表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
五章 シークレットパーティー
122/278

八話『ズダァン!』

「さて。依頼を請けてもらったところで――藤岡」

「はい。これが今回マークしていただきたい人間です」

「へぇ、アナログなんですね」

「USBでも良かったのですが。そんなことしたら怒っていたでしょう?」

「怒髪天でした」


 ファイルに入れられた書類を受け取った百子さんの棘のある言葉を、藤岡さんがのらりくらりと交わす。

 見た目でイメージしていた、ちょっとしたことでキレるタイプではないのか。


 ちなみに用事があると言って咲夜さんは外に出ている。

 手にはスマホを持っていたので大方おおかた彼女が所属している場所と連絡しにいったのだろう。咲夜さんはこことは別にもう一つ勤め先があるようだが、ちゃんと教えてもらったことはない。

 あっさりと内部情報を流してもいいのかと気になるけど今のところ邪魔は入ってきたことはないので本当に報告だけなのかも。


 なにか流血沙汰になりそうな依頼の時には報告を絶対にしないといけない、らしい。

 百子さんを救出するときは連絡せずに行ってしまったためエラく説教を食らってしまったと姫香さんに漏らしていた。(基本的に姫香さんは聞き手に徹するので話がしやすい。)

 武器ナイフの提供もしてもらっているそうで、なんでそんなバックがいながら咲夜さんは探偵事務所にいるんだろうな。七不思議のひとつである。


「そういえば」


 渡会さんが思いついたように所長を見る。


「城野、まともなスーツを一着でも持っているか?」

「え?」

「『え?』じゃなくて。どうなんだ」


 いきなりそんな質問をされて驚いたようだが、彼はすぐに答えた。


「一応葬式用と礼式用を一着ずつ」

「それを買ったのは?」

「洋服の赤山」


 ズダァン!と白紙の小切手がソファとソファの真ん中にあるテーブルに叩きつけられた。

 添田君が驚いて肩を跳ねあがらせた。かわいそう。


「お前、個人経営で対人商売なのにろくなスーツもないのか!」

「はぁ!? なんだよ、ダンヒルとかアルマーニでも買えってか!?」

「それぐらいのものでもいいぐらいだ! 信用が売りだろう探偵は!」

「んなこと言われても金はないし零細事務所にそんな期待かける奴いねぇし、クソ上司なんて夏はアロハシャツでしたけどねぇ!」


 アロハシャツだったのかよ。

 この事務所に服装の規則はないが、百子さんと咲夜さんはブラウスで僕はワイシャツを着用している。所長も今日みたいなあらかじめ来客が分かっている日はそれなりにまともな格好をする。

 姫香さんだけがゴスロリという服装だ。今までの来客で少なくとも目の前で苦言を漏らす人はいなかったが――でもブラウス姿は拝んでみたい今日この頃。エロいと思うんだ。絶対。


城野アレ城野アレだから許されたんだろう」

「それもそうか」


 納得してしまうのか…。


「靴は?」

「ちゃんとある」

「どこで買った奴だ」

「さっきと同じ系列のAKAKI」


 ズダァン!と白紙の小切手がもう一枚テーブルに叩きつけられた。

 添田君がひっくり返りそうになった。かわいそう。


「そうだな、そういうのって学校で教えてくれるものじゃなく、親あたりからおしえてもらうものだからな…」

「可哀想な目で見るのはやめてくれ」

「いいか、さすがにこっちも限度額はあるが――とにかくまともなスーツと靴を揃えろ」

「なんで…」

「そこの青年に恥をかかすつもりか? 目が肥えた連中ばかりが集まるパーティーで、しかも新顔だ。まず値踏みをされるに決まっているだろう」

「ええ…」


 添田くんだけでなく、ボディーガードにまで目が行くと。

 想像以上に気疲れしそうなところだな。

 考えるだけで陰鬱な気分になってくる。僕には向いていない。


「とりあえずお前の分だけは出してやる」

「本当にいいって…自分で買いますから」


 渡会さんは無言のまま立ち上がった。藤岡さんも慌てて荷物をまとめる。

 所長とすれ違い様に肩を叩く。


「スーツ代と給料分はきっちり働いてくれることを祈るぞ」

「…あのな、何度も言うがそういう態度はやめろ。俺とあんたは探偵と警察、利害の一致で動いているんです。それ以上の関係ではないのでは?」

「寂しいことを言うなよ」


 苛立つ所長とは正反対に、確かに渡会さんは寂しそうな顔をしていた。

 あれ。先代所長の腐れ縁がそのまま所長に引き継がれたと思っていたんだけど、違うのかな。

 もちろんそんな疑問を馬鹿正直に聞くわけにはいかず、僕らは黙って二人の背中を見送った。


 入れ違いに咲夜さんが帰ってきた。指で小さいマルを作る。大丈夫だったらしい。


「…あの、僕も何か…」


 おどおどと添田君が言いかけて、所長が首を振る。


「あれは特別だから。それよか自分のことに金をかけるべきだろ、主役」

「うう…」


 胃が痛そうだ。そりゃあ散々怖い話を聞かせられたらそうなるか。

 タイミングが悪かったとしか言えない。


「それで、誰がパーティー会場に行くんですか?」


 僕あたりは待機だろう。

 そんなにマナー詳しくないし。


「全員」

「え?」

「当たり前だろ。二つ依頼をこなすんだから全員じゃないと手が足りない」


 えっ。僕、スーツないんだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ