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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
五章 シークレットパーティー
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十一話『毒見』

 添田君の横に姫香さんが並び、僕たちも後に続く。

 エレベーターは一組だけしか乗れないらしい。他の参加者と密室で気まずい思いをさせないための配慮だろうけど時間の無駄だと思ってしまう。

 しばらく待ち、順番が回ってきたので乗り込んだ。


 ぐんぐんと上がる回数を眺める。

 添田君が額に浮いた汗を手の甲で拭った。


「上手く喋れるでしょうか…」

「あんたなら大丈夫だ。誘拐されたときと比べれば楽勝だろ」

「なんだろう、比較対象がおかしい気がします…」


 少なくとも命の危険はない。

 録音された女性の声で階層が告げられ、カゴが停止する。

 深呼吸をして添田君は自分の頬を叩いた。その後ろで僕も気を引き締める。


 ゆっくりと開いた先に受付があった。

 添田君と姫香さんは招待状を手に近寄って行きサインをした。ちなみに彼女は親戚ということになっているので偽名だ。昨日さんざんサインの練習をさせられていた。

 手続きが終わると、僕たちは会場に案内された。



 想像した以上に広い。掃除するのが大変そうだと真っ先にそんなことを考えた。

 あちこちにテーブルが点在し、その上には豪華な料理が並べられている。

 立食形式ビュッフェか。その方が話もしやすいもんな。

 すでに参加者は集まっていてそこかしこであいさつや儀礼的な会話が聞こえる。


 僕と咲夜さんは姫香さんの後ろにつく。なめらかな背中がサングラスをかけているのに眩しい。

 一応チーム分けはされているのだ。

 以下回想。


『添田青年は俺とモモ。ヒメにはサクとツル。だが基本的には一緒に行動する感じだ』

『了解です』

『はい」

『サク、この二人をちゃんと見張ってろよ。一番つらい仕事を押し付けてすまない』

『分かりました。がんばります』

『ちょっと待ってください。なんでそんなに僕たちは信用がないんですか!?』

『ヒメは目を離すとすぐどっか行くし、ツルは目を離すと誰か殺してるじゃねえか』

『いや僕そこまで殺人マシーンじゃないんですけど!?』

『胸に手を当てて最近あったことをよーく考えてみろ』

『ごめんなさい』


 回想終わり。苦い思い出しかなかったぞ。

 まあ、僕が「勝手に死体を増やす」ことにのみ言及しているあたり、あたり所長もだいぶ頭がおかしいというか。殺人は全世界で違法行為です。


 僕はあたりを見回す。

 そこまでみんな料理を食べたり酒を飲んでいないなと思っていたが主催の音頭待ちらしい。

 まあこんなところでがっつく人間もいないとは思うが。

 それに――こんなところでは食欲もわかない。


 くさいな、と思う。

 香水、アルコール、汗。それだけではない。

 濁り澱んだ感情のにおいまでが鼻腔に漂ってきそうだ。

 元々そういうことに敏感なのかそこかしこに散らばる作った笑顔が気持ち悪い。その裏は一切笑ってないはずだ。

 本心を隠すことは悪くない。

 だけど、どうせ隠すなら完璧にしてほしい。仮面を被っていることを分からせては意味はないだろうに。


 そんなことを思っているとウェイターが笑みを湛えて近寄ってきた。

 手に乗せたお盆にはいくつかグラスが並んでいる。


「いかがですか?」


 にこりと笑って差し出されたものだから姫香さんはグラスを一つ手に取った。

 ほとんど何も考えず受け取ってしまったのかウェイターが立ち去った後も口に付ける様子はなく、じっと液体を観察していた。


「…姫香さん、お酒飲めるんですか?」

「分からない」


 過保護の義兄が飲まさせてくれないんだろう。

 添田君も同じものを持っているのを見て咲夜さんはグラスに触れる。


「毒見します。度数が高かったらやめておきましょう」

「咲夜さんは酔わないんですか」

「はい。ただ視界が歪むのであまり飲みたくはないですね」


 それ酔うって言わない?

 ツッコもうとも思ったけど僕は大人なのでぐっと我慢した。咲夜さんはたまに対応のしにくいボケをする。

 グラスを揺らし、底に何もない事を確認している。そのまま入れるなどして杜撰ずさんな方法で薬が混入されていたなら濁るなり底に溜まるなりしているはず。

 飲み会シーズンで言われている、『色のついた飲み物には気を付けろ』というのは不透明な液体だと薬を入れられても気づかないからだ。所長にいたずらで漢方薬ぶち込まれたときは臭いで気付いたけどな。

 きっちりばれないように薬を入れられているのなら初見で対策のしようがないけどね。だからまず咲夜さんが毒見をすると言いだしたのかな。


 口に含み、舌の上でしばらく転がしたのちに一つ小さく頷いた。

 しびれや苦みはなかったようだ。遅効性もあるけど疑いだしたらキリがない。ウェイターの顔は覚えたので何かあったら探して話を聞けばいい。


「どうだ」

「そこまで強くはありません」


 所長はその答えを聞くと添田君の方を向いて顎を引いた。


 姫香さんはグラスを返してもらい、ちろりと表面を舐めた。

 さっき咲夜さんが口をつけたところと同じ位置で。本人たちは気にしてないけど間接キスだ。

 僕が毒見しておけばよかった…!

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