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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
五章 シークレットパーティー
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六話『ハック』

「麻薬? なんだそれ、じゃあドラッグパーティーってことか」

「ひぇっ…」


  所長の不躾な発言に添田君が涙目になった。

  なんだか見ているだけで気の毒になってきたな。


「いいえ。あくまでもそれは裏の目的です。麻薬などと縁のない人間にとっては単なる社交界でしょう」

「シロとクロが混在しているのか…それもそれでめんどくさそうだな…」


 社交パーティーが表の顔だったとして、それはカモフラージュなのかも重要だ。

 主催者は間違いなくクロ…いや、どうだろう。気付かないところでなされているのかな。

 でも自分の開催したパーティーの異変に気付けないのも問題ではある。


「とりあえず、とっつかまえろって言うんだな?」


 思考を完全に放棄した脳筋丸出しの答えを出した。即座に渡会さんの駄目出しが入る。


「早とちりすぎだバカ。そんなことしたら城野、お前は速攻で社会的につぶされるぞ」

「…なんで」

「あっちには地位も名誉も金もある。対するお前はどうだ? ただの一般人だ」


 うーん、所長はもう一般人とは言い切れないけどね。

 事務所の特性となりつつある暴力面を除けば、確かにただの一般人だ。圧力をかけられればすぐ潰れてしまうだろう。


「不都合なら雑作もなく消されるだろうよ」

「わーったよ、分かりました。考えが軽率でしたすいません! なら、俺は何すればいいんだ」


 所長、その口ぶりだともう依頼を受けるって言っているも当然ですよ。

 指摘しようとも考えたが渡会さんがそこから上手く転がして結局参加の流れにし、所長に恨まれる流れが見えたのでやめる。みだりにこの二人の会話に混ざらないほうがいい。


「数人のターゲットがいる。そいつらを見張っていればいい」

「は?」


 拍子抜けするほど簡単な内容だった。

 身構えていた所長もその言葉に肩透かしを食らったようだ。


「そんなもん俺らである意味はないだろ。こういう時に国家権力使わないでいつ使うんだよ」

「情報が漏れていたんです」


 藤岡さんが苦々しげに口をはさんだ。

 全員の視線が彼に集まる。銀縁の眼鏡を押し上げ、言いにくそうに続けた。


「十人ほどで潜入チームを作り、会場にて麻薬取引をしている人間や売人をマークする手はずでした。しかし――ハックされましてね。顔写真などの情報を抜かれました」

「ハック?」


 これには百子さんが反応した。

 実家が諜報部、本人も機械に強い彼にとっては聞き捨てならないことだったのだろう。

 珍しく険しい顔を作り低い声で尋ねる。


「物理的にではなく? それも問題ではあるけれど」

「違います。ネット経由で取られました」

「…パソコンを、ネットにつないでいたんですか? そんな大事な情報を?」


 直訳すると「馬鹿じゃねぇの」ってなりそう。


「仰りたいことは分かります。ローカルならばまずそんなことはあり得ない。

 だが職員が――危機感なく、一時期ネット接続してあるパソコンに情報を入れてしまっていたんです」

「嘘でしょう…? しかも重要データを移動させた? 盗んでくれっていっているようなものじゃない」

「モモ、責任者はここにいないんだからキレるのはやめてくれ」


 さらに珍しいことに所長がストップをかけた。

 担当する分野が正反対のためか、どちらかが熱くなってももう片方は冷静という安定したコンビだな。

 信じられない、社内教育はどうなっているんだ、とブツブツと漏らしながら百子さんはしぶしぶ引き下がった。百子さんの前でパソコンクラッシュとかしないようにしよう…。


「とにかく、情報は漏れた。で? その十人以外にも動けるのはいるだろうよ」

「すべてベテランの人間でした。それほどにこの計画は重要なものだったんです」

「おい…」

「重要なのにデータをもごもご」


 文句を言おうとする百子さんの口を所長が塞いで先を促す。


「残るのは経験の浅い者たちばかりです。リスクが高すぎる」

「だからってなぁ…俺たちに期待されても」

「さらに捕捉をしようじゃないか、城野。このパーティー、一体どこの誰かは知らないが警察の人間も一枚噛んでいるようだ」

「またかよ!?」


 殺人動画(スナッフムービー)の時といい、趣味の悪い人間ばかりだ…。

 まあたまたま発覚したのが警察そこだったというだけで、大きな組織ならば理解できない趣味を持つ人たちだって何パーセントかはいるだろう。

 それでも市民の味方をする以上ちゃんとはしてほしいけどね…。


「だから先ほど椎名が切れていたハックのことだってもしかしたら誰かが意図的にしたか、外部から指示を出されたかもしれないぞ」

「渡会さん、それは…」


 藤岡さんも初耳だったのか目を剥いている。


「あくまでも可能性の一つだ。よそには言うなよ」

「さすがに言えませんよ…。内部の人間の不祥事なんて…」

「…どのようなことであれ、このハッカーは手強いぞ。IPアドレスは乗っ取られたもので、そこからも転々と偽装されたり消されていて全く犯人にたどり着けない。それだけでも気味が悪いだろう」

「その手練れが奪ったのはたった十人の情報だけってことですか? 確かに気味悪いかな〜…」」


 そこまでしときながら、したことは少ないデータを掠めとっただけ。

 ――どうにも宣戦布告みたいな気がしてならない。

 ただのお遊び感覚だと。本気を出していないだけだと。

 …いや、これは考えすぎか。


 だから、と渡会さんは言う。


「下手すると組織(ウチ)に裏切り者が存在する可能性がある。よって裏でコソコソしなくてはならなくなったわけだ」

「まるで俺たちをゴキブリみたいに言ってくれますね」

「敵からしたらイレギュラーもイレギュラーな奴らを入れてしまえば、対策の取りようもないだろう?」


 確かにそうだけど。

 僕らが被る被害を考えているのかこのおじいさん。


「おいツル、あのジジイの顔を潰してみないか」

「僕まで巻き込まないでください」

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