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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
五章 シークレットパーティー
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三話『目線ぐるぐる』

 扉の向こうの相手は渡会ワタライさんだった。

 お年を召した男性。警察の偉い人。

 そして、いとも簡単に――と、一口では言えないが――僕らに殺人を依頼してきた人。

 色んな事情があってその任務ミッションを遂行してしまったわけだけど。


「今回は他にもう一人いるんだぞ。失礼だとは思わんか」

「アぁ!? 失礼なのはそっちだろうが!? せめてアポ取ってから来いよ!」

「そんなことしたらお前は事務所を休みにするだろう。先代の城野も同じような手を使っていたからな」


 そこに関しては僕もやりかねないと思った。

 ぎりぎりと所長は歯ぎしりをする。図星だったようだ。


「ちくしょう、あのクソ上司…! 切り札を易々と使いやがって…」

「どうせ暇なんだろう。早く開けてくれ」

「どうせとはなんだよ! 忙しいんだよマジで!」


 稚拙な扉越しの言い争いから離脱し、姫香さんは百子さんにジェスチャーでもう二つお茶を用意すべきか聞いた。

 百子さんが肩をすくめ頷く。やっぱり所長が折れると予想しているらしい。


 事務所メンバーは慣れたものだが添田君は明らかに引いていた。

 初見だとこれはどうすればいいか分からなくなるよね。僕も分からないし。


「あの…これはいったい…」

「うん、それは百子さんの方が詳しいよ」

「説明放棄したね~。何の変哲もないケンちゃんの腐れ縁だよ~。いがみあっているだけで根っこは仲良しさんだから」

「は、はぁ。では僕は邪魔でしょうか?」

「本当は正規の方法で約束を取り付けてくれた添田君との話し合いを優先したいんだけど~…強引だし、内容が…」

「なにか妙な依頼を持ってくるとか?」

「勘がいいねぇ。そうそう、そんな感じ~」


 百子さんの言う通り、スケジュール調整を双方で行ってきてもらったのに急な来客を優先するのはとても心苦しい。

 普通の人間ならばそのまま帰らせていただろう。

 だが、相手はただの一般人じゃないんだよな…。そしてその内容もとても人には聞かせられない。


 だって、


「前回みたいに始末しろ・・・・とかではないんだ! もっと楽な仕事だから!」

「ジジイ…!」


 さっと姫香さんと添田君を除いた全員の顔が青くなった。

 渡会さんはきっと他に来客があるとは夢にも思っていないのだ。


「始末…?」


 怪訝な顔をする添田君。

 まずいぞ、触れられたら困るところに触れられてしまった。


 僕が『どうにかできないかな』と咲夜さんに目線を送ると、『私に期待しないでください』と百子さんに目線を送り、『いやあたしに言われても~』と所長に目線を送り、『ヒメ、適当に添田青年に無茶ぶりしてくれ』と目線を姫香さんに送り、『お前は?』と、僕に戻ってきた。

 くそ!

 もう一度最初からやろうとすると全員がさっと目を逸らした。冷たいな!

 でも姫香さんが期待してくれているというならやってやろうじゃないか。ポジティブな思考というものは大切である。


「ちょっと…害虫の始末をね」


嘘は言っていない。

嘘は言っていないぞ。


「へえ、探偵って大変ですね。そのようなことまでしないといけないなんて」


 うっ、無垢な言葉に良心が痛む。

 だけど君までこちら側の世界に引っ張り込む道理なんてないから勘弁してくれ。


「うん…僕もびっくりしたよ…」


 本当にね、世界って思ったより薄暗いんだなって。

 考えるにあの出来事がすべての分岐点だったのではないか。

 違うか。あの一件がなくても百子さんは退職願を出しただろうし、所長は攫われていた。

 分岐されたのは僕の思考かもしれない。


 つらつらと現実逃避めいた考えを弄んでいると所長たちの方にも進展があった。


「もっと楽な仕事ってなんだよ! 砂漠でコンタクトでも探せってか!?」

「さらに簡単だ! パーティー会場に潜入するだけだ!」


 探偵の仕事じゃないんだよなぁ…。

 いや、探し人などだろうか。それなら街の中でやみくもに探すより楽そうだ。


「パーティー?」


 驚いたことに、そのセリフに反応したのは添田君だった。

 彼は気まずそうな表情をする。

 理由を尋ねると、恐る恐るといった風にこんなことを言った。


「もしかして依頼、被ってしまいましたかね?」



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