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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
六章 スケープゴート
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五話『表情、仮面』

 話が一段落ついた頃に姫香さんが入ってきた。

 さすがに寒かったらしく頬が紅色に染まっている。かわいい。


「おつかれヒメちゃん。コーヒーミルク飲む?」

「ん」


 ストレートで飲むことが出来ないらしい。所長に言わせれば子ども舌なのだという。麻婆豆腐で苦しんだらしいので相当なのだろう。

 姫香さんにはこだわりのコーヒーとミルクと砂糖の組み合わせがあるので百子さんと仲良く給湯室に入っていった。

 ちなみに姫香さんのコーヒーミルクはもはやコーヒーという存在そのものを奪い取った罪的な飲み物である。一度飲ませてもらったことがあるが、コーヒー風味のホットミルクだった。

 コーヒーの黒がミルクの白に負けているし、アイデンティティの崩壊である。


「あいつ紅茶にも同じように入れるからすぐに牛乳無くなるんだよな」

「苦いのが嫌いなんですかね」

「だと思う。一度ためしにゴーヤチャンプルーを食べさせたら数日口を利いてくれなかった」


 あの苦いごつごつとした野菜か。前にアパートの大家さんにゴーヤを貰い教えてもらった通りに作ってみたが予想外の味にぶったまげた。好きな人は好きだとは思うが、僕には未知の味だったのだ。

 こういうときの一人暮らしはすぐに感想を共有できる人間がいないことを自覚し寂しくなる。


 甘党の姫香さんにゴーヤとはずいぶん思い切ったことをしたものだな…。

 そして寡黙が代名詞のような姫香さんが口を利かなくなったとしてもあまり変わらなさそうな気がする。

 咲夜さんが僕と全く同じ疑問を所長にぶつけた。


「所長と二人だと結構話をするのですか?」

「いいや、どこにいってもあのレベルだ。こう、なんか違うんだよ。四六時中恨みがましげな目も向けられた」

「無言の抗議ですか」

「なんだろうな。変に疲れるのは確かだ。ずっと何か訴えかけられる目をされるんだから」


 ちょっと想像した。

 ちょっと興奮した。


「兄ゆえの気づきのようなものですね…。百子さんも分かると言っていましたが、私にはまったく…」

「俺なんかはおはようからおやすみまでずっと一緒だし、百子は世話焼きだからな。そんな悩む必要もないと思う」

「夜弦さんは分かりやすいのですが」

「ああ、ツルは分かりやすいな」

「なんでそこで僕が引き合いに出されるのか聞いてもいいですか!?」


 まるで単細胞みたいな言い方やめてもらえるだろうか。


「昼時になると思考が昼飯考え始めているのモロバレだし」

「うっ」

「下の骨董屋に行きたいのだなっていうのもすぐに分かります」

「ぎゃあ」


 思考と行動が直結しているのかよ。

 そんなこと気づかなかった。今度から気を付けないと。


「まあ分かりやすいほうが人間付き合いするうえでは楽なんだけどな」

「フォローされたんですかね今」

「無表情が相手だときついぞ。サクを見てみろ、何考えてるか分からん。せいぜい胸が平らなだけだ」

「そうですね、現在の私はハゲに殺意を抱いています」

「スキンヘッドと言えよ」


 ああまた始まった…。

 最近頻度は減ったが相変わらずの所長と咲夜さんの罵りあいだ。

 本当に憎みあっているわけではないらしいが、初対面からあまり仲は良くなかったと百子さんから聞いている。じゃあなんで雇ったんだ。七不思議のひとつだ。

 互いにあまりヒートアップせずにすぐにそれは終わる。平和が一番だ。


「そういえば、メセウスの会は面白い話が合ってな」

「なんですか?」


 まさか女の子の形をした神様ってやつか?

 その一件を僕は信じていない。岩木さんには悪いけど。

 なんでそんな俗っぽい形になって現われたのか理解に苦しむからだ。他の候補はなかったのか。


「本部で生活している信者は皆、仮面着用」

「仮面!?」

「ああ。『無心に生きる』という教えがあるらしくて。形から『無』になるんだろ。人工的な無表情だ」


 だからといって仮面にした意味が理解できないな。

 誰が誰だか見分けがつかなさそうだ。

 それよりも昨日僕に話しかけて来た女性が仮面をつけていたらちびる自信があった。第一印象と言うのは大切だ。さすがに外ではしないと思いたい。


「嫌ですね…夜中に見たら悲鳴上げてしまいそう」

「そんな人間味のない所でいったい何を知るのでしょう?」

「さあな。個人に寄るんだろ。それと」


 半ば投げやりに所長は答えた。


「――理由なんてけっこうくだらないものかもしれないんだぜ」

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