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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
五章 シークレットパーティー
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十二話『いざ、デビュー戦へ!』

「帰りたい」

「せめて知り合いに顔見せぐらいはしてください」

「みんな化粧ばっちり決めてて誰が誰だか…」

「そこを何とかするんですよ」

「ひどい!」


 さすがにこのような場なので所長は丁寧な言葉で、しかしバッサリ切る。

 なんの収穫もないまま帰ったら添田君のお祖父さんは雷を落としそうだ。


「うう、誰に話しかければ」

「フリーハグって看板持ってくりゃ良かったですね」

「確かに…」


 添田君、このスキンヘッドはほとんど何も考えていないから同意しないで。

 それだけアガッているんだろうけど。

 所長はサングラスの下でせわしく眼球を動かしている。もしかしなくてもやっているのは渡会さんの依頼だな。

 こんなに人が居る中で見つけることが出来るのかな。人間の顔って表情によって変わるから難しそうだ。


 とりあえず行ってこいよと所長が押し、もう少し心の準備をと渋る添田君の静かな抵抗戦を横目に姫香さんが物珍しげに並んだ料理を眺めている。かわいい。

 百子さんがふと気づいて添田君を小突いて囁く。


「あの人こっちくるよ」

「うぇぇ…」


 こちらへ向かってきたのは年配の男性だ。ボディーガードはないない。頭のてっぺんからつま先まで高級感が出ている。

 しかし、化粧では隠し切れない肌の荒れは見てとることが出来た。視線もなんだかおぼつかない。もうほろ酔い気味かな。

 所長が「あっ」とかなんとか呟いた。


「もしかして、添田ソエダ俊之トシユキさんの――?」

「あ、はい。そうです。孫の添田洋一です」


 あわあわと答える。

 がんばれ。僕らは無に徹しているから。


「ああ、添田さんの――そうですか。…ご両親は残念でしたね」

「知っているのですか」

「葬儀にも出席させていたらきました。井上といいます。こちらは家内です」


 指し示された方には誰もいなかった。

 …ジョークか? ジョークだよな。

 それかもう酔っているのかもしれない。なんだか呂律も怪しいし。


 添田君もあっけにとられたようだが、すぐに持ち直して会話を続ける。

 スルースキルすごい。


「ああ、もしかして祖父の仕事関係の方…でしたっけ」

「覚えて頂き光栄です」

「いえいえ…」


 思い出せないならそう言っとけと吹き込まれていたセリフが功をなしたようだ。

 父親の葬式の後に拉致られたり、母親の喪主で忙しかった彼が特に関係もない人間のことを覚えている暇はなかったのではないか。

 井上さんは姫香さんに顔を向けた。彼女は瞼を伏せている。目を見ると顔を覗きこむ癖があるから、無駄な騒ぎを起こしたくないときはこうやって見ないようにしているらしい。


「こちらの可愛いお嬢さんは?」

「親戚です。祖父が社会勉強にと」


 苦笑いしながら添田君は姫香さんを紹介する。

 これも事前に用意していたセリフだ。もちろんお祖父さんには了承を取っている。


鏡花キョウカと言います。シャイなのでこのようになかなか喋らなくて」


 添田君のお祖父さんは泉鏡花という作家が好きらしく、姫香さんが出席者として潜入するための手続きを作るときにこの偽名にしたらしい。本当は男の作家みたいだが。

 僕的には可愛らしい名前だと思っているのだが、咲夜さんはあまりその名前が好きではないらしく渋い顔をしていた。


「このような場所は緊張するで、しょう? 私も最初はそうでした」

「そうですか」


 よしよし、ここまでは打ち合わせ通り。

 会話が軌道に乗ってきて添田君もほっとした様子だ。

 このまま慣れていってもらいたい。


「お酒は? 少し酔えば気も楽になりますよ」

「喉を通らなくて」


 酔って大変なことになる人もいると思うのだが。

 まあ社交儀礼みたいなものだ。深く気にすることはない。


「それは大変だ。まだ開場の挨拶も始まってないのに疲れるれしょう」

「ええ、はい」


 そういえば開場は何時だろうか。そろそろ始まってもいいと思うんだけどな。

 なんだかステージ周辺がざわついているような気がするが。

 主催が寝坊でもしていたりして。


「もし辛いようでしたら、あとでこの会場を出て突き当たりの部屋に来てください」

「救護室を使うほどでは…」

「いいえ、仲間が緊張を和らげる薬を持っているんです。分けるように話しておきますから」


 一瞬皆が固まった。


昼間にもう一度更新します

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