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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
六章 スケープゴート
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八話『狼狽え事務所』

「ヒメ! おい、ヒメ!?」


 姫香さんと電話をしていた所長の顔が青ざめていく。何度呼び掛けても応答はないようだ。

 ただならぬ様子に事務所の空気も緊張感に包まれた。


 何度か呼びかけていた所長だったが、状況はかんばしくないのは見ていてわかる。

 茫然とした表情でスマホを下ろしてぎこちなく僕らに首を回した。


「…恐ろしい予想ことを言っていいか」

「…なんですか?」


 一度躊躇うように口を開け、また閉じ、そして意を決して彼は一息に言った。


「あいつ数カ月ぶり二回目の誘拐をされたんじゃねえかな…」


 百子さんが眩暈を起こしてぶっ倒れそうになるのを咲夜さんが支える。

 その横で僕は一気にからからとなった口を無理やり動かした。


「ど、どういう」

「音声だけだが、後ろで声がした後に突然走りだしたようだ。おかしいな、足音はヒメのしか聞こえなかったのに呼吸は二人分だったように思える」

「いや冷静に言っている場合ですか!?」

「ヒメのほかに誰かがいたんだ。そして通話が切れる前になにかぶつかった鈍い音と、携帯が落ちた音がした」


 あくまで淡々と分析を始める所長は心がないのだろうか。

 と、思ったがお茶の入ったコップの中にボールペンを突っ込んでかき回しているのでどうにか自分を保っているらしいというのがよく分かった。

 僕も落ち着くためか無意識に服のボタンを弄っていて、なんかひびが入ったような嫌な音を立てたし。怖くて見れない。


 なにかぶつかった鈍い音? もしかして殴った音ではないのか。そのことを指摘しようとしたが、これ以上精神的ダメージを与えさせるのはよくないと判断する。


 百子さんを椅子に座らせると、咲夜さんは事務的な声音で問う。


「それは、携帯だけが落ちたと? それとも――姫香さんが倒れた?」

「どちらともいえない。携帯が通じなくなったこととは確かだ」

「他には? 別の声が混じっていたということはありませんか」

「あった。鈍い音がする前に男の声で『神に触るな』と言っていた」

「……それは、さきほど電話口で言った『かみさま』と同じものですか?」

「俺が知るかよ」


 素っ気なく所長は吐き捨てた。

 咲夜さんも「そうですか」と咎めることなく引き下がる。

 百子さんの時といい、誰かが自分の前から突然消えると相当所長は狼狽えるらしい。


「『かみさま』っていうのはなんなんでしょうね。宗教的な意味での神様?」

「イントネーション的にもそうだった。ヒメは変な奴に遭遇したあげくトラブルに巻き込まれたらしい」


 いつもの探偵事務所じゃねえか。


 百子さんがよろよろと椅子を移動させ彼のパソコンを待機モードから戻す。

 そして上半身を起こし、姿勢を正すと猛烈な勢いでキーボードをたたき始めた。視線は画面に固定されキーボードは一切見ていない。


「ヒメちゃんの携帯の現在位置と通話をした箇所を割り出す。それから街灯の防犯カメラ映像も片っ端から掠める。時間を頂戴、あたしが全部引っ張ってくるから」


 いつになく男らしい言葉に僕たちは頷くしかない


 そうして、十六分後。百子さんはあらから終わったといって元からある三つの画面と咲夜さんから借りたノートパソコンに同期させたもの、あわせて四つの画面を僕たちに見せた。


 ひとつは数字とアルファベットの羅列。

 ひとつは忙しく動くデータ受信を現す波。

 ひとつは地図。

 ひとつは防犯カメラから見たと思わしき画像。


「相変わらず凄まじいな。携帯の現在位置は?」

「…ごめん、それは無理だった。途絶えているの」

「いや、いい。サンキュ」

「最後の位置情報は近隣だったのは分かった。だからその周辺の、

 とりあえず八つのカメラから九時から十時半までのものを掴んだよ。でも情報が多すぎるかな…」

「ゴス服を着た女なんてそうそういない。すぐに映っている画像が見つかるだろ」


 そうだね、と百子さんはつぶやきパソコンを操作する。

 ぱっと四つの画面すべてがバラバラの防犯カメラ映像となった。0.8倍速に設定され、ちょこまかと通行人が動いているのが滑稽だった。


 全員で画面を食い入るように見る。

 これ、分担決めないまま見ているけど大丈夫かな。今喋ったら怒られそうだしちょっと空気が弛緩したら言っておこう。

 ノートパソコンの画像を見ていると白色がちらちらと映る。

 女性だったり、男性だったり、一人だったり二人組だったり。色以外は様々だ。

 …あれ?


「なんだこいつら。上下が白色の服が流行っているのか」


 所長が不機嫌そうに画面を指さした。同時に百子さんが動画を止める。

 見事なコンビネーションだ。


「そんな個性的(クソダサ)組み合わせ(ファッション)を認めないけどねあたしは。なんだろう、偶然にしては変だね…」

「私も思いました。さっきからどうも多い気がします。妙なクソダサ服装ファッションだからそんな気がするのかもしれませんが…」


 待てよ、こういうクソダサファッションをどこかで…そうだ、あの時の女性だ。


「もしかしてこれメセウスの会の信者ではないですか?」

「なに!?」


 

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