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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
六章 スケープゴート
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九話『白い子』

 みんなの視線が一気に僕へ押し寄せてくる。

 恥ずかしい――というより、気迫迫った眼差しなので怖い。特に所長の目が。


「メセウスの会だと? どういうことだ」

「僕、実は一昨日勧誘を受けまして」

「どこから」

「メセウスの会から」


 めちゃくちゃ頭の悪い会話だなと思った。


「はあ!?」

「そんなに驚くことですかね…」


 そりゃいろいろやらかした身ではあるけれど。

 外見的には純朴で無害な好青年そのものだぞ。前に咲夜さんにそう言ったら「はぁ。そういうポジティブ思考は素敵ですね」と感想を貰った。

 まあ僕が勧誘を受けた受けないの話は今ここで関係ないので切る。


「その際、僕を勧誘した女性がこの人たちみたいに上と下を白に揃えた奇抜なクソダサ服装ファッションだったので、もしかしたらって」

「ちょっと待って! 今調べる」


 百子さんがスマホで検索をした。

 あっさりと出た。名前こそマイナーな宗教団体とはいえ、完全に誰も知らないというわけではないようだ。

 ネットに流れている画像は隠し撮りだったり著名人と映っているやはり上下を白で揃えた人。

 悪いことは言わないから白スーツはやめておいたほうがいいと思う。なにかカタギの人に見えないから。


「…さすがに私服にまで教義を持ち込むとは思わなかったかな〜」

「問題はこいつらにヒメが誘拐されたのかって話だ。俺は嫌だぞ、乗り込んで何もありませんでしたなんて結果」

「それは僕も嫌ですよ。…かみさまかぁ」

「何か聞いているのですか、夜弦さん」

「うん。又聞きではあるけど、黒い噂があるっていう噂でね」

「噂の噂かよ…信ぴょう性薄すぎるだろ」


 所長の愚痴は無視する。

 仕方ないだろ、それまでメセウスの会とは一切かかわりなく生きてきたんだから。


「『女の子の神様・・・・・・』がいるって話なんですけど」

「なんだそりゃ」


 所長はバカにするように鼻で笑った。

 当然の反応である。

 生真面目に返答したのは百子さんだ。


「んん? 女の子のための神様ってことかな?」

「あ、いえ、言い方が悪かったかな。『女の子の(・・・・)形をした(・・・・)神様(・・)、だそうです」


 そういえば各御家庭で女の子の像を祀るなんてこともしているのだろうか。

 考えるともう目も当てられないほど大惨事という感じがする。


「女の子。女の子ねえ。さっき見たな」


 百子さんが口ずさむように呟きながらカタカタとキーボードを打つ。

 少しぶれてはいるが、白いワンピースを着た女の子が道を歩いている静止画が映し出された。


「服装の色が偶然の一致だと思っていたけど。この寒い時期にしてはやけに薄着だし、もしかしたら…」

「神様が大脱走? はん、世も末だな」

「生きた人間を神様と扱っている可能性にも注目してください。それもそれでクレイジーですよ。…いえ、まだ確定はしてませんけど」

「ん? サク、知らないのか。わりと『自分が神だ』って言っている宗教はそこそこいるぞ」

「それは…月と書いてライトと読むような名前の人が?」

「そういう物騒なもんじゃねえよ。世の中神様になりたい奴もいるってことだ」


 雑談を横に百子さんが画像を解析していく。

 肌色の靴…いや、裸足か、この子は。


「ヒメは?」

「これを見て。黒い服の子…服から見てもヒメちゃんだね。ヒメちゃんが公園で女の子――白い服の女の子と出会った後、なにか話している時に突然走りだした。

 後ろからはクソダサファッションの男性たちが追いかけているね。…ここから先はカメラがないから分からない」

「時間は…ちょうどヒメから電話があった頃か」

「ふむ。逃げ切れたでしょうか」

「捕まっただろうな。逃げ切れていたなら事務所ここに来るはずだ」

「どこにその自信があるのですか」

「俺はあいつの兄だぞ。そのぐらい分かる」


 …まあいいけど。

 姫香さんが戻って来ていないということは、考えたくもないが、恐らくそうなのだろう。


「推測と憶測だらけの結論だけれど、ケンちゃん。どうしようか?」

「どうするもこうするもメセウス殴り込みだろ。問題はどうやって入り込むかだが」

「正面突破は?」

「ツル。なにごとも暴力は良くない」


 あんたにだけは言われたくなかった。数秒前なんて言ったか思い出せ。


「手っ取り早いのが入信のふりをしての潜入だね」

「そうでしょうね。あまり警戒もされない方法です」

「あたしは…女装って受け入れてくれるのかなぁ」

「私も義手がありますからちょっと怪しまれる気はしますね」

「警察に事情聴取される顔でもいけるか?」

「あ、じゃあ」


 忘れかけていたけど癖が強かったんだこの事務所メンバー。

 ならば。


「僕なら、勧誘のこともありますしすんなり潜入できるかもしれません。行かせてください」

「分かった、行け」

「そうですよね…。僕だけでは不安だと思うのは当たり前です。でも…おえっ?」

「行け」


 二度も言われた。


「止めないんですか!?」

「止めてほしかったのか。問答するのが無駄だ」

「そうなんでしょうけど…。ええー、納得いかねえ…」


 ちょっと心配してくれたっていいじゃないか。

 か弱い記憶喪失の青年だぞ僕は。


「いいな」


 所長は何故か咲夜さんを見た。

 咲夜さんはやれやれと首を振った後に頷く。


「夜弦さん、本当に行くのですか。あまり良い噂の聞かない場所に一人だけとは正直不安ですが…」

「大丈夫だよ。自分の力を過信しすぎてはいけないけど、僕は強いから」

「いえ、夜弦さんがいったいどんな騒ぎと共に死体を量産するのかと不安で」


 そっちかよ。

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