだ部分。もしかしなくても、ここに同じように放り込まれた被害者によって作られた跡だろう。

 そのまま壁に手をついて部屋を回ってみる。


 …爪あと。血。殴ったような跡。叩いたような跡。黒ずんだ場所。


 一人や二人じゃねえな、これ。

 異常だ。

 何人、何十人がこの暗闇の中で必死にもがいたのか。

 ここから出た後どこへ行ったのか。


 なにをこの組織はしているのか。


 茫然と突っ立っていると、扉の向こう側に気配を感じた。

 早い見回りだな、と思っていたら違った。


「ひめかちゃんとは会えなかったの?」


 ゆっくりと小窓を覗くと真っ白な少女がそこにいた。 


 にこにこと、無垢な笑みを浮かべて、赤い目で僕を見つめ返して。

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